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映画感想『パラサイト』※ネタバレ有り

※(定期)映画感想記事は、他人の感想や解説を入れる前に観た映画を自分の言葉で再構成することで理解を深め、伝達能力や観察力、記憶力を鍛えることを目的としたものです。そのため詳細な情報は出てきません。

ネタバレ込みの感想となります。



ここがスゴイ!


・ビジュアル

画像1

この映画を知ったのは前に見たこのビジュアルからである。
一見普通の一家っぽいがところどころに見える明らかに不穏な要素がもう観る前から想像を掻き立てる。
ワクワクさせる天才的なキービジュアル。
(今気づいたが目線の色でキム家とパク家を分けている模様。だとすると、目線を白で統一した日本版ポスターの改変は製作者の核心的な意図を改変したに等しく、酷すぎやしないだろうか。)



・伏線

ポンジュノ監督の映画を観たことがある人ならおなじみ、伏線回収の妙。
家政婦によって切られたカメラによってギテクが地下に逃れることができたり、ダソンが見た幽霊と、彼の絵に描かれたものが地下の男であることがわかったり、家政婦が2人分食べるのは実は地下の男の分だったり、切れかけた保安灯は実は地下の男がオンオフしていたり、それが最後モールス信号として使われたり……等々

・美術背景ギミック
半地下の家、その中で一番高いところにあるのがトイレだったり、それが故に洪水で真っ先に下水が溢れ出して悲惨なことになって、パコパコパコパコ便座が開くのを座って閉じたり、下へ下へ下る街の構造が、下へ下へ流れるキム家の貧困を分かり易く表していたり、ギウにとって象徴的な水石だったり(彼にとって水石は低きに流れる水の動きに逆らう象徴的な存在だったのではないか。まぁその石で殴られて死にかけるんですけど)、パク家の地下にシェルター用地下室があり、半地下のさらに下の存在が発覚するという物語の視点の転換があったり。
舞台装置としてのギミックが多く、ピタゴラスイッチを見ているようで面白い。舞台それぞれにも意味が与えられている。
ジョーカーでもそうだったが、箱庭的で魅力的な美術による世界観が作品の魅力となっている。



テーマらしきもの


「分断社会」
この映画は分断社会をテーマにした悲喜劇である。
半地下に住む低所得者層の家族キム家が、山の手に住む超富裕層の一家パク家に寄生(パラサイト)していくというお話。
最初は家庭教師として弟のギウが、次に美術の先生として姉のギジョンが、ついで運転手として父ギテクが、家政婦として母チュンスクが、それぞれパク家に入り込んでいく。
キム家はパク家から給料を貰いつつ、パク家が留守になれば我が家のように振る舞う。
しかし、お金と仕事と家族に恵まれたパク一家は一向にパラサイトに気がつかない。彼らは何不自由なく幸せで、お金に困ったことも無いため、ひどく純真で”シンプル”だからだ。

一方でキム家の貧困は絶望的だ。半地下の家には便所コオロギが出るし、下道管より下に部屋があるから、トイレだけやたら高い位置にあるし、家の窓からは酔っ払いが立ち小便する姿が見える。
しかし、この映画はそういう貧困も、ただ苦しく描くのではなく、コミカルに描いている。例えば、立ち小便に怒ったギウとギテクが立ち小便野郎に水を浴びせにいくシーンでは、小便を武器に立ち回る酔っ払いとバケツの水で戦う瞬間を遅回しのカメラで絵画のように映す(その水は結局大半がギウにかかる)。バカな瞬間を芸術的に描写してコミカルな笑いが生まれている。
パクの家で見つかりそうになり家族全員でかくれんぼするシーンも、見つかるかもしれない緊迫感とは裏腹に、パク家の地下に更に寄生している夫婦と足を引っ張りあったりするので、ドリフ的面白さがある。
そういった意味で喜劇的な映画である。

最終的にパク家の主人ドンイクはギテクに殺されてしまうのだが、彼には一切の非がなく、ただギテクから漂う干した雑巾のような臭いが耐えられないと漏らしただけである。
貧困家庭の長であるギテクにとっては、社長になって成功したドンイクも、色々な事業に挑戦して失敗した自分も、そう違いはないという思いがあるはず。
逆に、何もかも受け入れ、ドンイクに感謝さえしている地下の男グンセと自分は違うという思いもあったのではないか。
それなのに、ドンイクはグンセの死体を前に鼻をつまんだのだ。ギテクの前でしたのと同じように……
ギテクは、やっと貧困から抜け出せそうになった瞬間に、“臭い”という消せないスティグマを突きつけられるのである。
それはギテクにとって、ドンイクを殺すのに十分すぎる理由となってしまった。

あと個人的に、リビングでのドンイクとヨンギョのセックスシーンを、子供ともに聞かされた机の下のシーンは、ギテクの親としてのプライドから何から全てが崩れ去る、あまりにも辛いシーンだった。

金持ちであるドンイクが悪いのではなく、貧乏なギテクが悪いわけでもない。ただただ分断社会が生んだ悲劇なのだ。




韓国の現実をその目で見たことがあるわけでは無いし、作中の街並みや家はパンフレットによると全てセット(すごすぎる!)らしいので、どこまでを現実とみてよいか分からないが、韓国動員1000万人という数字からすれば、この映画は多くの韓国人に真実味を持って受け入れられていることがうかがえるのではないか。

分断が進む資本主義社会において必然的なテーマを悲喜交々に描きエンターテイメントへ昇華した傑作でした。

一応若者ギウにはこれから金持ちになってやる!という希望を感じさせる終わり方だったので、若者には一縷の希望を感じさせる映画だったが、ギテクの先の無さは中年層にとってどう受け止められたのかが気になるところである。
以上

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