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「ビジネス・マナーとしてのフェミニズム」くらいの感覚で手に取ったんですが、思ってたよりよく整理されてました:読書録「世界一やさしいフェミニズム入門」

・世界一やさしいフェミニズム入門 早わかり200年史
著者:山口真由
出版:幻冬舎新書(Kindle版)

「フェミニズム」については現代的イシューとして重要なことは理解しているものの、なかなか近寄りがたいのも事実。
作者も過去の経験から、<世間とフェミニズムの間の不幸な溝>を実感し、勉強のための書籍を探したのだけど、

<主観的ではなくそれなりに客観的に、一部のみ深く立ち入ると言うよりはそれなりに全体的に、この分野の地図をさし示してくれるような書籍にはなかなか出会えなかった。フェミニズムという布を構成する縦糸と横糸、つまりは歴史的な経緯と世界的な広がりを体系的に理解したいと思っても、それを端的にカバーしてくれる本が見当たらなかったのだ。>

で、<自分で書いて見ようと思ったのがこの本を書くきっかけだった。>

かなり苦労されたようですが、その目的は果たせてるかなと思います。



夫たちを専制君主になぞらえ、夫への従属を奴隷的な隷属として抵抗した<第一波フェミニズム>。
「個人的なことは政治的なことである」として、自分たちのやるせなさは個人に起因する問題でなく、社会に共有される問題が自分という個人に具現化されているのであり、そこに不公平な構造がある…と主張した<第二波フェミニズム>。
個人のエンパワメントを強調し、女性にはせっくすを拒否する権利があると同時に、周知を感じることなくセックスにイエスと言い、ポルノを鑑賞する権利もあると主張した<第三波フェミニズム>。
インターネットの波に乗り、#運動に代表されるTwitterなどのSNSメディアを通して、男性を排除せずに、当事者として包含する動きとなった<第四波フェミニズム>。
そして”#MeToo”運動の衝撃



…とまあ、お〜ざっぱな流れをフォローしつつ、ここの運動の歴史的な背景や具体的な主張・内容等を整理して説明してくれています。
「流れ」と言っても、順番に移り変わって来たってわけでもなく相互が影響しつつも、反発するところもあって、特に第二波の「ラディカル・フェミニズム」は第三波・第四波への批判的視座をも与え続けています。
#MeTooなんかは 、第四波的な運動でありながらも、既存の社会権力構造へのインパクトという意味では第二波に繋がってる感じなんかもします。


(個人的には初期のフェミニズム運動の中で「WSPU」の運動なんかも興味深かったです。Netflixオリジナルの「エレノア・ホームズの事件簿」は史実を反映した物語になってるんですが、ホームズたちの母親のフェミニズム運動への取り組みがいかにも過激な感じがして、ちょっとリアリティーが・・・なんて思ってなんですが、あれはWSPUの中心人物「パンクハースト夫人」を模してるんですね。
彼女たちは自衛の手段として「柔術」を必須の訓練としてたそうです)


こうした欧米のフェミニズムの流れに加え、日本のフェミニズムの歴史にもふれ、その特徴性に触れている点も興味深いです。
与謝野晶子vs平塚らいてう、アグネス・チャンの子連れ出勤騒動、エコロジカル・フェミニズム論争等を通じて、「母性」というものが重視される日本社会/フェミニズムの指摘をしているあたり、なかなか面白い。
作者がいうほど欧米のフェミニズムが「母性」に対して対抗的とは思いませんが、日本のフェミニズムを考える時、一考に値するポイントと思います。


内容的には「世界一やさしい」かどうかはかなり「?」。
でも作者自身が「客観的」であろうとしている点は評価できるし、大きな流れを把握できるのはありがたいです。
何やら「フェミニズム」と言いながら、どうも意見が対立したり、おかしな方に行ったりしてるな…って感じることがありますが、その要因の一端には触れることができたようにも思いますし。
(社会を変えていくためには賛同者を広げていく必要があるのは当然。
その点が第三波・第四波の流れになる一方で、第二波の主張する「社会構造そのものの歪み」がその中で置き去りにされるのではないかという危惧もあって…
ってな中でのスタンスのズレとかですかね)


まあ、なかなか踏み込んでいくのは難しいところだと感じますし、個人としては「敬して近づかず」になっちゃってますがw、どういう背景があるかは知っておきたいし、子供たちの「未来」を考えると、自分自身の立ち位置も、自分で決めておく必要はある。
…ということで、そのベースとなる知識を得るには結構良い本と思います。
そっから先は人それぞれ…でしょうかね。



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