逆走

ダウンの上にダウンを着て家の近くを歩いていると公園があって、小学生くらいの子どもたちが半袖で走り回っていた。公園の木の枝に2羽のカラスが止まる。
「カラスだ!」
「カラスが来た!」
「一緒に遊ぼー!」
カラスはカー、ではなくグゥゥ……と決まりが悪そうな声を出す。そうだよな、と思って、急いで帰って、ジャージに着替えてランニングに出た。カネコアヤノの新しいアルバムが聴けるようになっていたのでそれを頭から再生する。手が凍るように冷たくて、信号待ちのたびにポケットに手を突っ込んだ。肌に近いポケットの方があたたかい。白い壁のマンションが夕日を受けてくすんだオレンジ色になっている。マンションの背景にはまだぎりぎり青いと言える空があって、そのオレンジと青の区画に、惹かれるように目がいった。時間、温度、季節、気分、そのときの自分を取り巻くあらゆるものが、その区画で座標のように色づいていた。近づくほどに高くなる座標を見上げながら、人と人の間を縫うように走った。夕方の歩道は駅に向かう人たちで狭くなる。そんなつもりはなかったけれど、僕は逆走するように、そしてまた逃げるように、人がいないところへ向かって太い脚を動かした。

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