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代入

数の世界を拡張して変数という文字を導入して「文字式」というものを考えるのは計算の上で便利な発明品です。例えば中学生の頃に
「x = -1のとき、x^2 + 2x + 1を求めよ」
という問題を、直接この式に代入して
(-1)×(-1) + 2×(-1) + 1 = 1 - 2 + 1 = 0
と計算するより
x^2 + 2x + 1 = (x + 1)^2
と因数分解してx = -1を代入すれば0とすぐ計算できるよ、と習ってきました。

文字式に代入してから計算するのと、文字式を簡単にしてから代入するのと、どちらも結果は同じである。だから簡単にして最後に代入した方が計算ミスが減る、という訳です。

では、そもそも「代入」という操作は何かを考察してみよう。

簡単のため実数を係数にし、xを変数(独立した文字)とした多項式のすべての集合をXとする。多項式というのは、変数xのn乗「x^n」(ただしnは0以上の整数)に実数を値にしたある定数aが掛けられたものax^nについてのいくつか有限個の和であった。例えば
x,x^2,2+3x-10x^3,1-x,0,1,・・・
などは多項式である。0や1など定数そのものも多項式と考えている。

多項式の加法(足し算)、減法(引き算)、乗法(掛け算)ができるのは既知としよう。例えば、加法で言えば、
(x + 1) + (x +2x^2 -3) = 2x^2 + 2x -2
となるのであった。

なお減法は加法と考えよう。すなわち、2つの多項式P、Qについてその減法P - Qというのは、加法P + (-Q)と考えて、減法という言葉は加法という言葉で事足りる。

加法と乗法が定義された多項式の集合Xには、我々のよく知ってる以下のような法則が成り立つ:
(1)加法に関する結合法則
(2)加法に関する単位元の存在
(3)加法に関する逆元の存在
(4)加法に関する交換法則
(5)乗法に関する結合法則
(6)乗法に関する単位元の存在
(7)乗法に関する交換法則
(8)加法に対する乗法の分配法則
(9)定数倍に関する諸法則(注意:ここでは詳しく述べない)

それぞれの条件の意味の説明は割愛しますが、条件(1)~(8)を満たすような体系を可換環(かかんかん)と言われます。しかしそんなリズミカルな名前はともかく、加法、乗法という2つの演算が、代入という「多項式の集合Xから実数へ対応付ける写像」について両立することが、「式を簡単にしてから代入してもよい」ということを保証してくれています。

つまり、実数αの代入とは、
 写像:X→(実数全体),変数xを実数αに置き換える
であって、2つの可換環の間の準同型写像であるという訳です。
(注意:実数全体の集合にも上記(1)~(8)の法則が通常の加法、乗法について成り立ちますので可換環です。)

こうして代入とは広く言うところの「準同型写像」というものだと落ち着きました。

なお、除法(割り算)も考慮に入れたい場合も同様です。その場合は割り算もできる世界、それを可換体ないしは単にと言われるもので、可換環の要請する条件に加えて、
(10)乗法について、零元(ようは0)を除いた逆元の存在
という条件を付与したもので考察すれば得られます。



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