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#67 定額働かせ放題 教員の働き方改革と給与

人材不足が深刻化している公立学校。
教員確保は喫緊の課題である。

志願者の減少はもとより、教員になっても辞めるケースが増えている。

公立学校の先生は「教育公務員だから安泰」というのはもはや神話なのか。

文部科学省の諮問機関である中央教育審議会の特別部会では、教員の給与制度や働き方改革について具体的な検討が進められており、2024年春をめどに方向性を示すことになっている。

自民党内の議論でも、
「頑張っている教師が報われる給与体系になっていない」
「教員が力を発揮するために、法規や制度の整備が必要だ」
といった意見が出されており、何らかの具体案が出されるようだ。

給特法
「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」(1972年施行)
では、教員に対して残業代を払わないことになっている。

その代わり、基本給の4%を「教職調整額」として支給すると定めている。

「残業代なし」の仕組みについて、教職員組合や現場の教員から「定額働かせ放題」といった批判が上がっている。

戦後にできたこの制度では教員の給料は一般公務員より1割程度高く設定されていた。

教員の勤務時間は一般公務員より長いという理由からだ。

制度的には一般公務員同様に残業代が出る仕組みになっているのに対して、文部省(現文部科学省)は校長が時間外勤務を命じないよう通達を出し、残業代が生じないよう制度が運用されていた。

しかし、実際には残業が常態化し、これまでに残業代支払いを求める訴訟が全国で起こされてきたことを踏まえ、1966年に公立校教員の勤務実態調査が実施された。

その結果、小中学校の1カ月の時間外勤務は平均約8時間と推計され、これに見合う基本給の4%を「教職調整額」として上乗せして支給することとし、残業代は支給しないという制度を設け現在に至っている。

半世紀がたち、教員の働き方は過酷化している。

業務に関する負担感は、実際には世代の違いや個人の感じ方の違いがあったり、学校間格差もある。

文科省が2016年に実施した勤務実態調査では、時間外勤務の平均は小学校が月約59時間、中高校が約81時間(過労死ライン超過!)で、給特法の制定時と比べて残業時間は著しく増加している。

教師の日々の仕事は多忙を極める。

毎日の授業の準備はもとより、先を見通した教材研究、採点・評価、分掌業務、学校行事、部活動をはじめとした課外活動とその準備・指導、保護者対応、教育相談・見守り・支援、いじめ・不登校問題への対応と予防、職員会議、地域連携など、多岐にわたり、全ての業務にかかる時間を正確に把握することは困難である。

学校での居残り残業を減らしたとしても、結果的には自宅への「持ち帰り残業」となり、その分を給与や残業手当に換算することは難しい。

また、夏季・冬季の長期休暇は児童生徒のためのものであり、教員は勤務を要する日であることから(労働者だから当たり前なのだが)、実際に休養したければ、年間20日間の年次有給休暇を上手く利用するしかない。

教員の残業代を正確に計算することは非常に難しい。

実態を正確に把握したうえで、「残業代支給」になるのか、あるいは「調整額アップ」(どうやら、これになるようだが)、さらなる議論はこれからである。

給与や諸手当は税金から拠出するのは当然のことながら、現実の勤務実態を反映させると巨額に膨れ上がることは明白である。

「残業を減らそう」のスローガンだけでは、見せかけの働き方改革、残業の隠蔽が増えるのではないかとの懸念もある。

教育公務員は「全体の奉仕者」とはいえ、労基法の適用を受ける労働者であり、心身の健康が保証されてこそ、その能力を発揮できるのである。

長年にわたる課題が解決されなければ、今後も教員志願者数が減っていくことは避けられないだろう。
政府及び文科省、中教審の議論を注視していきたい。