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新作歌舞伎『流白浪燦星』~ルパン一味の華麗な初御目見得

新作歌舞伎『流白浪燦星』新橋演舞場。

 ルパン/片岡愛之助の衣装が赤ジャケットですが、石川五右衛門/尾上松也と出会い敵対関係から仲間になるまで…なので緑ジャケットPart1的な内容のお話を、様々な古典歌舞伎の要素を並べて舞台化です。
 数々の新作歌舞伎の成功例が出てきている中、上面だけをみたらエンタテインメントIP原作に、古典歌舞伎からの引用をちりばめた程度の一発芸的内容。古典歌舞伎によくある”忠義のための自己犠牲という理不尽”を、新作歌舞伎で”世界を救うための自己犠牲”へ変換するというようなテーマ性のアップデートは見られなかったのですが、ルパンならではのスタイルで、楽しくて独自の意義のある新作でした。

 ちなみにこの演目では古典歌舞伎からは、
・五右衛門が登場する「桜門五三桐」(”絶景かな、絶景かな”のとこ)の引用
・真暗闇でキャラクターたちが無言+スローモーションで動いて大事なものを奪われたりする、”だんまり” (大道具は白浪五人男のだんまり)
・「籠釣瓶花街酔醒」の花街
・幕末の牢屋の様子をリアルに描いた河竹黙阿弥の「伝馬町大牢」と全く同じ大道具での牢屋の場面
・最前列の客席には透明の防水シートを配って、びしゃびしゃやった”本水”を使ったアクション
・ルパン三世Part2の「花吹雪 謎の五人衆(前・後篇)」の元ネタ「白浪五人男」の引用
…等々が登場。あと六方とか。

以上を全部盛り込んだのでかなり忙しい舞台転換になりましたが、回り舞台とか使って結構よどみなくお芝居は進んでいました。

 愛之助ルパンは、歌舞伎の演技とアニメの演技足し算を上手にこなした感じ。逆に松也五右衛門はアニメに引っ張られて台詞が少なく、若干見せ場はありますが家屋を真っ二つ!みたいなのがないので印象が薄かった。次元の市川笑三郎は新作歌舞伎ならではの部屋子出身実力派が活躍できる枠。ずっと見てられるカッコよさ。不二子の市川笑也も国立劇場養成所枠。藤原紀香が演舞場に来てましたが色気では笑也が圧勝。銭形は下まつげとケツ顎を描いた市川中車が楽しそう。

 こういう風に”エンタテインメントIP+古典からの引用の組み合わせ”を歌舞伎スタイルで演技して物珍しさ/高級感をだすだけの手法なら、陳腐だと思います。例えばナウシカやマハーバーラタは、現代に通じる普遍的なテーマを据えて再演に耐える演目を開発し、新作を古典化していくという挑戦でした。ただ、この演目にはルパンのタイトルに相応しいエンタテインメント性の高さはあったものの、お話は荒唐無稽でテーマ性の普遍性はなかった。

 それでも、観劇後にルパンらしい爽快感が残って、もっと見たいという気持ちになりました。本当にルパンらしい荒唐無稽なお話だったんですが、エピソード0的な位置づけになっていたせいでしょう。ルパン歌舞伎の場合は、歌舞伎にルパン一味というキャラクターを取り込む挑戦だったといううことだったと思います。

 池波正太郎の小説『鬼平犯科帳』みたいに、鬼平もので複数の歌舞伎演目が上演されるようなかんじで、ルパンもの歌舞伎の更なる新作やシリーズ化への今後の可能性を開いたんじゃないかと思いましたけれども。