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2020-02-10 二項対立世界を越えるために何から始められるか #DevLOVE

2020/02/10 に開催された 二項対立世界を越えるために何から始められるか のイベントレポートです。

●イベント概要
背景
IT業界に限らず、何か(プロダクト)を生み出す仕事には前提として高度な 「協働」が求められます。しかし、経営と現場、役割や専門性の間、これまでのやり方と新しいやり方、未だあらゆる「分断」が起きており、それを抱えながら仕事をしているのが実情でもあります。

分断に直面した際、「この状態をもたらすものは何か」という問い直しの視点が弱く、「どのソリューションを選択するか」「ソリューションをどうやるか」に焦点があたりがちになると、状況を変えることができません。

こうした状況に直面したことは無いでしょうか。
・外から”ベストプラクティス”を持ち込み、短期間で効果をあげようとして失敗する
・これまでのやり方派と、新たなやり方派の間での新たな分断が生まれる
・新たなやり方派の中でも、役割の相違によって分断が起きやすい

二項対立世界
こうした「これまで」と「新たな」の間で起こる分断の解消に、「これまで」を格段に低く評価することで、前提として頭から排除するアプローチ(「まだ、そんなことやっているの?」)が一つあります。

例えば、
・アジャイルを評価するために、ウォーターフォールを否定する
・ティール型組織を評価するために、それ以外の組織体は旧体質であると断定する
・変革を評価するために、変革できない者を切り捨てる
といったアプローチです。

この二項対立アプローチは前に進むようには見えるが、本質的な変化には繋がらないのではないか?
そんな疑問を出発点に考えていくと、「では、どういうあり方があるのか」「一方を否定しないで、変えることができるのか」という壁にあたることになります。

二項対立を越えるには
表面的に見える事象からすべてを否定する、という態度をまず一旦保留してみる。その上で、どのような選択肢があるのか考えてみましょう。

例えば、このような選択肢です。
・自分たちの文脈にあったやり方を段階的に取り入れ進めていく
・「これまでやり方」と「新たなやり方」の間で単純な優劣をつけるのではなく文脈によって選択する
・役割による関心の差異があることを認め、その上で協調を模索する

今回は「他者と働く」を著された 宇田川先生 をお招きして、このテーマを掘り下げる勉強会を開催したいと思います。


■「二項対立世界と、それを越えるために何から始められるのか」対談

宇田川 元一 さん [埼玉大学]
市谷 聡啓 さん [エナジャイル, ギルドワークス]

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●なぜこの場を設けたか
・出会ったのは、2019年の at Will Work
・「こういう話ができるんだ」という面白さがあった
・「すぐに、別の場でもう一度話しましょう!」という会話に
  ティール組織もスクラムも逆輸入面白い流れになっている
・そういえば自己紹介してませんでしたw

●宇田川さん
・埼玉大学
  経営戦略、組織論
・他者と働く
  こんな感じで売れると思っていなかった
  NewsPicksパブリッシング
・理論研究者
  ナラティブ・アプローチ、戦略開発
・実務も見ながら
  リクルートテクノロジーズ
  製造業

●市谷さん
・キーワード
  越境
  正しいものを正しくつくる
  仮説検証型アジャイル開発
・書籍
  カイゼン・ジャーニー
  正しいものを正しくつくる
  チーム・ジャーニー
・この場のきっかけ
  チーム・ジャーニーの推薦文を
  宇田川さんにお願いした
・当事者研究に驚きがあった

●当事者研究
・ケアのミーティングの方法
  べてるの家でやっている
・日本の精神障害ケアは問題がある
  向精神薬、精神科のベット数は世界一
  薬漬け
・あなたの病気の専門家はあなた
  自分自身でともに
  人生の苦労を取り戻す
・ほめほめ幻聴
  統合失調症
  普段からバカ、死ねなどの幻聴
  ときどき頑張ってるねが聞こえる
・問題は寂しさにあった
  人と繋がりを作ろうと頑張っているときは
  ほめほめが聞こえる

●アダプティブチャレンジ
・アルコール依存症の例
  やめたいと思っている間はやめられない
  表に出ている問題ではなく
  飲んでいる理由がある
・専門家漬け
  ソフトウェア開発の専門家
  クライアントからすると、専門家が来て問題を解消してくれる
・経営者も社員の考える活動を奪っているかもしれないw

●二項対立世界を越えるために何から始められるか
・IT業界では、この対立が多い気がする
  専門家集団、それぞれに推しているものが様々
  自分が推しているものを通したい
  -> 二項対立が起きやすい
・IT業界では高度な協働が前提になる
  役割・専門性の分断
    経営と実務
    デザイナーとプログラマ
    受発注の関係
  20年変わっていない

●やってみたいことをわかっている人、わからない人
・中間管理職を粘土層と呼ぶ人たち
  ガス抜きにはなるけど
  それで前に進むのか?やりたいことか?
・自分はわかっているけど、わからず屋がいるからできない
  これは危ない
  実践的でない
  不満を表明したくてやっているところもある
  もしかしたら表明する必要があることが問題かもしれない
・DXの「使わないやつはバカ」的な考え方も同じ
  相手はなぜやらないのか
  地続きになっているかは大きな問題

●これまで と 新たな の間で起こる分断
・「新たな」の話は勢いがある、本質を捉えている
  こっちの方を持ちたい
・「これまで」を格段に低評価にすることで排除するアプローチ
・たとえば
  アジャイルとウォーターフォール
  プログラミング言語
  ティールとティールじゃない
・ティール組織は組織文化論の焼き直しな印象
  インテグラル理論
  理想が切り替わるダイナミズムを説明していない
  ティールからアンバーに降りてくる
  ぼやかしているが重要なこと
    規律がないと組織は機能しない
  必然性がないところで革命を起こすような浮遊感
  クラシックな組織論で言っていることそのもの
・目的を達成するために組織がある
  情報共有度が高くないと、個々の当事者意識が高くならない
  人は意味で動いている
・踊る大捜査線
  ギバちゃんが管理感になると組織が機能する
  自分の判断で動いてくれ
  ただし報告は厳守
  全員が訓練を受けた警察官
・われわれ一人ひとりが、自分からはじめる

・フリーランスが働く任意団体をつくった
  代表を置く会社ではなく、任意団体として
  結果、求心力がなく、バラバラになった
・規律が必要だったように思う
  われわれはなぜここにいるのか のような

●宇田川さんのスライド
・9年間、九州の大学にいた
・べてるの家の当事者に会った
  コミケみたいな場所だと言われた
・コミケに行ってみた
  ヒトが沢山いる
  でも学校より歩きやすい
  なぜ?
・ATMに並ぶ行列
  最後尾のカードが自分たちで回されていく
・運営がすごいのかな?
  ボランタリーなもの
  規律が必要
  個々の努力が形になる
->なぜ、こんなに続くんだろう?

・Ingold 2007 ラインズ
  徒歩旅行は曲線
    移動する仮定の中での出会いに意味がある
  輸送は直線
    事前に決められた考えを対象に押し付けること
  ボランタリーなものは曲線
  帝国的な権力は直線

・wildfire activity
  山火事が起きてもきのこは生え続ける
  同じ様にしぶとく続く活動がある
    野鳥の会
      会員は研究内容をアップできる
      生物学者に提供される
  曲線と直線がうまくつながっている
  菌根がある
    木の根と菌糸の共生/搾取関係

・持続可能性を持たせるには
  資本主義社会との折り合いが必要
  そうすることで、養分が運ばれてくる
-> 対話が大切

・「やらない会社が悪い」
  -> 持続可能性がない
・「こういう問題で困ってますよね?」とくっつける
  -> 活動が生き延びられる、正当化される
・ぜんぜん違う論理で動いているところに
  「これやったほうが良い」は意味がない
  「あなたにとって、これをやると良い」が必要

・技術的問題と適応課題
  技術的問題は既存の方法で解決できるもの
  既存の方法では解決できない課題
・対話の一歩目
  裏にある適応課題に気づくのが一歩
・相手もなんだかわかっていない
  適応課題に気づく->観察->解釈->介入
  自分のバイアスを全て外すことは無理

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・パブリックカンバセーションズプロジェクト
  ナラティブ・アプローチ
  木を切る/切らないの対立
    理由を話す
      自分のナラティブを話す
      -> 平行線
    なぜその意見になったのかを話す
      どちらも街を大切にしている
      -> 動きはじめる

●自分は歩み寄りたい、相手は自分のナラティブを通したい時に
 どうアプローチする?
・その状況で10通すのは難しい
・前に進めるなら
  なぜ、そのヒトがそういう動きをしているのか?
  相手の背後を探っていく
  その背後の解決につなげてあげると状況が変わる

●感情的にムカつくんですが、これはダメ?
・大事!
  怒らないようにしようなんて思ってはいけない
・ただし、怒りを相手に直接ぶつけてはいけない
  なぜこの感情になっているのかを考えることが必要
・両者の間で「本当は何をしたかったんだっけ」の会話
・相手が興味があることに合わせて伝える必要がある
  中学生に高校数学を教えても興味がない


■QA

モデレーター 新井 剛 さん [ヴァル研究所, エナジャイル]

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●「問題対私たち」に持ち込むコツは?
・市谷さん
  問題を「どっちかが持ってます」にしないこと
  お互いが認識している問題を取り出して
  見えるようにして、認識し合う
  両者で向き合う
・宇田川さん
  こっちはちゃんとやってるのに
  火を消しているのに消えない
  のような違和感がきっかけ、チャンス
  自分のナラティブを脇に置く

●「規律」というのは、どのような形で、組織に制度化される?
・基本的な動作としての規律ができていないといけない
・コラボレーティブコミュニティ
  フリーランスが初めに感じるのは面倒くささ
  やっているうちに理由がわかった
  このルールがあることで、能力を発揮できることが見えてきた
・あきらかに意味がないものが変わっていないのは問題
・誰が変えるのか?
  上の人の「言ってもらえるといいんだけどね〜」は
  押しつけになってしまうという意識もある
  -> 気づいたヒトから動けば良い
・権力はどこから発生するのか?
  従う側が権力と認めたとき
  -> やりようはある

●職種名で呼ぶことで二項対立を生みやすくしている?
・市谷さん
  あると思う
  プログラマ、デザイナ、PMなど
  役割の先の世界が見えづらくなるのは確か
  専門性は必要
  でも役割は固定ではない
  状況に応じて、どう動的に張り替えていけるか
・宇田川さん
  役割は必要だけど、機能しなくなったのなら考えるきっかけ
  当初と想定が変わってきたということだと思う
  全社的には現実的には無理
  自分の周りからはじめてみるで良いのでは

●新たな役割をつくるとして、盲点だから気づけない、どう気づく?
・当事者からすると、問題が放置されている
・あなたの無知へアクセスせよ

●周囲の「(悪い)空気」に染まらずにするには
・空気は読むものではありません。空気は吸うものです。
・主観 反転 非常識
  通常は問題を解決しようとする
  もっとこの問題を悪くするには?
  もう一度この問題を発生させるには?
  で問題が見えてくる

●「意味で動いている」の「意味」をもう少し
・豊かになったら不幸せになった
  豊かになるために産業を起こし、ビジネスを勧めてきた
  豊かになったら、なぜ働くのかが見えなくなった
・NASAの清掃員
  人類を月に運ぶために働いてます
・最初にそれができたときには意味があった
  docomoってもとはNTTの新規事業
  今の若い子からしたら盤石のdocomo
  だんだんと忘れられてくる
・新しい物語をつくることで意味が生まれてくる

●部門間対立にどう立ち向かう?
・威力偵察
  相手のことをどれだけわかっているか、を考えるべき
  どういう事情でこの状態になっているのか
  何を大切にしているのか
・他者と働くで開発と営業の対立を書いている
  相手の状況を知って、状況が変わる

●「自分自身も問題の一部であることを認めよう」を認識してもらうには?
・なんでこんな行動をするのか知らなかったね
・こんな状況だったのか
・ではこう見えているかもね

●勉強してほしい vs プライベートを大事にしたい
・「表に出てくる言葉」をそのまま受け取ったら進まない
・定時になったら絶対帰る医師
  話してみたら、介護する家族がいた
  相談できる環境を作れていなかった
  自分も問題の一部

●二項対立で動かすのは便利。実践的に使うには?
・実践的であることは重要
・ただし、弊害がある
  そのままでは続けられない

●TOCの対立解消図に近いと感じた。
 TOCになにか感じていることは?
・ロジックは近い
・なぜ? だと直線的
  WhyではなくReasonを聞く
  何があってその状況に至ったの?
  どういうきっかけでそう考えたの?
  で複雑な問題が見えてくる
・ボトルネックの話はいつもつきまとう
  別の角度で見ると必要 とか

●カオスに引き込まれる印象。怖くない?
・宇田川さん
  自分は怖がり
  だから相棒をつくっていく
  怖いを認めて、進めていく
  あるから慎重に進められる
・市谷さん
  自分も怖がり
  自分をぼっちと呼んでいる
  そう言うことで自分を守っているのかも
・怖さを共有する仲間をつくっていく


■感想

技術的問題(テクニカル・プロブレム) と 適応課題(アダプティブ・チャレンジ)。根幹だと感じながら、うまく言語化できずにいた事を、すっと腹落ちさせてもらえました!

TOCの対立解消図とロジックは同じで、問いが違うというのも納得でした。つい「なぜ?」を使って直線的に進めてしまいがちですが「何があってその状況に至ったの?」「どういうきっかけでそう考えたの?」と理由を聞くことで、気付きの幅を広げる。ユーザーインタビューとも通じる、すてきなアプローチですね!

当事者が感じる違和感が、変化が必要なきっかけ。違和感を引き出せるような気付きの場は必要ですが、誰かがうまく拾って組織を変えていくより、一人ひとりが自分で動きはじめる状況が理想的ですね!

登壇者の皆さん、運営の皆さん、ありがとうございました!!


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