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ボカロのなかのポストロック(その3)

ボカロのポストロックを紹介する記事です。(その1)はこれ。

ボカロ聞く人にポストロック聞いてほしい目的もあるので、今回はポストロックの話から入りますかね。

去年くらいからSpotifyでSweet Tripが流行っている、というのを最近知りました。Sweet TripはOvalのグリッチとマイブラのフィードバックという二つのノイズに影響を受けつつ、Aphex Twinやμ-ZiqのようなIDMに由来する複雑なリズムアプローチをやる実験的バンドでありながら、Cocteau Twinsらドリームポップの流れを組む歌ものとしての親しみやすさまで備える夢のようなバンドです。以前は一部のポストロック、シューゲイザー、エレクトロニカのファンにしか名前が知られていない存在でしたが、十年以上のときを経て再発見されたようです。いい時代だなと思います。Spotifyにおける再発見といえば、近年フィッシュマンズが海外でもよく聞かれているそうで、これも喜ばしいことです(キセルや渚にてまで再発見が及んでほしい気はしますが)。

それでめでたく再発見されたSweet Tripとフィッシュマンズなんですが、どうも聞く層がけっこう重なっているようなんですね。共通点といえば二つともドリームポップということ。しかし聞けばわかる通りこれら二つのバンドは全然違う音をしていて、それぞれ異なる音楽的背景からドリームポップをやっています。Sweet Tripはさきほど述べたように電子音楽とシューゲイザーが背景ですが、フィッシュマンズはダブの影響が大きい。このふたつをドリームポップだからという理由で同列に聞くのはかなりいい加減な音楽の聴き方です。好感が持てますね。ぼくもなんでもサイケに接続すればいいと思って音楽を聴いている。

そうはいってもこの二つのバンドの距離、ちょっと遠すぎるので、サイケになじみのない人にはその中間があった方が理解がはかどりそうですね。具体的にはシューゲイザーとダブに影響を受けたドリームポップ的な歌ものポストロック。ちょうどあるんですよ、そういう曲が。

9. ごはんP/211(and stratocaster)

冷たくざらざらと歪んだエレキギターがピッチを揺らしながら空間を漂う最初の一音。この時点でシューゲイザーに影響を受けた音楽でありつつも、マイブラ的なシューゲイザーサウンドから距離を置いているのがわかります。空間をノイズで埋め尽くして圧倒するウォール・オブ・ノイズではなく、開けた息の吸える空間に仕立てる。ベースとドラムが入ってくると、それが何に由来するものかわかります。ダブです。このリズムパターンはあきらかにレゲエのもの。フィッシュマンズの影響はコメントでも指摘されているとおりですが、生ドラムでなくドラムマシンをつかったアプローチからもうひとつの日本のダブ・ドリームポップバンド、キセルの影もちらつきます。

ひかえめにミックスされた初音ミクのボーカルはサチュレーションされてざらついた質感。平板で朴訥なスタイルが曲にマッチしています。クランチ気味の音でアルペジオを鳴らすどこかよれたギターも印象的。ブリッジではドラムとボーカル、ギター以外の音は引き、裏拍で鳴るクラップとシンコーペートしたギターのリフによってリズムが強調されます。クライマックスではは恍惚のギターソロ。フィードバックノイズが押し寄せますが、大量のリバーブで包まれた音は開けていて暑苦しさがない。このくだりはあきらかにシューゲイザーのマナーではなく、60年代のジミヘン、そこから少し下ってスペースロック、ジャーマンヘビーサイケの影響を感じます。ポストロック周辺バンドで言うとFlying Saucer Attackと同じルーツですね。ぼくはこういうマイブラに寄せないタイプのシューゲイザー(シューゲイザーなのか?)が大好きです。初期のMedicineとかね。

そういうわけでごはんPの『211(and stratocaster)』はシューゲイザーとダブを折衷したすばらしい曲でしたね。Sweet Tripとフィッシュマンズが好きな人には完全にマッチすると確信しているので、友人にそういう人がいたら「いいドリームポップがあるよ」と紹介してあげましょう。間違ってもポストロックとかいう呪いとともに押し付けないでください。逆にFlying Saucer Attackが好きな人に勧める場合には、ぜひポストロックということにしましょう。相手に合わせて都合よく音楽を切り取っていこう。

ところで、これは同じ作者の別の曲の話なんですが、作者のごはんPがbigmuffのマイリスコメントで「めざせメイヨ・トンプソン」とコメントしていて最高の笑顔になりました。ありがとう、ごはんP。ありがとう、メイヨ・トンプソン。

10.daluy/回る夢の木馬

七拍子のギターリフを中心に、初音ミクの声、電子音、ピアノやドラムなどさまざまな音をオーバーダブしていったような曲、のように思えます。自信はないです。なにもわからない。わからないけどエクスペリメンタルなロックの感じはあるのでポストロックだということにしていいでしょう。似ているバンドも引き合いに出す曲も見当がつかないのですが、一人多重録音みたいな雰囲気からMike OldfieldのTubular Bellsならそこまで外していないんじゃないかなと思います。あれも変拍子リフだし……Mike Oldfieldはポストロックではないが……。ポストロックならRamdaあたりころのMice Paradeでしょうか。あれをぐっとサイケに寄せ、リズム的アプローチもほんのすこし抑えてXTC的ひねくれサイケポップ方面にいくと「回る夢の木馬」に近づきそうな気がしませんか。しませんね。

『回る夢の木馬』に戻りますが、タイトルの通りぐるぐると同じところを回るようでどこが小節の頭か見失いそうになる不思議な曲です。変拍子のリフがそうさせるんでしょうか? 調性も不安定な感じがしますが、よくわかりません。変拍子の曲は展開でしばしば三拍子や四拍子に「解決」しますが、この曲もそうです。ダイナミックに展開して三拍子に。サーカスとか回転木馬から連想するの三拍子なんですけど、なんでなんでしょうね。それまで楽器的に使われていた初音ミクのボーカルにも歌詞が乗って歌になりますが、主張しすぎない奥に引っ込んだ歌です。メインを張るという感じではなく、さりげなく使われている。こっから先のパートもよくわからないですね。カラフルなサイケでとてもいいと思いました。動画の落ちていくミクちゃんかわいいですね。ギターをピッチベンドしながらディレイで飛ばすのと駆け上がるピアノのフレーズで落ちていく感じ出すのもいいです。最後、夢から覚めて日常にかえってエンド。左右のギターのずれがいい。きちんとしすぎないところがいい。いいところしかないですねこの曲。

11.leas/ゾルピデム

二曲続けてサイケだったので三曲目もサイケにしましょう。聞かなくてもわかります。タイトルにドラッグのほのめかしが入ってる曲はぜんぶサイケ。

再生してすぐに聞こえてくるはかなげなクリーントーンのギター、沈み込むように遅いテンポのドラム。このあたりは以前紹介したスロウコアにも近いのですが、ゾルピデムの薄もやのかかったような湿ったサウンドはスロウコアの乾いた音とは反対です。その後、ゆったりとメロディを口ずさむボーカルが加わります。ボーカルの東北ずん子の声は朦朧とした頭に降り注ぐように遠い。美しい曲です。ブレイクを挟んでからはフィードバックノイズの嵐。音楽でノイズと言ったときはしばしば耳に痛い攻撃的なものを想像します、ここで聞かれるのリバーブのかなたにゆらめく優しい音です。途中で加わるスキャット的なボーカルもよく、ブリッジからのヴァースへの戻り方もあざやか。すばらしい。

今まで「これポストロックなの?」「ポストロックとは?」みたいなこともありつつやってきましたが、『ゾルピデム』に関してはかなり自信をもってポストロックとして紹介しています。Bark Psychosisが好きな人ならこの曲も好きになると確信しているからです。

Bark PsychosisはUKポストロックの代表的バンドです。いかにも英国らしい陰りのある美しい音。A.R Kaneあたりのシューゲイザー周辺バンドと4AD周辺やTalk Talkの耽美的サウンドに影響を受けてはいるんだろうと思いますが、シューゲイザーそのものをやっているわけではなく、4ADっぽいわけでもなく、あえて形容するならポストロックとしておくのが適当な感じの音がしますね。そういう「一口でなにとは言えないがあえて言えばポストロックかなあ?」みたいなのをたくさん増やしていきたいですね。だんだんポストロックについての理解が深まり、なにもわからなくなってくると思います。とてもいいことですね。終わります。続きはそのうち書きます。

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