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ESG開示に優れた企業がディスクロージャー優良企業に選ばれているようです


1,今日の話題

IR(投資家向け広報)の分野では有名な表彰のひとつに、日本証券アナリスト協会主催の「証券アナリストによるディスクロージャー優良企業選定」があります。

先月(2023年10月)、その29回目の選定結果が発表されました。

実はこの表彰制度の評価基準にも昨年度から「ESGに関する情報の開示」という分野が設けられ、今年はこのESG開示を中心に全体を見直しされたのだそうです。

ということで本日のnoteでは、(ちょっとマニアックにはなってしまいますが)この第29回「証券アナリストによるディスクロージャー優良企業選定」の結果を見ていきたいと思います。


2.まずESG開示への配点を確認すると

評価分野の配点は業種により異なる

この表彰の面白いところは、評価基準となる5つの分野の配点が、評価対象の業種によって異なるという部分ではないかと私は思っています。

以下をご覧ください。

出典:日本証券アナリスト協会資料

(d) ESG関連 の配点は、なんと「15点~40点」まで幅があるんですね。この範囲で、業種ごとにそれぞれどの分野にどれぐらいの配点をするかは「業種別の各専門部会」が決定しているとのことで、このあたりに業界担当アナリストならではの専門性が発揮されているのでしょう。


ESGの配点は30点以上の業種が大半

実際、ESG開示にはどのぐらいの配点がされていたのでしょう。業種ごとの「選定報告書抜粋」を調べて、一覧表を作ってみました。

結果はこんな感じです。(図をクリックすると拡大します)

「自動車・自動車部品・タイヤ」と「商社」で、配点の上限である40点が付されているだけでなく、17業種中13業種が30点以上の配点となっていました。予想以上の高配点です。


3.業種別の1位企業の大半はESG評価1位


表彰結果のほうを見てみても、各業種で1位となった企業17社のうち13社は、ESG開示評価でも1位をとっていました。

今年の「証券アナリストによるディスクロージャー優良企業選定」は、ESG評価の影響力が非常に高かったということができそうですね。

4.ESG評価1位企業が評価されたポイントは


せっかくですので、各業種のESG開示で1位を獲得した企業が、どのような点で評価されたのか、また、課題としてどのようなことが指摘されたのかを調べてみました。

建設・住宅・不動産 

積水ハウス(総合1位、ESG評価1位)

「非財務情報(人的資本を含むESG情報、統合報告書等)の開示のみならず説明に積極的に取り組んでいること」が、最も高い評価となった。「中・長期経営計画の進捗状況、達成のための具体的方策、資本政策、株主還元策について、開示資料に記載のうえ十分説明されていること」は、第2位となった。また、「コーポレートガバナンス・コードの各項目について、進捗状況を含め十分に説明がなされていること」は第3位となった。これらの結果、この分野において第1位となった。これらに関連して、資本政策の開示が明瞭との声があった。

食品

味の素(総合2位、ESG評価1位)

「企業価値の向上につながるようなマテリアリティの設定が行われ、開示されていること」および「ダイバーシティや従業員エンゲージメントなどの人的資本に関する情報および、サプライチェーン上の人権リスクやその対応方針を積極的に開示していること」が共に最も高い評価となった。また、「ESGに関する取組みについて、統合報告書や説明会等を通じて、市場関係者の理解を得るように努めていること」(第2位)も得点率が95%以上となった。さらに、「気候変動問題や生物多様性問題に関して、Scope3を含めた実績および中長期的な改善目標などを定性・定量両面で開示していること」(第3位)も高い評価となったことから、この分野において第1位となった。


化学・繊維

三井化学(総合1位、ESG評価1位)

環境(E)関連のマテリアリティを策定・開示し、中長期の取組みを適切に開示していること」が最も高い評価となり、「社会(S)に関連する情報を、従業員エンゲージメントや人権リスクなどの人的資本に関するものも含め積極的に開示し、投資家の理解が深まるように努力していること」も同得点1位となった。また、「資本政策、株主還元策等が十分に説明されていること、また、社外取締役を含め、ガバナンス(G)の有効性が示されていること」も第2位となった。これらに関連して、ESG全てにおいて高いレベルの取組みと開示が継続されており、特に人的資本に関する開示が評価できるとの声があったほか、社会課題解決型事業の売上規模を集計・開示し、自社製品によるサプライチェーンのCO2削減貢献量も開示しているとの声が寄せられた。また、社外取締役との対話の機会の設定を評価する声もあった。


トイレタリー・化粧品

ユニ・チャーム(総合3位、ESG評価1位)

中期経営計画や長期ビジョン(例えば目標とするROE等)を公表し、その後の進捗状況・達成のための具体的方策が、十分に説明されていること、また、資本政策、株主還元策等が十分に説明されていること」が第1位となり、「社外取締役を含む取締役の選定理由を説明し、取締役会の実効性が示されていること」も同得点第1位となった。これらに関連して、説明会において経営トップが直接説明していることや、社外取締役自身によるコメントが開示されていることを評価する声が寄せられた。また、「環境に関する情報・定量目標を開示し、中長期的な取組みを適切に開示していること」(第2位)および「社会に関する情報・定量目標を開示し、中長期的な取組みを適切に開示していること」(同得点2位)も共に高い評価となった。これらに関連して、使用済み紙オムツの再生事業に関する説明会は有益であったとの声があった。さらに、本年度の新設項目である「人的資本の活用について、自主的な項目を設定し、その進捗状況を適切に開示していること」が同得点第2位となり、これらの結果、この分野において第1位となった。


医薬品

エーザイ(総合3位、ESG評価1位)

社外取締役の関与も含め、コーポレート・ガバナンスに関する考え方や取組姿勢を十分に説明していること」、「財務情報と非財務情報(環境や社会、人的資本に関する情報を含む)を統合し、中長期的な企業価値の向上につながる開示に積極的に取り組んでいること」および「非財務情報に関する定量的な開示がされていること」の3項目が最も高い評価となった。また、「中期経営計画や長期ビジョンを公表し、その後の進捗状況・達成のための具体的方策が、十分に説明されていること、また、資本政策、株主還元等が十分に説明されていること」(同得点第7位)も昨年度に比べ得点率が改善した。これらの結果、この分野において第1位(昨年度第2位)となった。これらに関連して、ESGデータ集の内容が詳細かつわかりやすいとの声や、ESG説明会の開催や社外取締役との対話の機会を評価する声が寄せられた。なお、今後のサクセッションプランや人材育成についての開示に注目したいとの声があった。


鉄鋼・非鉄金属

神戸製鋼所(総合1位、ESG評価1位)

「経営陣のESGに対する取組姿勢」は同得点第1位、および「ESGに関する情報開示」が第1位となった。これらの結果、この分野において第1位(昨年度第3位)となった。ディスクロージャー面ではカーボンニュートラルへ向けた低炭素鉄源に関する取組みの開示及び説明などを評価する声があった。


電気・精密機器

オムロン(総合1位、ESG評価1位)

5項目すべてにおいて最も高い評価となり、いずれも90%以上の得点率であった。これらに関連して、ESGに関する開示内容は充実しており、KPIの設定についても評価できるとの声や、セグメント別にサステナビリティの目標と実績が開示されていることを評価する声が寄せられた。

なお、上述の「5項目」は下記の通り。

  • (a)  気候変動問題に関して、温室効果ガス排出量の実績、中長期的な削減目標などを定性・定量両面で開示していますか

  • (b)  ダイバーシティや従業員エンゲージメントなどの人的資本に関する情報および、サプライチェーン上の人権リスクやその対応方針を積極的に開示していますか

  • (c) 上記(a)(b)に限らず、各企業が重要と考えるESGに関する情報を積極的に開示していますか

  • (d) 資本政策、株主還元策が十分に説明されていますか

  • 上記(a)~(d)のESG情報を、統合報告書に一括して、詳細に記載していますか


自動車・同部品・タイヤ

ブリヂストン(総合1位、ESG評価1位)

「脱炭素に向けた長期ビジョンや、中期ロードマップなどを定性・定量両面で開示していること。また、適切にアップデートしていること」および「脱炭素に限らず、ESGに関連する情報を積極的に開示し、投資家の理解が深まるように努力していること(社会に関する情報、人的資本など)」が共に最も高い評価となった。「資本政策、株主還元策等が十分に説明されていること。また、社外取締役を含め、ガバナンスの有効性が示されていること」も同得点第1位となった。これらに関連して、ESGへの意識やビジネスモデルを積極的に情報開示しているとの声や、脱炭素、ESG情報の開示内容のレベルも高いとの声が寄せられた」


エネルギー

出光興産(総合1位、ESG評価2位)
※ESG評価1位のENEOSホールディングスの詳細説明がなかったため、ESG評価1位の出光興産を掲載しています。

「コーポレート・ガバナンスに関する開示」が同得点第1位となり、「目標とする経営指標、資本政策、株主還元策等に関する開示」が第3位となった。これらに関連して、ROEや株主還元目標の設定や、キャッシュフロー配分方針を評価する声が寄せられた。また、「非財務情報(ESG情報等)に関する開示」(2項目)については、人的資本等の社会分野の項目が第2位、気候変動問題等の環境分野の項目が第5位となった。これらに関連して、統合報告書の内容が充実しているとの声や、GHGプロトコルに沿った目標の設定を評価する声があった。また、ESGトップセミナーの開催を評価する声もあった。これらの結果、この分野において第2位(昨年度第5位)となった。


運輸

日本航空(総合1位、ESG評価1位)

経営の重要課題(マテリアリティ)に関連する項目が最も高い評価となった。また、ダイバーシティなどの人的資本に関連する項目が第2位、気候変動問題に関連する項目が第4位、ガバナンスの実効性に関連する項目が同得点第4位となった。これらの結果、この分野において第1位となった。これらに関連して、気候変動問題に関して、その取組みと適宜のアップデートを評価する声があった。なお、CO2対応を今後どのように経営計画に織り込み、説明するのかに期待するとの声もあった。


通信・インターネット

日本電信電話(総合1位、ESG評価1位)

E(環境)・S(社会(人的資本を含む))に関する取組み」が昨年度に続き最も高い評価となり、「コーポレート・ガバナンスに関する開示」も同得点第1位となった。また、「資本政策、株主還元策の開示」が同得点第2位に、「目標とする経営指標等の開示」が第3位となった。なお、中期経営戦略において設備投資の内訳や多様な利益目標等があればさらに理解が進むとの声があった。


商社

三井物産(総合1位、ESG評価1位)

社外取締役と株式市場の間で理解が深まるような取組みをしていること」が最も高い評価となった。また、「重視する経営指標(例えば、ROE、リスク・リターン指標等)とその目標、それを採用する理由、目標達成のための具体的方策および進捗状況が十分に説明されていること。また、ROEの改善に向けた資本政策、株主還元策に対する考え方が十分に説明されていること」も同得点第1位となった。これらに関連して、資本政策、株主還元策に関する考え方が整理されておりわかりやすいとの声や、累進配当制度、総還元性向目標の設定を評価する声が寄せられた。環境に関する項目および社会に関する項目については、共に第2位となった。これらに関連して、ESGに関する情報開示は特に充実しているとの声や、人的資本関連の開示が優れているとの声があった。


小売業

丸井グループ(総合1位、ESG評価1位)

5項目全てが最も高い評価(同得点第1位を含む。)となり、いずれも90%以上の得点率であった。これらに関連して、中長期の経営計画の継続的な説明や、資本政策、ESGの取組みなどの説明を評価する声が寄せられた。また、人的資本への投資等の説明が充実しているとの声もあった。

なお、上述の「5項目」は下記の通り。

  • (a) 企業価値の向上につながるようなマテリアリティの設定が行われ、開示されていますか

  • (b)  ESGに関する十分なデータ、目標達成に向けての具体的な戦略、および進捗状況が開示されていますか

  • (c)  ESGに関する取組みについて、統合報告書や説明会等(社外取締役との対話を含む)を通じて、市場関係者の理解を得るように努めていますか

  • (d)  ダイバーシティや従業員エンゲージメントなどの人的資本に関する情報および、サプライチェーンの環境・人権リスクやその対応方針を積極的に開示していますか

  • (e) 中期経営戦略や長期ビジョンを公表し、株主還元策や資本政策(資本コスト・リターン)、経営目標等を具体的かつ納得性の高い数値で示していますか


銀行

三菱UFJフィナンシャルグループ(総合1位、ESG評価1位)

全8項目のうち7項目において、第1位または同得点第1位となった。特に、「環境・社会に関する情報開示」の3項目は、いずれも85%以上の得点率となった。これらに関連して、MUFGトランジション白書の発行などESGの取組みに関する情報開示がさらに積極的になったとの声や、ESG説明会は定例のもの以外にも随時実施していることを評価する声が寄せられた。また、説明会資料、統合報告書ともに人的資本に関する取組みの記載が充実しているとの声もあった。

なお、上述の「8項目」は下記の通り。

  • (a) 資本政策、株主還元策が十分に説明されていますか

  • (b) 中・長期経営計画(ROEなど目標とする経営指標等)を公表し、その後の進捗状況・達成のための具体的方策が、十分に説明されていますか

  • (c) コーポレートガバナンス・コードの各項目について、進捗状況を含め十分に説明がなされていますか

  • (d) 社外取締役の関与について、実効性も含め、十分な開示と説明がなされていますか

  • (e) 環境に関する情報・定量目標を開示し、中長期的な取組みを適切に開示していますか

  • (f) 社会に関する情報・定量目標を開示し、中長期的な取組みを適切に開示していますか

  • (g) ESG関連の説明会を開催していますか。また、それは充実していますか

  • (h) 人的資本に関する情報開示は十分になされていますか


保険・証券・その他金融

東京海上ホールディングス(総合1位、ESG評価1位)

「目標とする経営指標等」(第1位)および「資本政策、株主還元策の開示」(同得点第1位)が共に85%以上の得点率となった。これらに関連して、資本政策、株主還元方針が明確であり、予見可能性が高いとの声があった。「コーポレートガバナンス」の2項目は共に昨年度と同得点率であった。「E(環境)・S(人的資本を含む社会)に関する情報開示」(2項目)については、Eに関する項目は同得点第1位となり、Sに関する項目は第2位となった。これらに関連して、ESG関連の情報は充実しており、アップデートも適宜に行われているとの声があった。

ITサービス・ソフトウェア

野村総合研究所(総合1位、ESG評価1位)

「ESGに関する情報の開示」が最も高い評価となり、「目標とする経営指標等」も同得点第1位となった。「資本政策、株主還元策の開示」は第3位となった。これらに関連して、統合報告書、ESGデータブックの内容を評価する声があった。また、課題解決と事業成長との関係を説明しようとする姿勢を評価する声も寄せられた。


広告・メディア・エンタテインメント

リクルートホールディングス(総合1位、ESG評価1位)

4項目のうち3項目が最も高い評価となった。「価値創造プロセスおよび経営の重要課題(マテリアリティ)の設定が行われ、開示されていること」(第2位)についても90%以上の得点率となった。これらの結果、この分野において第1位となった。これらに関連して、ESGデータやレポートで関連数値や取組みなどが詳細に示されているとの声や、ESGに特化したセッションを定期的に開催していることを評価する声が寄せられた。また、統合報告書の内容の充実を評価する声もあった。


以上、サステナビリティ分野の仕事についたばかりの私の「1000日連続note更新への挑戦」26日目(Day26)でした。

この情報発信がESG情報開示を充実していく上でなんらかの助けとなれば、SDGsの進展につながるのではと期待しています。

それではまた明日。



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