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女子プロレス観戦記 #03 on 2022.06.19

Ⅰ:「J」。女子プロレス、もう一つの系譜。

PURE-Jの道場マッチ(亀アリーナ大会)に行ってきました。実は2回目の観戦だったのですが、なかなか思い入ることがあり、とても貴重な体験をさせていただいたなあという感じなのです。

僕の女子プロレス観戦歴的にPURE-J、つまりジャパン女子プロレスを源流に持つ団体って、あまり観て来なかなった、むしろ、避けていたなあと思うのですね。なぜ避けていたのかというと、僕の原体験に全日本女子プロレス(以下、全女)観戦があるので、やはり毛色が違うというか、少しだけ違和感があったからなのですが、その違和感ってなんだろう?と色々と考えた訳なのです。まあ、別に深く考えなくても「楽しければいいじゃん」なのですが、今後の女子プロレス観戦の展望を考えてみると、やはり、その違和感に決着をつけないといけない。その為に、ジャパン女子の流れにあるPURE-Jは避けて通れないと思い通いだした訳です。

PURE-Jの歴史を簡単に説明します。
全女の対抗団体であるジャパン女子が1986年に旗揚げ。その6年後の1992年に団体が2つに分裂。独立という形のLLPWと後継団体という形のJWP女子プロレス。両団体とも1992年に旗揚げ。JWPは紆余曲折ありながらも2017年に団体は活動停止。コマンド・ボリショイ選手を中心にした選手会が独立する形でPURE-Jが旗揚げ(2017年)。ジャパン女子でデビューしたコマンド・ボリショイ選手(現在は選手を引退したので以下ではコマンド・ボリショイ代表と記します)がJWPを経てPURE-Jを設立したという所が重要で、現在に至るまで「ジャパン女子」の「J」の看板を受け継いで守っているのがすごい。つまりJの系譜は途絶えていないということです。

僕の中にある今までの女子プロレス観との違和感。その違和感を明確に意識したのは、2021年11月23日の後楽園ホールで開催された「センダイがールズプロレスリング(以下、仙女)」。仙女の主催で行われるデビュー3年未満の選手のみのトーナメント戦である「じゃじゃ馬トーナメント」で、Jの遺伝子を持つ選手の試合を観戦したのがきっかけです。
その選手の名前は大空ちえ選手。ジャパン女子から続くJの正統後継団体のPURE-Jに入門し2020年デビューした選手。今大会で唯一のJの血脈の選手です。

じゃじゃ馬トーナメント2021での大空ちえ選手。

このトーナメントには8名の選手がエントリーしていました。団体でいうと主催の仙女所属が2名、SEAdLINNNG所属が1名、ディアナ所属が2名、マーベラス所属が1名、アクトレスガールズ所属が1名、そしてPURE-J所属の大空ちえ選手というメンバー。厳密にいうと彼女らの所属する団体全てに全女の血(団体代表やコーチ、代表のルーツに全女が関わっている)が入っているのですが、この中で一番全女の系譜から遠いのがPURE-Jとなります。
全女解散から17年経っているのに、全女の血が濃い団体と薄い団体の違いは確実にあり、それが違和感となって大空ちえ選手はこのトーナメントで異色な存在でした。
このトーナメントの開催記者会見と出場メンバー全員での合同練習がYOUTUBEにて公開されていて、それを観る限り、優勝候補は大空ちえ選手じゃないか?と実は踏んでいたのですのが、結果は1回戦敗退。相手はディアナ所属の梅咲遙選手。梅咲選手は年明けの決勝大会でトーナメントを優勝することになるので相手が悪かったという感じでもありますが、試合の勝敗だけではない印象を僕に与えたのでした。

その印象というのがまさに「違和感」で、この試合の前にも後にもこの感覚というのは生まれなかったし、今まで観てきたプロレスの中でも初めての体験。
この試合の動画のURLを貼り付けてあるので気になった方には是非ともご高覧いただきたいのですが、全女のトップレスラーでもあった井上京子選手の団体で頭角を表している梅咲遙選手の魅せ方と、ジャパン女子・JWP・PURE-JとJの系譜を守り続けているコマンド・ボリショイ代表が師匠の大空ちえ選手の魅せ方の違い。それはきっと「イズム(思想・主義)」の違いだけではなくて、選手を育てる環境やトレーニング方法の違いが大きいのだと思うけれど、特に大空ちえ選手に関していえばあえて「J」を選んだというのが重要なのだと思う。
この世代の選手(デビューが2019年から2022年近辺の大勢の選手)たちは意外と多くて、スターダムでいえば、飯田沙耶選手、向後桃選手、上谷沙弥選手、レディ・C選手、天咲光由選手、舞華選手、桜井まい選手、ウナギサヤカ選手、月山和香選手、MIRAI選手、壮麗亜美選手とスターダムだけで11名もいるし、東京女子プロレスでは荒井優希選手、遠藤有栖選手、桐生真弥選手、鈴芽選手、鳥喰かや選手、長野じゅりあ選手、宮本もか選手の7名、仙女の岡優里佳選手、カノン選手。ディアナの梅咲遙選手、マドレーヌ選手、ななみ選手、Himiko選手、美蘭選手。マーベラスの宝山愛選手。PURE-Jで大空ちえ選手以外でも久令愛選手とAKARI選手、SEAdLINNNGの海樹リコ選手、JTOの稲葉ともか選手、rhythm選手、柳川澄樺選手、神姫楽ミサ選手、Aoi選手の5名。アクトレスガールズはもうよくわからないので除外としても、30名以上の現役選手がこの世代にいます(漏れている選手もいると思いますがそれは本当にごめんなさい)。
30名以上のデビュー3年未満近辺の選手で「J」を選んだのが大空ちえ選手をはじめと若干3名というのがなんとも稀有な存在だし「なぜYOUはJに?」とも思うのです。

Ⅱ:大空ちえ選手、そしてヤング組の選択。

2022.6.19の亀アリーナ・ヤングプロデュース大会にて。大空選手とAKARI選手。

北海道出身の大空ちえ選手。デビュー前には就職をされていた選手で年齢は、まあ、あえて書かないですけど、遅くにデビューした選手。離職してまでなぜプロレスラーになったのか。資料が少なくてまだまだ分からないことの多い選手なのですが、Jの血脈のある選手なのは間違いく、最終的にJを選んだ選手。ほぼ同期デビューの選手が30名以上いる中で最も「全女の血が薄い」団体を選んだのはなぜか?非常に気になるのですが、入団前にPURE-Jのプロレス教室に通っていたとのことなので、育成体制が整っているというのが理由の一つだと思うのです。
育成体制の大事さというのは、長くプロレスを観ながら、昨今の「当時の話」が再発見・再発信されている中で、その重要性を痛感する訳です。
今、主要の女子団体はほとんどといっていいほど道場を構えています。スターダムもそうですし、マーベラス、ディアナ、仙女、SEAdLINNNG、PURE-Jもそうです。選手が代表を務める団体は皆口を揃えて「自前の道場の重要性」を説きます。練習施設といえばそれまでですが、道場には何か僕ら素人にはわからない何かがあるような気もします。
全女の話になってしまうのですが、いかに道場での練習が狂っていたのか?が話題になったりもします。観客を入れての会場の試合とは違う勝負論がそこにあったり、道場での練習は水面下の努力の場所であって、そこで培ったものが自力を上げる、その鍛錬の場がきっと道場なんだと思います。朝から晩まで道場での練習漬けの毎日、しかも新人時代はほぼ住み込みという環境が選手を一流のプロレスラーに育てる。そこにはロマンがあるような気がします。
で、Jの系譜なのですが、なかなか道場の壮絶さというのが活字や音声にならないなあというのが印象で、全女ほど狂っていなかったのがその理由かも知れませんし、むしろ壮絶過ぎて誰も口に出せないのかも知れません。
PURE-Jの若手選手。JWPからの移籍組からではなく、PURE-J旗揚げ後に新人として入団した選手たちのトレーナーというかコーチは皆Jの血が濃い選手ばかりです。Jで生まれた選手もいれば、Jで長い時間を過ごした選手もいます。そしてトップであるコマンド・ボリショイ代表がJの後継者ですから、Jの血がたっぷりと注入された新人が輩出されることになります。その一人の大空ちえ選手は現代のザ・PURE-Jとも言える訳です。
純正の生え抜きPURE-J選手は今、三人所属しています。先述の久令愛選手AKARI選手、大空ちえ選手は、入門もデビューもPURE-Jです。そこにアクトレスガールズからの移籍選手である谷もも選手を加えた4人がヤング(以下、ヤング組)と呼ばれていて、この4人が今後のPURE-J、Jの系譜を受け継いでいく最新の選手たちです。生え抜きではない谷もも選手も含めてJを選んだということ。この4人の試合を観ていくことが先述の違和感を解く答えになるのではないか?と思いPURE-Jヤングプロデュース興行の亀アリーナマッチを観にいくことにしたのでした。

Ⅲ:ヤング組プロデュース大会で感じた違和感のなさ。

この大会が行われたのは2022年6月19日。その先々週ぐらいに久令愛選手によって提案された大会らしく(そのことをTwitterで知った勢です)、非常に気になっていたのですが、全対戦カードの発表を知ってすぐにチケットを抑えたのでした。

第1試合の久令愛選手VS KAZUKI選手(1997年デビュー)
第2試合のマドレーヌ選手VS LEON選手(2000年デビュー)VSライディーン鋼選手(2012年デビュー)
第3試合。ヤング組によるタッグマッチ。

観戦の決め手はマドレーヌ選手なのですが、それはまた別の機会に。
このメインカードのいかつさが素晴らしいと思うのですね。今後のJの遺伝子を引き継いでいく4人のみが魅せることのできる試合。
まず第1試合は道場マッチでお馴染みの「コミカル系マッチ」。久令愛選手VS KAZUKI選手。試合中に「汚い言葉」を使うとハリセンで叩かれるという試合。

汚い言葉を使ってしまいAKARI選手にハリセンでしばかれるKAZUKI選手。

KAZUKI選手。僕は今回で3回目。しかも今回も含めて2回は特別ルール(汚い言葉はダメよマッチ)。もうこの印象しかないよ!という感じに。とはいえ、アダルト組というかベテランの選手。コミカルさもありながらもやはり上手いなあと唸らされる感じ。この日、2試合出場する久令愛選手がこのコミカルさを手に入れると将来色々なリングで活躍できる気がする。ちなみにHAZUKI選手の勝利。
(余談だけれども、このコミカル系の現役代表である旧姓・広田さくら選手の売れっ子ぶりとかすごいと思う。今、最も忙しい選手という印象。この可能性と有意性に気づいたのがスターダムのウナギサヤカ選手だと思っていて、ここ最近では「英語は禁止ルール」とか「丁寧語ルール」とかスターダムにコミカルの流れを組み入れようとしているのがスゴい。ここに気付けると将来デカい!)

ハリセンでしばかれる久令愛選手の写真が一枚もないのはそれだけ叩かれていない証拠。

第2試合はベテラン(アダルトチーム)の二人に挟まれたヤング組のマドレーヌ選手の万能っぷりが際立つ試合内容。LEON選手ライディーン鋼選手も楽しそうにプロレスをしているのがよく伝わってきて、それもマドレーヌ選手の資質によるものだと思う。とにかくマドレーヌ選手は声が通るし、表情がとても豊か。観ていて最高に楽しい試合ができる選手だなと改めて感心してしまった。ここ最近はYOUTUBEなどのSNSの更新も頻繁なので、そこはマドレーヌ選手の向上心の強さだと思う。
それにしても非常に魅力のある選手だし、あとは格闘技で鍛えた本物の強さをどれだけプロレスのリングに持ち込めるか、表現できるかだと思う。ストロング戦線への参加を熱望する感じです!

こんなシーンは3wayだからこそ。マッチメイクのバランス感覚も素晴らしい。

第3試合はメインカード。ヤング組が多分一番やりたかったであろう試合内容だと思う。
一言でいうとストロングスタイル。全体的にバチバチな試合内容。この試合を観て「はっ!」となったのは違和感が皆無だということ。どういうことかというと、僕がJの系譜に抱いていていた新人もコミカル系を手習している感じがあまり露骨に出ていないこと。
プロレスにも色々な表現方法があると思うのだけれども、JWP系の試合ってどこか「楽しいプロレス」を全面に出している感じがするのです。もちろん、バチバチな試合もあると思うのですが、みんなが楽しめる試合が前提にあるような気がする。
僕が今まで楽しんできた女子プロレス。その最大の魅力はバチバチ感というか勝負感、ストロングスタイルにあったと思う。それがあまりJの系譜には感じられなかった、その機会がなかったことが違和感の原因だったのではないか。
メインカードはいつも僕が楽しんでいるプロレスだったし、これぞ女子プロレス!という僕の好きな試合内容だった。

勝負感のある試合内容。先輩後輩という遠慮のない試合だったと思う。

なるほどなあ」と思う。
違和感は「楽しいを全面に出していくプロレス」をあまり求めていない自分の中にあったのだなという結論。そしてJの系譜にあるプロレスにはもちろん勝負感の強いストロングスタイルな試合もあるし、コミカル系な試合も、みんなが楽しいプロレスもある。そんな多彩さのほんの少しの一面しか見れていなかったという自分の未熟さを思い知る。
例えば、先述の旧姓・広田さくら選手の試合を観る機会があればもちろん「コミカルの骨頂」を期待するし、それが外れて勝負感の強い試合になってもそれはそれでレアで嬉しくなる。そういう心構えが自分にはなかったのだと思うのである。
とすれば、あえてJの血脈の環に入った選手たちにとってその魅力とは「多彩さ」にあるのではないか。それを今大会で体現したのが久令愛選手なのではないか。この日の久令愛選手は非常にそれを表現していたように思えるし、道場前に設置されたガチャガチャで入手したアクリルキーホルダーが久令愛選手だったのも何かの運命かも知れません。

ガチャで入手した久令愛選手のアクキー。いいよね、アクキー。

僕が今まで他団体も含めて観たことのある久令愛選手、大空ちえ選手の試合の中でも最も好きな感じでした。こういう試合もできるというのは僕にとっての光でした。今後も見続けていきたいなと強く思わせてくれました。

Ⅳ:大きな会場で観たいと思わせるヤング選手たち

日本最古の女子プロ団体の後継であるというプライド。

実は亀アリーナマッチは2回目で、前回は2月。およそ4ヶ月ぶりのPURE-Jの大会。1回目よりも満足感が高いのは所属選手の個性が分かってきたこともあるだろうし、それよりも大きいのはPURE-Jの魅力が徐々に分かってきたことだと思う。
コマンド・ボリショイ代表を頂点にした家族的な環境が今のPURE-Jを形作っている要素だと思っていて、特にヤングからするとボリショイ代表は現役時代の仲間感よりも団体代表という社長的な存在だろうし、そういう完全な縦構造がよりしっかりしている雰囲気がある。
(谷もも選手は現役時代のボリショイ代表と試合したことがありそうで、AKARI選手のデビュー戦の相手は現役のボリショイ代表。久令愛選手と大空ちえ選手は現役のボリショイ代表とは試合をしてない筈。エキシビションはあり)
全女なき今、日本で最古の女子プロレス団体の正統な後継団体でもあるPURE-J。その伝統というのは生きているだろうし、それがあるから生み出される誇張されない空気感がある。

正直、大空ちえ選手から感じた違和感の一つである「なぜいろんな団体があるのにあえてJなの?」というのは愚問であって、日本最古の女子プロレス団体の系譜に名を連ねるというのは、なかなかロマンのある話じゃないか?
全女はすごかったし、全女の遺伝子というのはほぼ全ての女子プロレス団体に継承されているし、全女無くして女子プロなしというの事実だと思う。けれども、結局は滅亡してしまった王国なのだと冷静に認識しないといけないなとも思う。全女の後継者はいないという事実。全女からアルシオン、アルシオンからAtoZ、そしてスターダムという流れも、全女の後継団体とは言えないし、長与千種選手のGAEAにしてもマーベラスにしても全女の後継団体とは到底言えないし、良くて分家ということになるのだと思う。けれども、PURE-Jは違う。
今、女子プロレスの主流はスターダムだと明言できる。もうほぼ一強状態。それに大きく離れて二番手にいるのが東女。そこからまた大きく差があってPURE-J、仙女、マーベラス、ディアナなどの団体がいると思う。先のじゃじゃ馬トーナメントはそんな三番手の団体の若手が集まって開催されるトーナメントであり、僕はスターダム、東女に次ぐ第三勢力として機能するのではないかと思っていた。過去形なのはじゃじゃ馬トーナメントからしばらくしてスターダムが自団体と他団体の若手を集めて開催する「NEW BLOODシリーズ」を開始したから。スターダムが基本的に鎖国体制の東女と大きく差をつけるために第三勢力を傘下におこうとしているのは明白だ。
今後もスターダムは大きくなるだろうし、近い将来、世界進出もすると思われる。けれども、今現在、PURE-J選手の参戦はNEW BLOODにはないので、ここが大きなターニングポイントになると思う。
Jの系譜を取り込めるか否か。取り込むべきか否か。そんな選択肢がスターダムのロッシー小川さんにはあると思う。多分、ロッシー小川さんはJの系譜を取り込まず、結果的に全女の血をかき集めると予想する。
今現在、スターダムのNEW BLOODに参加してない有力団体はPURE-J、SEAdLINNNG、仙女である。この3団体が結束しても勝てないぐらいスターダムは強い。けれども、世の中に絶対はないし、ひょっとするとスターダムの力が弱まる可能性だって大いにある。いつまでも春は続かないのだから。

そんな女子プロレス業界の中、僕は大きな会場でPURE-Jのヤング選手たちの試合を観たいと思う。それはNEW BLOODのリングでもいいし、他団体でもいい。天井の高い大きな会場で煌々と照らされたリングの上で彼女たちを観たい。
自主開催で後楽園ホールが今一番大きな会場だと思う。なので、PURE-Jの後楽園大会をタイミングを見つけて観戦に行こうと思う。
そこで感じるのは違和感なのかそれとも?

#女子プロレス曼荼羅
〈2022.06.23 記〉

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