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Web3.0を「脱GAFA」や「脱中央集権」、「数字」で語るのをやめてみるという話

だいぶ粗々突貫工事な内容ですが、ちょっとした頭の体操に。図が雑。


概要

「Web3.0」という言葉が新しいビジネスや「脱GAFA」や「脱中央集権」、新しいビジネスが及ぼす経済効果の期待として語られるものの、実際の見通しは不確かな状況である。
一方でパブリックブロックチェーン上の暗号資産およびトークン(クリプト)は、既に個々人の間で価値の移転を可能にしている。本稿では、クリプトのケーススタディを参照しながら、クリプトの技術とデジタルネイティブ世代のツールを活用したグローバルで高速なコミュニケーション速度が合わさり、人々によるプロジェクトの協業、価値移転による交流を通じて特有の個と個の繋がりが生じていることを概観した。

個と個の価値の移転としてのWeb3.0
いらすとやとStable diffusionは偉大

はじめに

「Web3.0」という言葉が起業家だけでなく政治家や省庁の間でも語られるようになった。日本は暗号資産を保有する個人や法人の税制、ベンチャー企業の投資等の環境が厳しいため、これらの改善のために政治・官僚機構での議論に挙がることは非常に前向きなことだ。数年前は見向きもされなかったのだから驚くべき変化である。

デジタル庁事務局 説明資料資料, https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/31304f21-d56a-4d15-b63e-3b9ef1b96e38/b219408f/20221005_meeting_web3_outline_03.pdf

70 次世代インターネットとして注目される概念。巨大なプラットフォーマーの支配を脱し、分散化されて個と個がつながった世界。電子メールと
ウェブサイトを中心としたWeb1.0、スマートフォンとSNSに特徴付けられるWeb2.0に続くもの。

同上 https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/31304f21-d56a-4d15-b63e-3b9ef1b96e38/b219408f/20221005_meeting_web3_outline_03.pdf,P3

上記はデジタル庁の資料である。「Web3.0」という言葉が新しいビジネスや「脱GAFA」、「脱プラットフォーマー」への期待として語られる。しかしながら、"数字"や"アンチテーゼ"の文脈で語ることは同時に、"期待される産業規模"という数字で語られること、"今の生活から如何にして人々の生活をこれ以上便利にさせるのか"という理論が求められる。

本稿では、Web3.0をビジネスや「脱GAFA」、「脱中央集権」、「組織形態(株式の変化、会社の在り方etc…)」、「トークン"エコノミー"」という"数字"や"アンチテーゼ"という切り口からでなく、暗号資産を取り巻く体験について具体的なケーススタディごとに着目し、既にこの技術が、人と人との繋がりに僅かながらも及ぼしている変化を捉えることを試みる。
ジネス以前の根源的な価値を定めることは、環境改善をするうえで求められる民意や、国策という"国民の生活に資する"という大義名分への後押しになるかもしれない。ビジネスから着目を集めつつ、意義が改めて問われたタイミングで根源的価値に立ち返り、そのような価値観を下支えに虎視眈々と環境整備を目指す。

なお、web3erではないという人々にとってはクリプト(暗号資産のユーザーによるこの分野への愛称。暗号学の方々にとっては抵抗があるかもしれないが、"Web3.0"よりもユーザーの生の目線に感じられる。)と読み替えても本稿は成立するかと思う。

クリプトおよびトークンの送受を通じて起こなわれている出来事

いくつかのケーススタディを参照し、クリプトおよびパブリックブロックチェーン上で発行されるトークンが人々にもたらしている変化を捉える。

Bitcoin

暗号資産が達成するという"Web3.0"について様々な言説が語られている。まずは暗号資産の原点であるビットコインの論文からその思想に立ち返る
ビットコインは、既存の金融機関が不可逆的な取引を実現できないことにより生じているコストを課題として捉え、既にあったマイニングなどの技術を組み合わせ、暗号技術、数学、経済合理性など要素を掛け合わせることで、金融機関のような特定の第三者の介在コストをなくしたオンライン決済を実現することを目的として世に生み出された。

過去にはビットコインの送金利用には取引の検証時間に10分を要するため、日常利用は難しいという見解が一般メディアでも多くなされていた。しかしながら送金は、ー銀行を間接的にしろ通じた国際送金がそうであるようにー 必ずしも即時の着金を求めるものではない。また、2022年ではビットコインのプロトコルの持つ「特定の第三者に依存しない決済ネットワーク」の特性を維持したLightning Networkという技術およびそのアプリケーションの開発が世界で進み、その決済を数秒で完了させることが出来るようになった。

動画:BitcoinとVisaカードの送金速度比較
※速度以外の点でも、クレジットカードには繰り戻し、Bitcoinには少額送金など両者それぞれの利点があることに留意)


ビットコインでの送金がスムーズに利用できるようになったユーザー層は、国際送金を自在に行っている。2022年のウクライナ戦争の勃発時にはビットコイン等の暗号資産で寄付が行われた。暗号資産全体で寄付の開始から一週間で1,200万ドル、最終的に6,380万ドルが集まった。
クリプトに慣れ親しんだ人であれば、EthereumのGitcoinというサービスを通じて、国内外を問わず個人の開発者や日頃有用な情報発信を行うリサーチャーに数千円程度から暗号資産による寄付を行ったことのある人も多いと思う。

このような国際送金が日常化した人々は、銀行国際送金の利用を便利とは感じがたい。
筆者も昔仕事で韓国から10,800円の会費を受け取るのに4,000円が毎年差し引かれるという経験をした。経路間の手数料総額が振込時に振込人には示されないため、差し引かれた額を業者が受け取った後、顧客に金額が足りていない旨を知らせるという工程が必要になる。それを避けたい振込人は、余分な金額を大雑把に振り込むか、禁止されているが現金を直接封筒に入れて船便で送ってくるという手段を取った。Paypalを導入して件数は減ったが、経費利用のために個人のPaypalアカウントを利用できずに銀行送金を選ぶケースは3割程度残っていた。
このような出来事は、グローバルに少額手数料で送受が可能な暗号資産に慣れたユーザーとっては驚くもので、銀行を通じた送金を当たり前にしない人々の不可逆的な変化が見出せる。(銀行送金すべてを代替するものでなく、一部が置き換わる、またはその効率化を敵対的生成する。)
中米エルサルバドルは2021年にビットコインを法定通貨化した。普及には至っておらず課題は山積みであるが、GDPの23%が海外送金だという出稼ぎ型発展途上国の課題感が伝わる。スマホ普及率が高くかつ銀行口座保有率の低いアフリカでは暗号資産利用が増えている。

クレジットカードの手数料は加盟店が負担しているため、顧客からは課題を感じにくいが、実質3.25%程度の手数料を加盟店が負担しているため、それが商品価格含めた全体のコストに跳ね返っている。
電子マネーは日用品の買い物には大変便利だが、グローバルな個々人のやりとりには難しい。

もちろん、パブリックブロックチェーンの世界では銀行送金のような繰り戻しは存在しないため、それによるリスクは一定ある。しかし、世の中に多様な選択肢が設けられており、一定の人々が利用していることは最高である。

Gameなどの様々なサービスと暗号資産

MintGoxというE-Sportsのフェスでは、参加者はメダルゲームや横スクロールアクションゲームを通じて少額(1円未満単位から!)のBitcoinsを稼ぐことが出来る。稼いだビットコインは、同時に開催されているレースゲームで消費することが出来る。QRコードを読み取ると、レース中にアイテムが出現する。ビットコインを通じてレーサーを応援することが出来る。

MintGoxで開催される一つ、メダルゲーム
Bitcoin Rally https://www.youtube.com/watch?v=ruYwVjxtFxw
Pollo feedというサービスを通じてアメリカのニワトリにエサやりをする様子 https://pollofeed.com/

また、稼いだBitcoinはP2P取引をすることが出来る。法定通貨や通貨建資産に比べてアプリケーションやサービス外で"国際的に"自由なやりとりが出来るのは暗号資産ならではの特性だ。
「Pollo feed」というアメリカで飼われているニワトリ小屋にIoTデバイスを組み込んだサービスで、ニワトリにエサを与えて和やかな気持ちになることもできる。
勿論、ウォレットに保管しておき、ブログサービスで記事を購入することや、海外にいる開発者(や、その家族のTwitterアカウントにも)へ寄付することも可能である。大規模な決済機構は存在しないため、少額のやりとりもたやすく行える。

クリプトの世界にどっぷり浸かっている人は日常的に世界各地からもちろんE-mailやTwitterなどの従来のウェブサービスを通じて情報をやり取りし、さらにビットコインのプロトコルそのもの、Ethereumのネットワーク、分散型暗号資産取引所(コードで記述された自動販売機のようなもので、第三者機関や法人に依存せず価値の交換、売買が行うことが出来ると期待されるもの)を使用して、グローバルに24/365でコミュニケーションに価値を組み込むことが出来る。
少額決済についても金額的なインパクトがなく地味に感じられるかもしれないが、町の商店の独自ポイントを集めてしまうように、小さな価値は人を動かす仕組みになる。

DAO(自律分散型組織)、地方

DAOが「新しい組織の形態である」という切り出し方は適切でないかもしれない。そこにいるのは、あるトークンを持つ個と個の繋がりで、それは疎結合で、多大な貢献をするものから、投票も行うことなく端で眺めるもの(眺めてすらいないことも)まで様々な人の繋がりがある。※

再掲)デジタル庁 事務局資料, https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/31304f21-d56a-4d15-b63e-3b9ef1b96e38/b219408f/20221005_meeting_web3_outline_03.pdf

筆者はこのDAO内における繋がりを「資金調達」と直接的に結び付けられる必要はないと考えている。

新潟県山古志村は、地域の特産である錦鯉のイラストをデジタルデータとして埋め込んだトークンをグッズのように販売し、資金調達を行った。資金調達として大きな額ではないが、それ以上に「関係人口の増加」という大きな意味を見出している。
筆者もこの取り組みを応援する気持ちでトークンを入手した。保有者は"デジタル村民"と呼ばれる。これをきっかけに、今まで行ったことのない地域への関心がわき、支援者の集うオープンチャットツール(discord)でその地域の里山の日常の風景、生活の苦労、特産品への知識、民話の伝承など様々な話を聞く機会を得られた。

オープンチャットツール上で交流するデジタル村民
海外への情報発信もボランティアで活発になされている https://docs.google.com/presentation/d/1REf9E-BkUa30FGsH6vPfhnfSkhx7_v573hRCQHJs3qE/edit?usp=sharing

以下は、デジタル村民が実際に山古志村に"帰省"(故郷ではないが、そのような表現が用いられるのが面白い)した際の様子である。


クリプトの価値と価値のやり取りがデジタル上で、地理制限のない交流から始まり、アナログの交流に帰着する。それがデジタルアーカイブとなって共有され、さらに交流を育む。この循環はとても尊いものである。勿論、地域の住民の方々との摩擦を解消するために尽力されている住民会議の方々や、実際に訪問して記録を残してくださるDAOメンバーのボランタリーがあってこその現象ではある。
しかし、日本の各地で、"新潟県は遠いけど○○であれば…"というような期待がある。日本の里山風景は観光業界やジブリ映像の尽力で海外にも届いている。

これらの価値の移転・交換の基盤はパブリックブロックチェーン上で暗号資産をインフラとして行われている。
地域にあるものをデジタルでうまく繋ぐことが出来れば、海外に「デジタル村民」を創出するができる。最終的に外貨を伴う体験に結び付けられうる。


※余談だが、組織の形態という語感が腑に落ちず調べていると、Organizationの語源は「複数の要素を組み立てて一つの体として組織する(organizo)こと」がこの単語のコアの語源。」とのこと。この意味に違和感はないので、会社法など近代の枠組みに引っ張られている自分の脳みそが悪いのかもしれない。

HENKAKU DAO

元MIT所長、現千葉工業大学変革センター長の伊藤穰一氏が中心となっているHENKAKU DAOは、パブリックブロックチェーン上で価格のついていない非金銭的なトークンの送受を通じてコミュニティを活性化させているプロジェクトである。このコミュニティは有志メンバーにより綿密にタスクの申請管理と分配が行われ、600人程の規模でも円滑に運営されている。

Henkakuコミュニティのタスク管理ツール

コミュニティ参加用のNFTは、週次配信の番組でお便りが読み上げられると入手できる。
NFTを入手して参加できるコミュニティの中では、番組の感想や、コミュニティをどのようにより良くしていくのかのディスカッションなど、メンバーシップ間の交流が行われている。
この投稿を行えば行うほどトークンが付与され、トークンはメンバー相互のお礼や会場イベントの参加券の購入などに充てることが出来きる。

トークンはPolygonというパブリックブロックチェーン上で発行されるもののため、送付にはネットワークセキュリティへの手数料として暗号資産を消費する仕組みの上で発行されている。
このHENKAKUプロジェクトは、金銭的価値を伴うトークンとそうでないトークンが溶け合うネットワークを形成し、その中で人々が活発に交流している事例である。

このほかに、筆者自身もクリプト系のイベントに登壇する講演者(彼はアジアの別の国、自分は日本にいる)の支援のために、ボランティアとしてGoogle Slideの数ページを準備したところ、その講演者からイラストのトークン(いわゆるNFT)が付与された経験がある。この場合はビットコインのパブリックブロックチェーン上でビットコインを手数料に発行・送付されるトークンだった。ブロックチェーンに記述されているのはイラストの画像データのURIに過ぎない。しかしながら、このトークンの画像データには収集以上の価値はないため、誰かが悪意をもって画像データをコピーする意味もない。ところが、送受信した事実と、この何の変哲もないただの画像データをやり取りしたという記録がブロックチェーン上に刻まれることに意味を見出す。ここには駄菓子屋のメンコで思い出を共有するような体験が詰まっている。

24時間365日変化のあるクリプトの分野では、デジタルネイティブ世代がスマホを片手にSNSでグローバルに繋がり、言語の自動翻訳ツールやdiscordのようなコミュニケーションツールを駆使している。
Linuxから始まるOSS開発は既にGit等のツールで活性化していたが、分野のスピードと技術が掛け合わさることで、非エンジニアのユーザーを巻き込み、ドキュメント作成からHENKAKU DAOやパブリックブロックチェーン上で様々に見られる開発およびコミュニティ育成のような大きなものまで、プロジェクトとその協業の間口がより開かれている。
クリプト関連のプロジェクトでは、メンバーをグローバルに抱えているため、給与を独自トークンやステーブルコインで支払われる場合も多い。

クリプトの分野でトークンを通じて繋がっているデジタルネイティブ世代の協業のスピード感は非常に刺激的であり、他分野でグローバル人材を育成するヒントにもなる。

まとめ

以上のように、パブリックブロックチェーン上で発行される暗号資産、トークンは人々と海を越えてスムーズな価値のやり取りを実現している。それは時にはBitcoinを代表する暗号資産のように金銭的を伴うものであり、時にはほとんど趣味の範疇で市場価値がついていない絵のトークンやコミュニティの交流用のトークンである。これらはパブリックブロックチェーン上、つまり暗号資産を手数料のように消費しながらセキュリティを維持するネットワーク上で発行および流通されることが主流である。このグローバルなネットワークで人々のコラボレーションが生まれている。

これらは暗号資産・トークンだけを通じて実現されているのではない。
インターネット上の高速でグローバルな双方コミュニケーションを当たり前としたSNSネイティブな世代が、Discordや henkakuのようなコミュニケーションツール、Twitterのアイコン、Tipなどのツールと、クリプトという決済・資産としてのインフラを当たり前のように使うことでなされている。24時間365日何が起きるかわからないクリプトの分野ならではのカルチャーがこのコミュニケーションを後押ししている。
Web3.0をビジネスや「脱GAFA」、「脱中央集権」、「組織形態(株式の変化、会社の在り方etc…)」という"数字"や"アンチテーゼ"の切り口からでなく、暗号資産を取り巻いて起きている体験を文化として捉えることで、それが人々にもたらしている根源的な価値を見出すことができた。
今後はエンタメ領域など、更に馴染みのあるケーススタディの有用な事例が海外で存在しないか調査したい。

大きく謳われているような、「脱GAFA」がこの技術スタックから産みでるかはまだわからない。データ管理はプライバシー技術や規制の領分であり、資産が関連付けられたサービスの意思決定を適切に行えるほどに利用者が適切に振る舞えるかどうかは民主主義の議論である。秘密鍵を管理することは人々の選択肢の一つだ。
しかしながら、暗号資産・トークンを送り合う人々のやり取りには、今までとは異なる関係性が現に存在し、文化となっている。
現在進行形で秘匿計算技術や決済アプリケーションが発展している。今後より価値の移転と人々の交流は溶け合うことを楽しみましょう。

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