トラマドールをやめて幻覚がなくなった高齢者の話

症例

自分が外来で引き継いだ、80代後半のある患者さんの話です。

個人が特定されないように、少し事実と異なる部分がありますがご了承ください。

この患者さんは、慢性心不全、バイパス術後、心房細動などで通院しており、最近は入院することなく落ち着いていました。

でもADLは落ちていて、外来は車椅子で何とか通院できている状況でした。

数年前から幻覚が出てきて脳神経内科も併診してましたが、なかなか改善しなかったようです。

自分が前任者から引き継いだ初日に、色々話を聞いてみると、数年前にアセトアミノフェンがトラムセットに変わった辺りから不調が出ているようでした。

ちなみにトラムセットは鎮痛薬で、弱オピオイドのトラマドールとアセトアミノフェンの合剤です。

循環器内科で鎮痛剤の処方はありがちなことで、高齢者が多いので腰痛や体の痛みを訴える方は多いんです。

慢性腎臓病があるとNSAIDsが使いにくいので、困った前任者がアセトアミノフェン→トラムセットと増量したのでしょう。

幻覚の直接的な原因とは考えていませんでしたが、便秘や他の不調も訴えており、本当にオピオイド必要なのかと思い、相談の上でトラムセットをアセトアミノフェンに戻すと…


驚くことに、幻覚がなくなったのです!

鎮痛剤は減らしたことになりますが、その後は患者も家族も調子が良くなったと笑顔で通院されました。

めでたしめでたし。


考察

トラムセットによる幻覚は一般的ではありません。

添付文書には頻度不明で幻覚とありますが、頻度不明というのは薬を飲んでいる人が『たまたま』別の病気で引き起こしたものも含まれてしまいます。副作用とは断定しがたいです。

しかし文献を調べてみると、機序は分からないものの、トラマドールの幻覚は時折ある話のようです。Can J Anaesth. 2020 Mar.

トラマドール確定例は少ないようですが、今回の症例ではトラマドール以外は変えておらず、スパッと症状がなくなったので確定例と言えるでしょう。

この症例の教訓は、高齢者のポリファーマシーではどんな副作用が出るか予想できないということです。

年を重ねれば持病も増えますが、全てに対して薬を出すととんでもない種類になってしまいます。

特に循環器内科では、標準治療薬だけでも数種類になるため、別の病気とあわせて10種類以上飲んでいる方はザラにいます。

薬の飲み過ぎが良くないというのは、例えば抗血栓薬で証明されています。

別の機会に詳しく話そうと思いますが、心筋梗塞で抗血小板薬2つ、心房細動で抗凝固薬1つの合わせて3剤を飲む必要がある患者では、3剤を飲み続けると予後が悪いんです。
早々に2剤にすべきですし、最終的には心筋梗塞側の抗血小板薬は全部切って、抗凝固薬1つが推奨されています。

ほどほどが良いんですね。

しかし他の薬の組み合わせでは分かりません。実際のところ、膨大な薬から、無数の組み合わせを検証しきることは不可能なのです。

そのため最終的な判断は医師の裁量になります。

正解はないと思いますが、高齢で何らかの症状で困っているなら、足し算だけでなく、優先度の低い薬を削ることを検討しても良いのではないでしょうか。


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