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同値関係と両立する写像(4)

前回で『同値関係と両立する写像(3)』では、演算が同値関係と両立する場合に商集合上に演算が引き起こされることを見た。

『引き起こす』では、写像fが引き起こす同値関係~および商集合の上の自然な写像gを述べた。

今回は、この2つを使う。即ち、写像f:X→Yが同じn項演算の間の準同型となる場合に、fで引き起こされた自然な写像gも準同型となることをみよう。これは準同型定理といわれる。このため『引き起こす』で述べた命題は、fは一般の写像であるが「集合としての」準同型定理として考えることができる。

1.準同型定理

2つの集合X,Yに同じn項演算μ,νがそれぞれ付帯されているとする。XからYへの写像fがこれらの演算について準同型であることを、その対応する演算を強調して
 f:(X,μ)→(Y,ν)
と書く場合がある。対応する演算が判断つく場合は簡単に、写像
 f:X→Y
が準同型である、などと表現する。

一般の写像f:X→Yがあるとき、写像fが引き起こす同値関係~:
 x~y ⇔ f(x)=f(y)
による商集合X’=X/~から、Yへの単射gが引き起こされた:
 g:X’→Y
 g◦π=f
ただし、写像π:X→X’は、自然な全射とする:
 π(x)=[x]
   ={s∈X|s~x}
(『引き起こす』より)

f:(X,μ)→(Y,ν)が準同型を仮定すれば、次の準同型定理が成り立つ:

【準同型定理】
f:(X,μ)→(Y,ν)が同じn項演算間の準同型写像であれば、Xのn項演算μはfが引き起こすX上の同値関係~と両立し、fが引き起こす自然な写像
 g:(X’,μ’)→(Y,ν)
は単射準同型写像となる。特にfが全射ならばgは同型写像である。

2.準同型定理の証明

f:(X,μ)→(Y,ν)を準同型写像とする。このときXのn項演算μはfで引き起こされた同値関係~と両立する。実際、
   a(1)~b(1),・・・,a(n)~b(n)
 ⇒ f(a(1))=f(b(1)),・・・,f(a(n))=f(b(n))
   (∵~の定義)
 ⇒ ν(f(a(1)),・・・,f(a(n)) )=ν(f(b(1)),・・・,f(b(n)) )
   (∵辺々をνで演算)
 ⇒ f( μ(a(1),・・・,a(n)) )=f( μ(b(1),・・・,b(n)) )
   (∵fは準同型)
 ⇒ μ(a(1),・・・,a(n))~μ(b(1),・・・,b(n))
   (∵~の定義)
 (a(i),b(i)∈X,(1≦i≦n))

よって、『同値関係と両立する写像(3)』よりXの演算μを使って商集合X’に演算μ’が引き起こされる:
 μ’:X’×・・・×X’→X’
 π◦μ=μ’◦π×・・・×π
ここで、写像
 π×・・・×π:X×・・・×X→X’×・・・×X’
は、n個のπ:X→X’の直積写像である:
 π×・・・×π(x(1),・・・,x(n))=( π(1),・・・,π(n) )
 (x(1),・・・,x(n)∈X)

g:(X’,μ’)→(Y,ν)が準同型であることは、
  g◦μ’( [x(1)],・・・,[x(n)] )
 =g◦μ’◦π×・・・×π(x(1),・・・,x(n))      (∵πの値)
 =g◦π◦μ(x(1),・・・,x(n))          (∵πは準同型)
 =f◦μ(x(1),・・・,x(n))           (∵gの定義)
 =ν◦(f×・・・×f)(x(1),・・・,x(n))       (∵fは準同型)
 =ν◦{ (g◦π)×・・・×(g◦π) }(x(1),・・・,x(n))   (∵gの定義)
 =ν◦(g×・・・×g)( [x(1)],・・・,[x(n)] )     (∵πの値)
より従う。

gが単射であることは冒頭でみた。よってgは単射準同型とわかる。

特に、fが全射であれば、g◦π=fよりgも全射であるから、gは全単射となる。全単射な準同型写像は同型写像であるから、後半が従う。

3.準同型写像による像

全射とは限らない一般の準同型写像f:X→Yによる像f(X)はYの部分集合である。fが全射であればf(X)とYが一致し同型を得た。

一般にf(X)はYの演算νについて閉じていることを確認しよう。

f(X)から任意のn個の元y(1),・・・,y(n)を取ってくる。このとき、f(X)の定義から、各i=1,・・・,nについて
 f(x(i))=y(i)
となるXの元x(i)が存在する。これより、
  ν( y(1),・・・,y(n) )
 =ν( f(x(1)),・・・,f(x(n)) )
 =f(μ(x(1)),・・・,μ(x(n)) )
 ∈f(X)
となり、従ってf(X)はYの演算νについて閉じている。

準同型定理でfが全射でない場合は、写像gの行き先としてf(X)に制限すれば
  g’:(X’,μ’)→(f(X),ν)
として全単射な準同型、つまり同型写像g’を得る。

また、このとき
 i:f(X)→Y
包含写像(inclusion function)、つまり部分集合の元をそれを含む集合の元自身に対応させる写像:
 i(y)=y,y∈f(X)
とおくとき、
 g=i◦g’
とgが2つの写像の合成写像に分解される。

4.まとめ

こうして、準同型写像f:X→YがあればXの中でf(X)⊂Yの演算構造と同型なものがfを使って構成されることがわかった。しばしば同型を示すときの基本的な手法として使われる。

それは人は実物を見て模型を作るように、Xがf(X)を見てX自身の中でf(X)と同じモノをfを使って構成しよう、ということを言っている。


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