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“メタバース空間で働く”を始めてみた

近ごろ「メタバースの終わり」的な記事を目にすることが増えた。メタバース万能論者たちが起こるはずもない未来を熱く語る狂信的なブームが過ぎ去ったので、逆に今がちょうど良いタイミングかな?と思い、先月からメタバース空間上で「完全紹介制のバーチャル・コワーキング・スペース」を始めてみた。

テクノロジーが好きな人は派手な”3Dメタバース空間”を好むけど、そもそも仕事をするのに派手な3Dは必要ない。「会議室にたどりつけずに〇名遭難した…」みたいな話さえ聞く。そんな場所で仕事をできるはずがない。笑

むしろ仕事をするための空間としては、子どもの頃から慣れ親しんだドラクエくらい簡素な方が使いやすい。そんな訳で、ドラクエ的メタバース空間にアバターを置いて仕事をしてみることで、何が起こり始めたかを今日は書いてみたい。


スペースを開設するに当たって、「共創から場所と距離の制約をなくす」というミッションを掲げた。それに賛同してくれたからというより、単に「おもしろそうだから」が理由だと思うけど、ドラッカーを共に学んできたコミュニティのメンバー7~8名が、スペースに入居し常駐してくれるようになった。

いまのところメンバーは全員、中小企業の経営者か個人事業主。私は全員と面識があるけど、メンバー同士は初対面の人もいる感じ。

メンバーはみんな、いつも通りの場所で働き、PCを開くときにブラウザのタブでスペースにログインする。音声やビデオで会話することもあるけど、普段はチャットで「おはよう」や「お先に失礼します」の挨拶をし、互いの仕事を邪魔することはない。裏でタブを起動させてはいるけど、ずっとそれを見ている訳でもない。

しかし人間というものは、空間と関係性を与えられると、不思議とその場に適応しはじめる。そこにコミュニティが存在し、自分と仲間の存在を感じるようになるのだ。誰かが出張などで2~3日いないと「なんか寂しいですね~」のような会話が自然と生まれるようになっていった。


もともとこのスペースは、P.F.ドラッカーが言う「知識社会」に必要なコミュニティ・プラットフォームとして構想している。

私はむかしEC事業の責任者として働いたことがあり、13年前に起業した頃はネットショップの支援をやっていたので、従来型のECでは「知識」というポスト資本主義社会の中核的な資源を扱えないことを熟知している。昨今のメタバースブームの失敗は、そもそも従来型のECの方が親和性の高いサービスをブームに乗って無理やりメタバース上に載せようとし、そのうえ投機的な方向に走って短期の利得を目指したことで、一過性の動きにしてしまったことが一因だ。

私が思うメタバースの価値は、コミュニティ形成による知識と知識の結合、すなわち知識の生産性向上にある。われわれのスペースの価値は、これを「共創」によって生み出すこと。逆にこれが出来なければ価値はない。

経営的にはスペース入居者が増えてくれる方が助かるのだけど、そもそも今くらいの互いの顔が見える人数で共創が起こらないならば、大人数では絶望的だ。今のうちに何かヒントを得ておきたいと思い、この1か月はメンバー募集的な話をほとんどせずに、「どうすれば共創が生まれるのか?」のヒントを探していた。


1か月間スペースを観察し続けて、「共創」が起きる条件としていま時点で分かっていることは3つある。

1.共通の言語や文化を背景にしていること
2.欲しい情報を自ら取りに行くこと
3.実現したいことが明確であること

<1.共通の言語や文化を背景にしていること>
これに関しては、実はスタート以前からドラッカーの学びを通じて分かっていることだった。たとえば中小企業において「成果」という言葉が意味するものを揃えておくと、チームワークや相乗効果が生まれやすくなる。

<2.欲しい情報を自ら取りに行くこと>
ある日メンバーの一人が「スペースのみなさんに、自社の商品開発について意見を聞いてみてもいいですか?」と聞いてきた。試しにスペース内に掲示板を作って意見募集してみると、次々に意見が集まっていった。自分が仕事を行う上での情報ニーズを理解してもらうことの重要性を、改めて感じさせられた。

<3.実現したいことが明確であること>
このスペースの構想を考える以前からスタートしていた、事業戦略とイノベーションについて考えるグループコンサル型講座が、ちょうど3月で1クール終わった。その講座を受講した方の実現したいことが明確になるにつれ、スペースで新たな研究会を始めようという動きが起こった。


上記3つの条件のうち、2番と3番はスペースを運営し観察しているうちに発見した「予期せぬ成功」だった。こういう発見を積み重ねて、いずれ仕組み化していきたいと思っている。

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