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エピローグで持って行かれます。:読書録「砂まみれの名将」

・砂まみれの名将 野村克也の1140日
著者:加藤弘士
出版:新潮社(Kindle版)

野村克也が、野村沙知代の脱税事件で阪神の監督を辞任したのち、楽天の監督として復帰するまでの間。
社会人野球チーム「シダックス」の監督として采配を振るっていた3年弱を追った作品です。

<自らの名誉が地に堕ち、絶望と結ばれた時、人はどのようにして再び起ち上がることが出来るのだろうか。
「あの頃が一番楽しかったな……」  
楽天の監督を務めていた頃、シダックス時代を振り返った野村の言葉である。  
野村はなぜプロ野球監督に「復権」できたのか。
「一番楽しかった」と語る 3年間は、どんな日々だったのか。>


最近読んだ野球関係の本では落合監督を描いた「嫌われた監督」が無茶苦茶面白かったです。
個人的には、本書はそこまでではなかったですかね。
まあ、僕自身の「落合博満」と「野村克也」に対する興味の差ってのもかなり大きいとは思いますが。
野村さんは、やっぱり僕の感覚からすると、少し「古い」ってのがあります。
(本書で言うと「年賀状」のエピソードとか、象徴的です。決まったとは言っても、まだ挨拶もしてない人に年賀状を出すってのは、ちょっとないでしょうw)
もっとも「野球」の見方には、「古い/新しい」はなくて、そこら辺はすごいとは思いますがね。
野村さんに接した人々が、今も彼を尊敬し、その哲学を追っているってのは、そのためだろうと思います。


本書については、

<担当記者として見てきた野村には、2つの顔があった。  
野球をひたむきに愛する純な姿と、策士として駆け引きを得意とし、周囲を手玉に取る戦略家の姿である。>


という野村監督の2面を、シダックス時代の3年間に両方見ることができます。
親友の志太さんに拾ってもらって監督となり、社会人野球の頂点を目指すところは前者の部分。
プロ野球の再編騒動の中から、復権の可能性を見出し、そこに向けて策を巡らせるあたりが後者の部分になります。
シダックス時代の選手やスタッフの発言から見える前者の野村克也の姿は実に魅力的で、
「憧れるなぁ」
って気分になるんですが、
野村沙知代と二人三脚で策を巡らせ、動き回っているらしき後者の方については、
「いやぁ、こう言うところが好きになれないんだよな」
と、ちょっと鼻白らむ印象。
シダックスを去る際のエピソードには胸を打たれるものもありつつ、ちょっとモヤモヤ感も残りました。
(サッチーが自責の念に駆られ、「なんとしても」って思ってたのは理解するんですけどね)


そこをガラッとひっくり返すのが「エピローグ」。
ここには本当にやられました。
シダックス時代は、「野村克也」自身の<野村再生工場>であった。
そこにあった想いは何か。
何が彼にそう思わせたのか。
本書の「読みどころ」はココだと思います。


まあ、振り返れば「いい夫婦」だったんやな、と。
野村克也は「幸せな男」やったんやな、と。
そんな気分に、読み終えてなりました。
ほんま、夫婦のことは他人にはわからんわ。



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