見出し画像

進化するWOWOWの「パラリンピック・ドキュメンタリーシリーズ WHO I AM」              <市民メディアの現場から Vol.5>                  B-maga 2024 2月号

2016年にスタートした
『WHO I AMプロジェクト』

 「17歳 小田凱人が全豪OP初優勝 四
大大会3勝目」—。嬉しいニュースが1月27
日、オーストラリアから飛び込んできた。
 時事通信は次のように伝えた。
 《【メルボルン時事】テニスの全豪オープ
ン車いす部門は27日、メルボルン・パークで
行われ、男子シングルス決勝で第2シード
の小田凱人(東海理化)が第1シードのア
ルフィー・ヒューエット(英国)を6−2、6−4
で破り初制覇を遂げた。17歳の小田は同
種目で大会史上最年少の優勝となり、四
大大会通算3勝目。日本勢の優勝は11勝
した国枝慎吾に次いで2人目となった。》
 この小田の快挙の直前、1月20日から今
年の放 送が始まったW O W O W(( 株 )
W O W O W、東京・港区、田中晃社長、以
下W O W O W)の番組「ドキュメンタリーシ
リーズ WHO I AM パラリンピック」が初回
に取り上げたのが小田凱人(ときと)だった。
この全豪での優勝を期待して放送日を決
めたのだろうか、WOWOWの感性の鋭さ
に敬服した。
 W O W O Wが2016年からスタートした
『WHO I AMプロジェクト』をご存じだろう
か。2020東京オリンピック・パラリンピックに
向けて、リオのオリ・パラの年から、世界最
高峰のパラアスリートに迫る番組『WHO I
AM』(これが私だ!という意味)の制作を始
めたのだ。東京パラまでの5年間(コロナ禍
の開催1年延期で6年になったが)、国際
パラリンピック委員会(IPC)との共同で毎
年8人(組)ずつのトップアスリートを捉えたド
キュメンタリー番組の放送を続け、25カ国
40組のメダリストたちの生き方を伝えてきた。
 この間、番組を放送するだけではなく、パ
ラスポーツとは何かを伝えるイベント「WHO
I A Mフォーラム」や、新しいカタチのユニ
バーサルスポーツイベント「ノーバリアゲーム
ズ #みんなちがってみんないい」などを大
規模に開催。教育分野でも番組を教材に
したり、企 業 研 修のテーマにしたりして、
「WHO I AM」は障害者スポーツ界の合
言葉のように受け止められた。東京パラリン
ピックの盛り上がりに貢献し、パラスポーツ
への認識を改めるムーブメントをつくった。

今後の放送の在り方を示した
「WHO I AM」

 私が「W H O I A M」に出会ったのは
2018年5月に横浜で開かれたNPO「パラ
フォト」が開催した上映イベントだった。番組
を見て強烈なインパクトあるメッセージを感
じ、より多くの人たちに観てもらえば世の中
が変わると確信できた。さらにパラアスリート
たちと登壇したWOWOWチーフプロデュー
サーの太田慎也さんが、この制作に込めた
思いや、制作する中で得た発見を語ってく
れたので、その場で「授業で学生たちに伝
えてほしい」とお願いし、私の担当する2つ
の大学の授業で太田さんに講義していた
だくことが実現した。
 「WHO I AM」の視聴は無料のオンデ
マンドで観られるので、その後私の授業で
は毎年教材として視聴させてもらっている。
 東京でのパラリンピック開催後、国民の
パラスポーツに対する認識に大きな変化が
あったことは言うまでもない。「 W H O I
AM」も多大な役割を果たし、WOWOWの
プロジェクトも一 区 切りかと思 いきや 、
「2022年、リニューアル&パワーアップして
新たなフェーズへ」との発表があり、<「ド
キュメンタリーシリーズ WHO I AM パラリン
ピック」と、アーティストやクリエイターなど、ス
ポーツの枠を超えた多様なラインナップで贈
る「ドキュメンタリーシリーズ WHO I A M
LIFE」の2ライン>での展開に発展させた。
時代潮流の先駆けの番組の手応えに、新
たな分野に広げた「WHO I AM」に挑戦
し始めたのだ。
 パリでのオリ・パラが開かれる今年、小田
凱人の放送の後はイタリアの陸上選手アン
ブラ・サバティーニの活躍を紹介した番組を
放送、2月はWHO I AM LIFEでミュージ
シャンと舞台俳優の番組の2本が予定され
ている。
 番組はこれまで数々のアワードで賞を
とっている。『WHO I AMプロジェクト』の
詳細はWOWOWホームページで見ていた
だき、まだ番組を見ていない方はぜひじっく
り見てほしい。
 このプロジェクトでWOWOWは、コンセプ
トとして「放送はゴールではなくスタート」を
合言葉に「映像を基軸として広く社会に向
けた発信」を続けていると強調。「すべての
エンターテインメントの根源である、ひとつと
して同じではない『個』の輝きを見つめ、エ
ンターテインメントの力で人々の意識にある
バリアを取り払うことが、真に多様性を認め
合う未 来 社 会 への 近 道であると信じ、
WHO I AM PROJECTは今後も独自の
発信を継続していく」と力強く宣言している。
まさに今後の放送の在り方を示した番
組なのだ。パリ・パラ開催の年に、この番組
を核にしたさらなるムーブメントが始まったよ
うに感じている。

鈴木賀津彦(すずき・かつひこ)
東京新聞(中日新聞東京本社)の記者として長年勤めた経験を活かし、定年退職後に複数の大学で非常勤講師としてメディア情報リテ
ラシーなどの授業を担当。特にデジタル・シティズンシップ教育に取り組む。記者時代から、誰もが発信者になる時代のメディアの在り方と
して、市民メディアの役割を重視、NPOなどで市民メディアプロデューサーとして活動。横浜市在住。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?