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手話通訳者全国統一試験「障害者権利条約」2020過去問⑪解説〜条約の批准と障害者差別解消法〜

2020年度手話通訳者全国統一試験の過去問について、参考文献をもとに独自に解説をまとめたものです。


問11.障害福祉の基礎

2006(平成18)年国連総会において採択された障害者権利条約について述べています。下記の(1)〜(4)の中から正しいものを1つ選びなさい。

(1)2006(平成18)年に採択された権利条約は、その後日本政府として署名を行い、さらに署名国が20か国に達したので発効した。
(2)聴覚障害分野の立場からすると、第2条(定義)、第19条(自立した生活及び地域社会への包容)、第21条(表現及び意見の自由並びに情報利用)などが特に重要である。
(3)権利条約は、一般法律と同等に位置づけられているのが、憲法上の一般的な解釈である。
(4)国内法制を権利条約の水準に近づけるため、障害者基本法の改正や障害者差別禁止法(略称)の制定などが行われた。

2020年度手話通訳者全国統一試験 筆記試験 問11

問題解説

(2)が正しい。2006年に国連総会で障害者権利条約が採択され、日本が批准するまでの背景や法整備について整理しておきたい。障害者差別解消法や合理的配慮についても理解を深めたい。

障害者権利条約の批准

障害者権利条約が第61回国連総会で採択<2006(平成18)年12月13日>された。その後、日本政府としても署名を行い、さらに批准国が20カ国に達したことを受けて、2008(平成20)年発行をみた。聴覚障害分野の立場からすると第2条(定義)、第19条(自立した生活及び地域社会への包容)、第21条(表現及び意見の自由並びに情報利用)などが特に目を引く。日本において批准すること(締約国になること)、すなわち衆議院での可決をもって承認することであるこうした手続を経れば国際条約は法的根拠を有することになり、一般法律の上位に位置づけられるというのが憲法上の一般的な解釈である

批准の条件を満たすために権利条約と関連する国内法制のギャップを埋める必要があり、権利条約の水準に国内法制をあわせることが求められた。

障害分野にまつわる特に重要な三つの法律の改正またはスケジュールが明示された。すなわち、障害者基本法の改正、障害者総合福祉法の制定、障害者差別禁止法の制定である。「障害者総合福祉法の骨格に関する総合福祉部会の提言−新法制定を目指して−」の提言は10分野を主部とする60項目からなる骨格提言であったが、2012(平成24)年6月21日に新たに制定された「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」(略称:障害者総合支援法)は、骨格提言とはおよそかけ離れていた(手話奉仕員養成テキストp116,117)。

障害者差別「禁止」法から障害者差別「解消」法へ

障害者差別禁止法の制定については、「『障害を理由とする差別の禁止に関する法制』についての差別禁止部会の意見」に基づいて法制定の動きがスタートしたものの政権・与党内でも見解が分かれ難航した。結果的に2013(平成25)年6月19日に全会一致で成立となった。しかし制定時に既にいくつかの問題点が指摘されている。主要なものとして、①法律の名称が「差別禁止法」ではなく「差別解消法」になってしまった、②肝心の「差別の定義」についての明示がない、③立法府や司法府には適用されない、④「合理的配慮の不提供は差別にあたる」規定が民間事業所には適用されない、などがあげられる(手話奉仕員養成テキストp119,120)。

障害者差別解消法に基づく基本方針の改定

我が国では、障害のある人もない人も、互いにその人らしさを認め合いながら共に生きる社会(共生社会)を実現するため、「障害者差別解消法」を定めている。
「障害者差別解消法」では、行政機関等及び事業者に対し、障害のある人への障害を理由とする「不当な差別的取扱い」を禁止するとともに、障害のある人から申出があった場合に「合理的配慮の提供」を求めることなどを通じて、「共生社会」を実現することを目指している

「合理的配慮の提供」とは、障害のある人から「社会の中にあるバリア(障壁)を取り除くために何らかの対応が必要」との意思が伝えられたときに、行政機関等や事業者が、負担が重すぎない範囲で必要かつ合理的な対応を行うことである。
「合理的配慮の提供」は、これまで行政機関等は義務、事業者は努力義務とされていたが、改正法により、令和6年4月1日から事業者も義務化されることとなる。

合理的配慮の内容

「合理的配慮」の内容は、障害特性やそれぞれの場面・状況に応じて異なる。事業者は、主な障害特性や合理的配慮の具体例などを予め確認した上で、個々の場面で柔軟に対応を検討することが求められる。

【「合理的配慮」の具体例】

意思を伝え合うために絵や写真のカードやタブレット端末などを使う

内閣府

段差がある場合に、スロープなどを使って補助する

内閣府

障害者から「自筆が難しいので代筆してほしい」と伝えられたとき、代筆に問題がない書類の場合は、障害者の意思を十分に確認しながら代筆する

内閣府

https://www.cao.go.jp/press/new_wave/20230331_00008.html

よって(2)が正しい。(1)は、障害者権利条約は2006(平成18)年、国連総会で採択された後、日本政府としても署名を行い、さらに批准国が20カ国に達したことを受けて、2008(平成20)年発行をみた。問題文の「署名国が20か国」が間違い。正しくは「批准国が20カ国」である。(3)の「憲法上の一般的な解釈である」が間違い。国際条約は法的根拠を有することになり、一般法律の上位に位置づけられるというのが憲法上の一般的な解釈である。(4)は障害者差別禁止法ではなく、「障害者差別解消法」である。

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