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草臥れたおじさんにロック エルビス・コステロ

エルビス・コステロ+スティーブ・ナイーブ ライブ
2024/4/12 浅草公会堂

希代のエンターティナー”エルヴィス・コステロ” 8年振りの来日公演決定!
シンガー、プロデューサー、バンド活動とマルチな才能を発揮している我らがコステロ。
今回は盟友プロフェッサー”スティーブ・ナイーブ”とのコラボでのステージ。久し振りのコステロワールドを御堪能下さい。

SMASH 公式サイトより

…に行きました。

 客層はおじさん+おじいさんで90%(50~70代)。あとは10%がお姐さんとおばさん(30~70代)。目視した限りですが歌舞伎の客層より平均年齢が高くて、私が今まで観た各種ライブパフォーマンスの中でもっとも高かったと思います。歌舞伎座の大歌舞伎公演の客層が平均値でなんとなく50歳弱とすると、平均をとったらこちらは55歳くらい。あと、ロックンロール的不摂生を続けてきた人が多いのか、いまどきの高齢者としては、なんだか草臥れた感じのおじさんが多かった。
 とはいえ俺様も、秘蔵のBrutal Youthツアー(1994)の時の30年物のTシャツ着てたので立派な草臥れおじさんです。おじさん・おじいさんは肉体の衰えは明らかなので、余程体躯が立派でないと頑張って革製品着てても草臥れたかんじになりますね。

 草臥れてたのは見てくれだけじゃなかったんです。会場では撮影の規制についての案内が全くなくて、実際撮影している人もお咎めなしだったのに撮影している人が凄く少なかった。遠慮したのと面倒臭いのと、そもそもYoutube他に上げるという発想がないのとだったのでしょう。相対的に若い人が撮影してたんですみな遠慮がちで、好きな曲のとこだけピンポイントで撮影する感じ。
(記事の下は珍しく全編録画した方の動画)

 そればかりか、人様に難癖付けて満足感を覚えるタイプのルーザーおじさんまでいたんです。私自身、撮影したくなるかもと思って、Tシャツの上に羽織ったシャツの胸ポケットにスマホを差していたら、「光ってる!」とか隣の席のおじさんに怒られた。何かの拍子に少し画面が光ったのを見とがめられた。仕方ないからスマホを裏返してまた胸ポケットにさしたら、また何かの拍子に光ってそれも「光ってる!消せよ!」とか絡んできた。演奏もはじまっていたし、やべーやつだったので電源オフ。外見が草臥れるのは仕方ないんですが、人間性が草臥れて人様に命令する立場でもないのに命令して嬉しがるって…ルーザーの高齢者ほど人様に説教するのが好きという法則のいい見本だった。

 コステロ本人は69歳。予習で最近のライブの動画をみたら、割とよれよれしてたのでこちらも心配だったんですが、草臥れてなくて声はちゃんと出てました。

それでセトリなんですが、
Watching the Detectives   *レゲエ調の名曲
I Still Have That Other Girl *バート・バカラックとのやつ
Radio Radio *1977年のどストレートなマスメディア批判の曲。
       米国地上波人気番組『サタデーナイトライブ(SNL』での
       ゲスト出演時に予定を変更してこの曲を演奏。
       そのせいでコステロは1989年までSNL出禁に。
She    *映画『ノッティングヒルの恋人』主題歌
(What's so funny 'bout) Peace, Love, and Understanding 
      *残念ながら2024年の今こそ一層意義深いものとなった
      天邪鬼メッセージソング
Alison  *”She” ”(What's so funny 'bout) Peace, Love, and Understanding” ”Shipbuilding" …など意外にも代表曲にカバー曲が多いコステロのオリジナル代表曲。

…と、おおむね聴きたい曲は含まれていたものの年齢的に最後のチャンスのライブの可能性もあり、正直物足りなさもある選曲でした。例えば、折角スティーブ・ナイーブ(キーボード)と二人なのにピアノのイントロが印象的なShipbuilding はなし。フォークランド紛争(1982)の時のメッセージソングだから、今となってはメッセージが陳腐化してるし避けたのかな?と思ったんです。

 ただ後で確認したところ、数日前のすみだトリフォニーホールではShipbuildingあり。贅沢にもホールのパイプオルガンをスティーブが弾いてこの曲を演奏している動画がYoutubeにあがってました。(トップ画像はすみだトリフォニーホールのときの画像です)
 さらに調べたら、Veronica / Accidents Will Happen / Almost Blue 
等、人気曲&代表曲をやった日もありました。
 要は、セトリは気紛れに毎日変更するけど、撮影OKにするからその日聴けなかった曲はYoutubeとかに誰か上げるから恨みっこなしね! 何ならホールにこれなかった人も、みんなで全部楽しんでね! というコンセプトだったようです。ライブの楽しみ方に対しては、普通にアップデートした考え方で取り組んだ日本公演だった。

 で、浅草はAlisonが最後で、アンコールはなし。Alisonが終わった瞬間に会場を立ち去る人が多数でした。照明もついてないし、アナウンスもないし、最終日だから頑張るかもしれないし、なんでお前ら帰ってんだよ!と内心思いました。ただ、要は彼らはアンコールなしを知ってたわけで、おそらく他の日も観てたのでしょう。暇な高齢者が多かったせいか、撮影なんかしなくても他の日も参戦したからいいもんね、という楽しみ方の観客が多かったんだと思います。でも、もっと聴きたい!という想いを完全燃焼させようとしないところが草臥れている。私の隣席の光るもの嫌いのルーザーおじさんも、トイレ我慢してたの?という勢いでAlisonが終わった瞬間に席を立っていました。
 片思いの女性が他の誰かと幸せになっている姿を離れたところから観察し続けていて、「この世界が君をこれから殺すはずだ、僕の狙いは正確だから」…とルーザーが情けない負け惜しみを繰返すという解釈も可能な曲ですから、居たたまれなくなったのかもしれません、知らんけど。

 結局、私自身30年前のTシャツ着こんで、ルーザーに文句言われても言い返せず、思い出のために動画撮影もしなかった草臥れたおじさんとしてこの参戦は終わりました。ただ、コステロ自身は草臥れたおじさんにちゃんと宿題を残していってくれました。
・ 数々のメッセージソング聴いて感動した後、その後の人生でちゃんと行動してきたのか?
・ 考え方をアップデートして行動に反映できているのか?
・ より多くの人を巻き込んで幸せにすることができているのか?

 …それぞれの曲の味わいに加えて、コステロ本人が身をもって示してくれていました。草臥れてちゃだめだと思って帰ってきましたけれども。