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同値関係と両立する写像(2)

前回の『同値関係と両立する写像(1)』

に引き続き、前回の命題1を適用して以下で説明する命題2が導かれる。

この命題2ではある集合Xから2つの写像f,pがあるとき、1つの写像pともう片方の写像fの間に、pの値で一致する2元はfの値でも一致する、という条件があるときに、pで写した像p(X)の上から直接fの値に対応させる一つの写像kが構成される。その写像kをfが引き起こす写像ともいわれる。そこで簡単のためpは全射と仮定しよう。

今回はその内容について、その命題2を述べた後、その証明と例を考えてみよう。最後に解釈を付けたが、もともと数学的事実のイメージはそれぞれあるべきで、これは一つの見方に過ぎないと捉えて頂きたい。

1.命題2

集合X,Y,X’と写像f:X→Yおよび全射p:X→X’があるとする。

pの値で一致するようなXの2元はfの値でも一致する:
 p(x)=p(y) ⇒ f(x)=f(y)
 (x,y∈X)
ための必要条件は、写像k:X’→Yで
 k◦p=f
となるものが存在することである。

また、この同値な条件を満たすとき、写像kは一意的である。

2.命題2の証明

まずこのようなkが存在すれば一意的であることをみよう。

別の写像k’:X’→Yが
 k’◦p=f
を満たすとすると、
 k◦p=k’◦p
で、pが全射であるから(※注意1)
 k=k’
である。ゆえに、このような写像k:X’→Yは一意的である。

【必要性の証明】
全射pが引き起こすX上の同値関係を~とする:
 x~y ⇔ p(x)=p(y)
 (x,y∈X)

写像π:X → X/~を自然な全射とする:
 π(x)=[x]
   ={a∈X|a~x}
 (x∈X)

全射pが引き起こす自然な全単射をgとする:
 g:X/~ → X’
 g◦π=p

このとき、この同値関係~はfと両立する:
 x~y ⇔ p(x)=p(y) 
     ⇒ f(x)=f(y)

従って、命題1によりfが引き起こす写像
 h:X/~ → Y
 h◦π=f
が一意的に存在する。

よって、gの逆写像
 g’:X’→X/~

 h:X/~ → Y
の合成写像を
 k:X’→Y
とすれば、
 k◦p=f
となる。

実際、
  k◦p(x)={ (h◦g’)◦p } (x)  (∵写像kの定義)
      ={h◦(g’◦p) } (x)  (∵合成写像の結合法則)
      =h◦π(x)      (∵g◦π=pにg’を両辺合成)
      =f(x)       (∵写像hの定義)
 (x∈X)
である。

【十分性の証明】
 k◦p=f
となるk:X’ → Yが存在するなら、
 p(x)~p(y) ⇒ f(x)=k◦p(x)=k◦p(y)=f(y)
 (x,y∈X)
よって逆も成り立つ。■

※注意1:pが全射でない場合はkの一意性はいえない。その場合、pの像p(X)の上では一致するが、その外側X’-p(X)は対応の仕方は定まらない。なお、一意性を除けば前半の同値性はいえる。

3.例

前回の例と同じような状況を作ってみよう。

集合Xを日本人すべてから成る集合、集合Yを地方の集合:
 Y={九州,中国,四国,近畿,中部,関東,東北,北海道}
写像f:X→Yを、x∈Xに対してxの出身地方を対応させる写像、そして集合X’を都道府県の集合
 X’={x|xは都道府県}
  ={沖縄県,鹿児島県,・・・,青森県,北海道}
写像pを
 p:X→X’
 p(x)=xさんの出身都道府県
とおく。

どの都道府県にもその都道府県の出身者がXに存在するからpは全射である。

そして、
 p(x)=p(y) ⇒ xさんの出身都道府県=yさんの出身都道府県
        ⇒ xさんとyさんは同じ都道府県の出身
        ⇒ xさんとyさんは同じ地方の出身
        ⇒ f(x)=f(y)

従って、上の命題2より写像kで
 k:X’→Y, k◦p=f
となるものが一意的に存在する。

このkは例えば
 k(北海道)=(北海道地方)
 k(岩手県)=(東北地方)
 k(東京都)=(関東地方)
 k(千葉県)=(関東地方)
 k(愛知県)=(中部地方)
 k(兵庫県)=(近畿地方)
 k(香川県)=(四国地方)
 k(広島県)=(中国地方)
 k(福岡県)=(九州地方)
 k(沖縄県)=(九州地方)
などすべて書かないが47都道府県分の対応リストとなる。 

前回の例と実質的には同等の内容であろう。ただ集合を商集合X/~かX’の違いに過ぎない。

4.解釈

pの値が一致ような2元はfの値でも一致するという条件は、全射pが引き起こす分割(都道府県での分割)が細かくて、fが引き起こす分割(地方での分割)はそれ以上に粗いことを意味する。

そして全射pが引き起こす分割(都道府県での分割)とは、pの像であるX’(都道府県)に(全単射対応によって)同一視できる。

従ってX’の各点(都道府県)はfが引き起こした各分割要素のいずれか一つ(ある地方)に属すると考えられる。

こうして各x’∈X’(都道府県)からその属するfの分割要素(地方)、従ってあるy∈Y(地方)へと対応付く。これが写像kの構成である。

あるいは、次のような見方もできる。

X(日本人全体)を、pでの特性(出身都道府県という枠組み)で分類する(これを操作pとする)。一方でXをfでの特性(出身地方という枠組み)で分類する(これを操作fとする)。今、操作pでの分類は操作fの分類より詳細である。従ってpでの特性からさらにfでの特性に向かってフィルターを掛けることができる(これを操作kとする)。こうした操作はもとのXからfで分類したことと等しい。つまり、
 k◦p=f
である。


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