見出し画像

手話通訳者全国統一試験「手話通訳者の健康管理」2020過去問⑳解説〜頸肩腕障害と健康状況〜

2020年度手話通訳者全国統一試験の過去問について、参考文献をもとに独自に解説をまとめたものです。


問20.手話通訳者の健康管理

手話通訳者の健康問題について述べています。下記の(1)〜(4)の中から正しいものを1つ選びなさい。

(1) 顎肩腕障害は、手指や腕、肩、警部の筋肉や関節などに痛みを生じ、進行すると腕が動かせなくなったりする手話通訳者特有の病気である。
(2) 手指の筋負担は読み取り通訳の中で起こりやすく、肩や後頭部の筋負担は聞き取り通訳の中で起こりやすい。
(3) 一人で続けての長時間通訳は心身に疲労をきたし、適切な言葉の置き換えができなくなったり、手話動作が緩慢になったりするため通訳の質が低下することにつながる。
(4) ストレッチ体操は通訳直前に行うことで顎肩腕障害の予防に効果があるので、通訳終了時は行う必要はない。

2020年度手話通訳者全国統一試験 筆記試験 問20

問題解説

(3)が正しい。手話通訳者の頸肩腕障害(けいけんわんしょうがい)とよばれる職業病が多発し大きな社会問題になったのは、1980年〜1990年にかけてである。
手話通訳者の健康問題や健康管理について理解しておきたい。特に頸肩腕障害についての対策や手話通訳者として健康で働き続けるための対策や自己管理についても認識しておきたい。

健康管理について

手話通訳者は人と人との間に入る仕事であることから、ストレスを抱えることも多くなりがちである。体調を崩してはよい通訳ができない。不安なことは抱え込まず、コーディネーター、手話通訳者仲間、身近にいる相談できる人と相談し、日常から自己管理に努める必要がある。手話通訳者の頸肩腕障害の予防のために、検診は必ず受けることが望ましい。

頸肩腕障害とは

頸肩腕障害とは、肩や首、腕の筋肉の疲労から、こりや痛み、手指のしびれが現れる。疲労が重なることで、慢性的なだるさなどが現れる。不眠、食欲低下など、自律神経症状やうつ症状などでもでてくることがある。
頸肩腕障害は、進行すると物が持てなくなったり腕が動かせなくなったりする病気である。手話通訳者だけがなる病気ではなく、腕や手を使い続ける仕事、腕や手に力を入れる仕事、頭を固定して同じものを見続けるような仕事をする人に発生する。

1980年〜1990年にかけて、聴覚障害者の社会参加の広がりに伴い、急速に広がった手話通訳の利用に、手話通訳者数が追いついていなかった。当時は、手話通訳者の働き方や、利用時のルールも確立しておらず、健康障害が多発した。

手話通訳者の頸肩腕障害

頸肩腕障害が発生する主な原因は、顎や肩や手腕の筋疲労である。筋疲労は、反復して動かし続けること、動きはないものの同じ姿勢を続けること、腕や手で大きな力を出すことで生じる。手話通訳に伴う筋負担は、手や指や腕の動きや形を、口の動きや表情と同一視野の中で示すため、手指や腕を胸の高さに浮かした状態で手話動作を行うことに由来する。しかも同時通訳なので話し言葉の早さにあわせて、手指や腕を高速で動かし続ける。一旦、通訳が始まると「会話」が途切れるか、手話通訳者が交替するまで、手話動作に関わる筋肉を休ますことができないため、角が負担が生じやすくなる。
また、「聞き取り」通訳と「読み取り」通訳という性格の異なる通訳を行っており、いずれも同時通訳であるため高度で高密度な脳(中枢神経)の働きが必要である。手話通訳中は、音の聞き漏らしや手話の見落としは許されない。他人のプライバシーにも関わることになるため、強い精神的な緊張やストレスにさらされる。こうした負担も心身の疲労を招き頸肩腕障害の原因となる。

手話通訳者の頸肩腕障害が日本で最初に認識されたのは、1979年に公務災害申請がなされた札幌市嘱託手話通訳者の事例であった。当時は「寒冷地」、「個人の性格や体質」、「通訳技術が未熟なため」と科学的根拠のない特殊な例外として扱われた。
1980年代、国際障害者年を契機に聴覚障害者の社会参加が進む一方、雇用される手話通訳者の数の増加はゆるやかであったため負担は手話通訳者にかかり、1980年代後半には少なくない手話通訳者が体調不良を訴え、手話通訳の仕事から離れていく状況がおきた。1988年に発生した滋賀県の団体職員の労働災害申請をきっかけに全国手話通訳問題研究会は対応に必要性を確認し、1990年以降雇用された手話通訳者の健康調査・社会調査を実施している。その結果は、今日に至っても2〜3割の手話通訳者が危険自覚症状を訴える状況がみられている。
40歳以上の人たちからは頸肩腕障害以外の疾病も多くあり、健康管理が重要となっている。

けいわん110とは

全国手話通訳問題研究会が設置・運営している窓口である。「もしかして、この体調不良はけいわん?」と感じたとき、また、どうすればけいわんに苦しむ仲間を支えることができるか困っているときなど、気軽に相談できる窓口を開設された。
きっかけは、全国手話通訳問題研究会として健康問題に取り組み始めてから20年たった今も各地で健康障害が発生しており、中には、適切なアドバイスが受けられないまま健康状態が悪化したり、仲間の支援について糸口がつかめず困っていたり、といった事例も見受けられた。また、地域で受診できる施設がないなど事情はさまざまであり、「誰に相談したらいいのか分からない」「地元で相談しにくい」という方のために、全日本ろうあ連盟・日本手話通訳士協会、そして全通研の協議の上で、「けいわん110番」を設置している。

高齢化する手話通訳者

「雇用された 手話通訳者の労働と健康についての実態に関する調査研究(全国手話通訳問題研究会)」(2020)の結果によると、手話通訳者の平均年齢は 54.4 歳であり、30 年前(37 歳)と比べて 17 歳上昇し、2015 年と比べても2歳上昇していた。

雇用された手話通訳者の労働と健康についての実態に関する調査研究,2020

調査年度別の年齢構成をみると、30歳未満30代及び40代の年齢層が減り続ける一方で、60歳以上の年齢層が増え続けており、今回の調査では、その増加幅が最も大きくなっていた。高血圧症やがんなど、高齢化にともなって発症する疾患に罹患する手話通訳者が増加していた。
5年ごとに平均年齢が上昇するということは、世代交代が進んでいないこと、すなわち若年層の参加が少ないことを意味していると考えられ、正規雇用者が退職をむかえた時に、条件を満たす後任がない等の担い手不足が現実に起こっている。

みんなでめざそうよりよい手話通訳

手話通訳者の健康と手話通訳保障を両立するためのルールは、1994年に発行された「みんなでめざそうよりよい手話通訳」(略称「よりパン」)で提案されている。「よりパン」発行以前には無かった、長時間の通訳を交替で担当するルールや、手話通訳を依頼する時のルール、病院や学校で手話通訳を利用するときのルールなどが示されている。手話通訳者自身が自分の健康を守り頸肩腕障害を予防するための注意事項や頸肩腕障害に関する検診などを実施して手話通訳者の健康を守る責任が雇用主にあることも指摘されている。

手話通訳者が健康で働き続けるために

手話通訳者の健康問題については、1990年より全国手話通訳問題研究会と滋賀医科大学予防医学講座が研究調査に取り組み、頸肩腕障害の発生メカニズムと予防方法を明らかにしてきた。そしてその原因として
①過重な手話通訳業務
②厳しい労働環境(周囲の理解不足、待遇の悪さ、健康診断の未実施)
③手話通訳者自身の健康に対する認識不足
と整理されてきた。

①過重な手話通訳業務としては手話通訳依頼件数が増加していること、市町村合併で担当地域が拡大したこと、手話通訳以外の業務が増えたこと、登録手話通訳者が少ないこと等が背景としてある。
②厳しい労働環境については、雇用された手話通訳の8割が非正規雇用者で、半年から1年の雇用契約で身分が不安定であること、①とか関わって代休や育休がとれないこと、健康に不安があっても十分な配慮が職場でなされないことがあげられる。これらの改善が必要となる。
③については、健康問題に関する学習会や研修会に約半数の人々が「参加していない」という状況がみられる。労働条件の改善が大切だが健康についての自己管理も重要である。

✔厚生労働省,令和 2 年度障害者総合福祉推進事業「雇用された手話通訳者の労働と健康についての実態に関する調査研究」2021年3月19日発行,一般社団法人全国手話通訳問題研究会
✔手話通訳を学ぶ人の「手話通訳学」入門,林智樹,日本手話通訳士協会,2017
✔手話言語白書,一般財団法人全日本ろうあ連盟,明石書店

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?