手話通訳者全国統一試験「聴覚障害の基礎知識」2020過去問⑥解説〜聞こえの仕組みと役割〜
2020年度手話通訳者全国統一試験の過去問について、参考文献をもとに独自に解説をまとめたものです。
問6.聴覚障害の基礎知識
問題解説
(1)が正しい。
耳の働き、耳の役割
耳でことばを聞き、周りの人々との関わりの中でことばを理解し、発音・発語するようになる。そしていろいろな経験や学習を積み重ねて、ことばを駆使していくようになる。
耳で聞くのはことばだけではなく、生活の中の様々な音を聞いている。耳は前後左右、上方下方どこからでも聞こえる。耳は24時間寝ている間もずっと音が聞こえる状態である。
音楽を楽しんだり、川のせせらぎ、海の波が寄せては返す音、風の音、鳥の鳴き声、映画やテレビに使われる効果音など感情と音は密接な関わりがある。耳は聞こえることだけでなく、発音にも大切な役割がある。ドアの開け閉めや足音など聞こえない者にとっては物音に気を配ることは苦手なことである。耳で聞くことの役割は表の通りである。
音とは
耳で聞く音は空気の振動(音波)によって伝わる。次の三つが「音の三要素」とよばれている。
① 音の大きさ(Loudness:ラウドネス)※物理的には「強さ」(音圧)
② 音の高さ(Pitch:ピッチ)周波数
③ 音色(Tone:トーン)波形の特徴
音の大きさは、空気の振動の強さで決まる。人間が聞くことができる音の強さの幅が大きいことから、人間の聴覚特性(音の大・小)を表しやすいdB(デシベル)という単位が用いられる。
聞こえの仕組み
音は空気の振動で伝われる。外耳道を通り、突き当たりの鼓膜を振動させる。耳介と外耳道を「外耳」という。外耳の役割は、高い音(3kHz〜4kHz)を共鳴、強調させて、聞き取りやすくする役割をもっている。そして、鼓膜の振動を効率よく内耳に伝えるため、鼓膜と連動する三つの耳小骨との「面積比」と「てこの原理」で振動を増幅する。この部分を中耳という。
増幅された振動は、カタツムリの形に似ていることから「蝸牛」とよばれる器官に伝わる。中はリンパ液で満たされており、音に反応して電気信号を発生させる有毛細胞がある。蝸牛といっしょにあるのが前庭・半規管で、平衡感覚に関わる器官で内耳という。
外耳と中耳は内耳へ音を伝えるための器官なので伝音器とよばれる。内耳から蝸牛神経を通って音の振動を電気信号に変えて伝えられるため音を感じる器官として感音器と呼ばれる。
ゴロー/イラストで学ぶ体の仕組み
https://www.youtube.com/watch?v=wrinYsI50XU
伝音系難聴と感音系難聴
鼓膜に穴があいたり耳小骨の軟化や中耳に水がたまるなどの病変が起こり、振動がうまく伝わらないために難聴となる場合を「伝音性難聴」という。
蝸牛の有毛細胞の損傷や聴神経の損傷で電気信号がきちんと脳に伝わらない場合は「感音性難聴」という。
また、伝音系にも感音系にも障害が起こる場合、混合性難聴という。
聞こえの実態
伝音性難聴の場合は、音を内耳に伝える部分の障害のため音が小さくなってしまうが、内耳に異常がない場合は、補聴器で充分に大きな音に増幅すれば聞き取りは改善される。補聴器の装用効果がかなり高いといえる。
感音性難聴の場合は、「あいうえお」のように低い周波数で強いパワーをもつ母音はよく聞き取れるが、「さしすせそ」などの子音は高い周波数が中心でパワーが弱いため、補聴器で充分な大きさにしても聞き取りは不明瞭である。聞こえる人が騒がしい場所でも会話できるのは、自分が聞きたい音だけを選んで聞く能力があるからであるが、感音性難聴では、聞きたい音を選び出す力が低下しており騒音にかき消されて聞き取れなくなる。
よって(1)が正しい。(2)は、伝音性難聴は「内耳」に異常がない場合、が正しい。(3)は、感音性難聴の特色に「小さい音」が聞こえないこと、が正しい。(4)は、音は空気の振動で伝わる。外耳道の役割は「高い音」を共鳴、強調させて聞き取りやすくする役割、が正しい。
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