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比較可能性の確保か、柔軟な運用か ~ガバナンス改革の実質化に向けて①

企業統治分野における唯一の国際基準である「G20/OECD コーポレート・ガバナンス原則」が今年(2023年)、約10 年ぶりに改訂されたという話を、先日のnoteに書きました。

実は、日本でも2023年には、コーポレートガバナンス改革の進展に向けた大きな動きがありました。4月26日に「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム」(以下「アクション・プログラム」)が公表されたのです。

「形式的なコンプライ」ではなく、実質的な対応の進展を目指すため、あえてこの形になった今回のアクション・プログラムは、今後、「施策・検討を順次実施」し、フォローアップ会議で「その実施状況について、随時検証し、追加的な施策等の要否を検討していく」こととされています。

でも、このアクション・プログラムをもって「ガバナンス改革の実質化」はを進めるには色々と課題があるように思います。

以下、アクション・プログラムのうち「サステナビリティを意識した経営」を例にとってお伝えします。


「サステナビリティを意識した経営」推進の施策として記載されていた内容は


アクション・プログラムの項目のひとつに「サステナビリティを意識した経営」があります。ここには以下の施策が記載されていました。


  • 有価証券報告書に新設された人的資本・知的財産・多様性を含むサステナビリティに関する情報開示の枠組みの活用(好事例集の公表)等を通じてサステナビリティに関する取組みを促進する。【2023年~2025年に順次実施】

  • サステナビリティ開示基準策定のための国際的な議論に積極的に参画し、人的資本を中心とするサステナビリティ情報の開示の充実を推進する。【2023年以降継続して実施】

  • 女性役員比率の向上(2030年までに30%以上を目標)等、取締役会や中核人材の多様性向上に向けて、企業の取組状況に応じて追加的な施策の検討を進める。


ICGNのCEOは歓迎のコメントを発表


このアクション・プログラムに対し、International Corporate Governance Network (ICGN) のChief Executive Officerであるケリー・ワリングメンバー氏は以下のように述べていました(日本語訳より)。

ICGNは、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)が、国際基準と調和した国内のサステナビリティ関連の会計および報告の枠組みを開発する取り組みを支持しています。このような 義務的な開示要件の導入は、法令と強制力に裏打ちされた厳格で一貫性があり、比較可能で検証可能な企業のサステナビリティ報告を促進し、投資先企業のサステナビリティ関連のリスク、機会、回復力の適切な評価と価格設定を可能にするのに役立ちます。気候変動に関連して、これは、2050年までにネットゼロの世界経済に向けて前進する際に、企業の移行計画とカーボン・ニュートラルな投資ポートフォリオの達成に向けた進捗状況を評価するためのツールを投資家に提供します。


ICGNは、取締役会と就業者の多様性、および女性の比率を増やすためのイニシアチブに関する日本の企業開示の強化を歓迎します。多様性の概念は性別を超えて広がり、さまざまな国籍、民族、職業的背景、社会的および経済的出自、個人的属性などのさまざまな要因を含みます。また、企業が就業者全体の機会を公正かつ公平に扱うことを保証することを奨励します。つまり、多様性が繁栄し、さまざまな背景や意見を持つ人々が重んじられていると感じられる文化を作り出すことです。

出典:令和5年4月19日「スチュワードシップ・コード及び
コーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(第28回)議事次第

(グローバルに)比較可能で検証可能な企業のサステナビリティ報告を促進すること、そして、日本企業が”グローバル基準”で行動することへの期待が述べられています。


一方、経団連のコメントは…


このアクション・プログラムに対し、経団連は意見書を提出しています。「サステナビリティを意識した経営」に対する経団連の意見は下記のようになっていました。

企業のサステナビリティ開示を促進するうえでの好事例の公表等、企業がサステナビリティ課題へ取り組むうえで参考となる環境整備を歓迎したい。そのうえで、サステナビリティ課題は多様であり、解決に向けたアプローチや評価の手法等について定まっていないものが多いことを踏まえ、企業実態に応じた柔軟な対応を許容することが重要である。

また、各関係者は国際的な議論への参画を通じ、グローバル・ベースラインとなる国際サステナビリティ開示基準の開発において、日本企業の考え方が適切に盛り込まれるよう働きかけるべきである。また、今後本格的に開発が進むサステナビリティ保証基準の分野においても、日本としての意見発信を積極的に行っていく事が重要と考える。

総論としては賛成しつつも、

  • 企業実態に応じた柔軟な対応を許容することが重要

  • 日本企業の考え方が適切に盛り込まれるよう働きかけるべき

  • 日本としての意見発信を積極的に行っていく事が重要

と、比較可能性や検証可能性よりも「運用の柔軟性」のほうをより重視しているように見えるコメントが並んでいます。


日本企業の「ガバナンスの実質化」は進むのか、進むために何が必要なのか


無批判に、従順に「グローバルスタンダード」を受けいれれば良いというわけではもちろんなく、そのために「エクスプレイン」があるのだと理解しているのですが、経団連のコメントにある「柔軟な対応」や「適切に盛り込まれるよう」がエクスプレインのことを指しているとは思えず、彼我の溝は大きいなあという印象です。

サステナビリティ分野全般に言えることかもしれませんが、何か施策や方針を立ち上げること、目標を掲げて取り組みをスタートするところまではできても、それを「実質化」していくことって非常に難しいですよね。

コーポレートガバナンスは、この「実質化」の部分では少なくとも、サステナビリティ諸分野よりもかなり早くスタートし、曲がりなりにも実績を積み重ねてきた分野だと思いますので、ここに注目して考察を深めることは、他分野へのヒントになるのかもしれません。

ということで、しばらくはこのテーマ、追ってみるつもりです。
寝不足が続いており頭が回らなくなってきたので、今夜はこのあたりで。


以上、サステナビリティ分野のnote更新1000日連続への挑戦・60日目(Day60) でした。(なんと、これで約2カ月の間、毎日更新が続いたことになります…感慨深いです)。それではまた明日。



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