同値関係と両立する写像(10)

準同型定理を使って得られる同型定理に、第1同型定理第2同型定理がある。今回と次回はこれを題材に考察してみよう。まずは第1同型定理を一般の代数系で議論し、この定理を群、環、R加群の場合に翻訳しよう。

第1同型定理では、代数系Aの部分代数B(Aのすべての演算について閉じている代数系)に注目する。A上の合同関係θを部分代数B上に制限した合同関係θ’が引き起こす商代数B/θ’と、部分代数Bの元とθの意味で合同である元全体Bθ(これも部分代数)を作って、合同関係θをその上に制限した合同関係θ’’が引き起こす商代数Bθ/θ’’とが、同型対応する。

満点の星空(A)にいくつかの星座を、どの見える星もどこかの星座にただ1つだけ属するように好きに描いたとしよう(θ)。1~2等星の星(B)に限って眺めれば、3等星以降の星たちで作られる星座はなくなる。残った星座の全体(B/θ’)は、残った星座に3等星以降の星を追加してあげて(Bθ’)、そこでの星座の全体(Bθ/θ’’)をみても変わらない(≅)。

1.第1同型定理

Aを代数系でA上の合同関係θがあるとしよう。

空でないAの部分代数Bを考える。

まず、Aの中でBのある元とθで同値なものをBθとおく:
 Bθ={a∈A|あるb∈Bがあってaθbとなる}

B⊂Bθであることはθの反射律の性質から従う。

従って自然な単射準同型
 i:B→Bθ,b↦b
がある。

次に、BθもAの部分代数となる。実際、Aの任意のn項演算μについて
  b(1),・・・,b(n)∈Bθ 
⇒ あるa(k)∈Aで、b(k)θa(k) (各k=1,・・・,n)
⇒ μ(b(1),・・・,b(n))θμ(a(1),・・・,a(n))  (∵θはA上の合同関係)
⇒ μ(b(1),・・・,b(n))∈Bθ
となる。

またθをBまたはBθの中で制限すれば、BまたはBθにおける合同関係θ’,θ’’となる:
 θ’=θ∩(B×B)
 θ’’=θ∩(Bθ×Bθ)

従ってBからの自然な全射準同型
 π’:B→B/θ’
およびBθからの自然な全射準同型
 π’’:Bθ→Bθ/θ’’,b↦b/θ’’
がある。

単射準同型
 i:B→Bθ
と全射準同型
 π’’:Bθ→Bθ/θ’’
を合成したものをfとおく:
 f=π’’◦i:B→Bθ/θ’’,b↦b/θ’’

fは全射準同型であり、よって準同型定理より
 f=g◦π’
となる同型
 g:B/θ’→Bθ/θ’’
を引き起こす。

こうして以下の第1同型定理が得られた。

【第1同型定理】
Aを代数系、θをA上の合同関係とする。Aの部分代数Bに対して、
(1)Bθ={a∈A|あるb∈Bがあってaθbとなる}
はAの部分代数であり、
(2)同型
 B/θ’≅Bθ/θ’’
を引き起こす。
ただし、BおよびBθにおける合同関係はθの制限
 θ’=θ∩(B×B)
 θ’’=θ∩(Bθ×Bθ)
とした。

2.群の場合

群においては同値関係は正規部分群に対応し、部分代数とは部分群のことである。

また、群Gの部分群Hと合同関係をθ、θ対応する正規部分群をNとすると
 Hθ={g∈G|あるh∈Hがあってgθhとなる}
   ={g∈G|あるh∈Hがあってgh’∈Nとなる}
   ={g∈G|あるh∈Hがあってg∈Nhとなる}
   ={g∈G|g∈NH}
   =NH
となる。なお、Nが正規部分群であることは
 任意のg∈Gについて、gN=Ng
であったから
 NH=HN
である。

また、θ’=θ∩(H×H)は、
   (g,h)∈θ’=θ∩(H×H)
 ⇔ (g,h)∈θ かつ (g,h)∈H×H
 ⇔ gh’∈N かつ (g,h)∈H×H
 ⇔ gh’∈H∩N かつ (g,h)∈H×H
従って、g,h∈Hについて
 (g,h)∈θ’ ⇔ gh’∈H∩N
となる。これはθ’に対応するHの正規部分群がH∩Nであることを意味する。

さらに、θ’’=θ∩(HN×HN)は上の議論によって、g,h∈HNについて
 (g,h)∈θ’’ ⇔ gh’∈N∩HN=N
となる。これはθ’’に対応するHNの正規部分群がNであることを意味する。

以上より群の第1同型定理を得る:

【群の第1同型定理】
Gを群、NをGの正規部分群とする。Gの部分群Hに対して、
(1)HN={hn∈G|h∈H,n∈N}
はGの部分群であり、
(2)同型
 H/(H∩N)≅HN/N
を引き起こす。

3.環の場合

環においては同値関係はイデアルに対応し、部分代数とは部分環のことである。環を加法に制限すれば加法群であるから、群の場合における結果がそのまま適用される:

【環の第1同型定理】
Rを環、IをRのイデアルとする。Rの部分環Sに対して、
(1)S+I={s+i∈R|s∈S,i∈I}
はRの部分環であり、
(2)同型
 S/(S∩I)≅(S+I)/I
を引き起こす。

4.R加群の場合

R加群においては同値関係は部分加群に対応し、部分代数とは部分加群のことである。これもR加群を加法に制限すれば加法群であるから、群の場合における結果がそのまま適用される:

【R加群の第1同型定理】
Rを単位的半群、MをR加群、A,BをMの部分加群とすると、
(1)A+B={a+b∈M|a∈A,b∈B}
はMの部分加群であり、
(2)同型
 A/(A∩B)≅(A+B)/B
を引き起こす。

5.まとめ

今回は第1同型定理を導き、これを群、環、R加群の場合にそれぞれ翻訳した。

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