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手話通訳者全国統一試験「ハローワークにおける手話通訳者の動向」2021過去問⑥解説〜手話協力員制度〜

2021年度手話通訳者全国統一試験の過去問について、参考文献をもとに独自に解説をまとめたものです。


問5.手話協力員制度

手話協力員制度について述べています。下記の(1)〜(4)の中から正しいものを1つ選びなさい。

(1)1973(昭和48)年厚生省(当時)が求職相談や職場定着指導など聴覚障害者に対するコミュニケーション支援として職業安定所(当時)に設置した。
(2)全国のハローワーク数544ヶ所(本所436所出張所95所分室13室:2017(平成29)現在)すべてに設置されている。
(3)設置されている手話協力員の勤務状況は、ほとんどが常勤職員である。
(4)聴覚障害者にとって、ハローワークは重要な就職支援機能を持っており、聴覚障害を理解した手話協力員の配置は欠かせない。

2021年度手話通訳者全国統一試験 筆記試験 問5

問題解説

(4)が正しい。ハローワークにおける手話協力員の役割や手話協力員の状況について理解しておきたい。あわせて 一般社団法人 全国手話通訳問題研究会が実施した「雇用された手話通訳者の労働と健康についての実態に関する調査研究報告書」(令和3年3月)の調査結果からの動向と課題についても整理しておきたい。

手話協力員制度とは

手話協力員制度は、1973(昭和48)年に労働省(当時)が、求職相談や職場定着指導などにかかる聴覚障害者に対するコミュニケーションをサポートする者としてハローワークに設置した制度である。
全国のハローワーク(544所)のうち設置されているのは現在300ヶ所程度でありすべてのハローワークに設置されているわけではなく、勤務時間も7時間と非常に限られている。

聴覚障害者にとってハローワークは重要な就職支援機能をもっており、就職後の支援も必要とされる。聴覚障害を理解した手話協力員の配置が欠かせない。手話協力員の勤務時間も国の基準で定められているが、ハローワークでいつでも対応できる支援体制が望まれる(手話通訳Ⅱ,p13)。

公共職業安定所の手話通訳者(手話協力員・職業相談員)の動向

公共職業安定所は全国に544カ所(2020年現在)あり、全通研支部の2019年動態調査では337人が職業安定所関係へ勤務している。手話協力員は1973年より「手話協力員設置要綱」に基づき雇用され、来所する聴覚障害者への求職相談や転職相談、職業指導、各種手続きにおける手話通訳を行っている。さらに、 聴覚障害者へのコミュニケーション支援だけでなく、公共職業安定所職員の聴覚障害者理解を促すと同時に、職場定着指導においても企業に理解を求め、聴覚障害者の雇用、職場定着を支援している。

しかし、2006年から設置時間数が月8時間から7時間に減らされ、あわせて1時間あたりの報酬も減額されるという措置がとられた。全日本ろうあ連盟は、これに対して「手話協力員制度の予算を増やし、稼働時間の増加を図る」ことを毎年厚生労働省に対して要望しているが、今日まで改善されていない。 また、手話協力員とは別に公共職業安定所には職業相談員が雇用されている。週4日の勤務で、職業相談や就労後のアフターケアを業務とするが、なかには手話通訳を主要業務として雇用されるケース がある。身分について正規職 員と回答のあったものは0人であり、100%非正規職員である。

手話協力員の今後の課題

公共職業安定所の手話協力員・職業相談員の96.8%は女性で、調査を開始した1995年から女性の比率は90%を超える状況で推移している。 手話協力員・職業相談員の100%が非正規職員の身分であり、手話協力員の1カ月の平均賃金は4万 円以下である。公共職業安定所で専門性を必要とされる手話協力員・職業相談員は短時間労働に抑えられており、低賃金と不安定な身分は依然として重大な問題である。 年齢構成では、調査ごとにおおよそ3歳ずつ平均年齢が上がり、今回は59.8歳だった。手話協力員・職業相談員の1カ月の勤務時間は10時間以下が28.7%、不明が66.5%となっている。聴覚障害者の働く権利、人間らしく暮らす権利を実現するために、コミュニケーションに配慮した公共職業安定所での相談・指導、雇用機会の開拓、企業への助言等の機能を担っている手話協力員・職業相談員の果たす役割は大きい。 2006年から手話協力員の稼働時間が1カ月8時間から7時間に縮小されたために、国の障害者就労目標は「雇用と同時に職場定着」とされているものの、聴覚障害者への支援は、窓口での手話通訳が中心 となり、職場定着支援の時間確保が難しい状況がある。

2016年4月から「改正障害者雇用促進法」(障害者の雇用の促進等に関する法律の一部を改正する法 律)が施行され、障害者の雇用・労働については「雇用主の合理的配慮」が義務となり、職場環境の改善について積極的な取り組みが求められる。聴覚障害者の就労支援は、聴覚障害者の求職や職業相談、職場適応指導、面接場面や採用後の職場定着を見据えた就職指導など多様化していることから、未設置の公共職業安定所に手話協力員を配置するとともに、聴覚障害者の来所が多い公共職業安定所を中心に、手話協力員の常勤化、もしくは1カ月の稼働時間を増やす、手話協力員を増やす等の対策も不可欠である。

雇用された手話通訳者の労働と健康についての実態に関する調査研究報告書(2020年8月調査),厚生労働省令和2年度障害者総合福祉推進事業

https://www.zentsuken.net/img/index/20210323-report.pdf

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