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4.「007」タイトル・シークエンス、中毒のレトリック 後編

前編に引き続き(投稿にかなり間が空いてしまいましたが!)、「007:スカイフォール」のタイトル・シークエンスのデザイナー、ダニエル・クラインマンのインタビューの和訳です。
原文( https://www.artofthetitle.com/title/skyfall/ )で、タイトルの映像他詳しく見られます。

後編は、007でもはや"お決まり"の表現に対して、彼が新作を担当するごとにどう答えているのかが、インタビューのメインになっていきます。

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インタビュア:
——シークエンスのライブアクション撮影についてです。007のダニエル・クレイグは今回、「カジノロワイヤル」の時よりも、もっと顕著に、視覚の一要素として取り上げられていました。

ダニエル:
ダニエル・クレイグは2つの理由でこのシークエンスに必要だった。
1つは、広義の考えとしてなんだけど、彼自身の目線である、カメラとして。つまり、観客は彼の目を通してシークエンスのアクションを見ることになる。
ただの冒険に見えないようにするために、観客に説明する必要があったんだ。観客は、ボンドが沈んでゆくシーンを見た後、トンネルのようなものに入っていくのを見て—これはサブリミナル的に、後のストーリーに重要な関系をもつシーンだ—前方へ落ちていって彼自身はまた落ちていくのを見つめる。これは幽体離脱体験の心理的な効果として、多くの人々が手術台や死の淵での体験に基づいている。
それに僕はボンド自身の旅のアイデアを示唆するものだと思っている。他のヒントとしては鏡の間。ここでは彼が—つまりカメラ兼私たちの事だけど—彼自身を見上げている。
ダニエルクレイグをタイトルに取り入れた2つ目の理由は、悪役のドッペルゲンガーとしてのテーマを求めたからだ。シルバーはボンドとかなりよく似た元エージェントで、似たような体験をしてMと特別な関係を持つ、いろんな意味でボンドのダークサイドだ。ボンドに彼の影を撃たせることで、それとなくほのめかした。
すごい大雑把に言うと、そういう風に見られるためにやったことだよ。

当然、繰り返し伝統的に用いられている要素はあって、それはこのシークエンスでのお楽しみ要素みたいなものだね。
新しく、そして旧くないといけないと思う。過去の遺産に尊敬を払わなければならないんだけど、同時に、新しいストーリーに忠実で新鮮なものでなければならないんだ。


インタビュア:
——ボンドの銃口からの登場について何か話してくれませんか?ボンドシリーズでのタイトルシークエンスの伝統的な始まりは珍しくスカイフォールにはありませんでした。
このシークエンスは007が戦闘態勢で戻ってきたときに出てきました、このようなシリーズのアイコニックといえる部分を切るのは大変ではなかったですか?

ダニエル:

銃口からの登場シーンをどこに入れるかは、映画の撮影が終わるまで決まらなくて、ラフなシーン撮影しかなかった。僕はあの登場シーンを最初のシーンへのトランジションにするために試行錯誤してたんだけど。でもサムは、随分とダブル・アクションになっちゃってるって感じてやめさせたんだ。
映画の最初のシーンは、ボンドがドラマチックに闇の中から踏み込んでくるものなんだけど、もしこれが、ボンドが銃を握って闇から現れて、あの有名な銃口のシーンに続くようだったら、最初の場面のドラマチックさを減らしてしまう、単調な繰り返しになってしまうんだ。
それで、サムは映画の最後に、あの銃口シーンを置く事に決めた。その副効果として、僕らが昔からよく知るボンド—この映画の、どこか悟って、疲れ切った感じの彼じゃなくて、どこからでも来い、って感じの彼が帰ってきたような、映画の締めになったね。
だから、銃口越しのボンドのシーンは、“ボンドが帰ってきた!”っていうような、わーっとした歓びを観客に与える機会になってる。
ほんとに良い選択だったし、これからの新しい007シリーズでも、登場シーンとして使われるんだろうって思ってるよ。

インタビュア:
——過去の特徴的なボンド・ガールのシルエットを使うアイデアは、離れようとしても離れられない、"おきまり"ものなんでしょうか?最近の007シリーズはいつもここから始まっているように見えるのですが。

ダニエル:
個人的にはそうだね、好きだ。ボンドシリーズの共通言語みたいなもので、世界中に通じる、冒険や、華やかさ、エキゾチックさを象徴したアイコンだ。この仕掛けはモーリス・ビンダーからのバトンで、007ワールドの記号として使い続けられることはうれしいよ。
でも、いつもこれを使っちゃえばいいって訳じゃないよ!確かにタイトルシークエンスのアイデアを作るのが好きだし、007シリーズの持つクラシックなイメージやテーマを利用するけど、そうじゃないといけないってわけじゃない。フィットしなければ使わなくていいんだ。
それに、シリーズそれぞれのシークエンスは同じじゃなきゃいけない、ってことはない。つまり、007シリーズのスピリットに対して誠実であればいいんだ。銃口からの登場シーンみたいに、僕が他のシークエンスをたくさん作ろうと作らなかろうと、シルエットは使われ続けるだろうね。

インタビュア:
——あなたのスタイルへ影響したものはありますか?

ダニエル:
僕は色んなスタイルからよりすぐるんだ!デザイナーとアーティストとして仕事してきたから、絵画と映画が好き。少年時代には、漫画をコレクションしてて、特に、オーブリー・ビアズリー、ギュスターブ・ドレイ、エドゥアルド・パオロッツィ、ピーター・ブレーク、ソール・バス、ウィンザー・マッケイ、ジャック・カービー、スティーヴ・ディッコ、マグリット、ボッシュ、ジェリコー、ジョージ・グロス、北斎、フランシス・ベーコン、ルシアン・フロイド、ホルベイン、デューラー、アーサー・レッカム、ヒース、チャールズ・ロビンソンとか—多分このリスト、エンドレスで続いちゃうよ!

インタビュア:
——あなたが遭遇した課題について何か教えてください。創造的な部分でも、技術的にも、チームの事でも構いません。

ダニエル:
ほんとに、今回のはスムーズなプロセスだった。シークエンスの最後、ダニエル・クレイグの眼の表現で弱冠つまずいたくらいかな。それって初期の彼の若い目つき、僕らの知り得ない何かしらを見つめる目つきを強調させる意味合いだったんだけど。問題は、ダニエル自身のものを撮影したはずなのに、たくさんの人が、彼の両目だっていうことが分かってなかったんだ。それは、彼自身がクローズアップで撮られる事があんまり無いからなのと、彼独特の特徴が見られなかったから、ちょっと混乱が起こったんだろうね。だから、もうちょっと鼻や、耳や、口まで、それが誰だか確実に分かるようにショットの視界を広げる必要があった。

インタビュア:
——スケジュールはどのようなものだったんでしょう—最初の話し合いから、制作終了までどのくらいかかりましたか?

ダニエル:
2011年のクリスマス前に会って話をして、最終版を2012年の9月に送ったから、長い道のりだったね。もちろん、毎日ずっとこれに取り組んでたわけじゃないけど。事が始まるまで待つ時間もあるし、ゴーサインが出されるまでや、調整にかかった時間も含まれてる—それに、徹夜のながい夜もね!

インタビュア:
——制作にあたって、使用したハードウェアやソフトウェアを教えてください。

ダニエル:
アレクサ上で撮影した映像を編集するのに、ファイナル・カット・プロを使った。フレームストア社はフレームと、インフェルノを使ってるね。

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インタビュア:
——初期の007シリーズから、本編に続く形に統合される形となった007タイトルシークエンスについて、何かそこにコンセプトというか方向性はあるのでしょうか?それとも、それぞれの映画は新しいスタートとして—前作とは違って真新しい作品として考えているのでしょうか?

ダニエル:
いつも新しい作品の始まりだ、って考えてる。脚本は一本のマッチみたいなもので、その特別なコンセプトやストーリーについてのシークエンスを生み出すために、蛍雪の夜を照らす火種になるんだ。もちろん、シークエンスには繰り返し用いられる要素もあって、お楽しみ要素にもなるんだけど。旧くもあり新しくもあるべきだね。受け継いだものに敬意を払いつつ、新しく、脚本に誠実に。

インタビュア:
——あなたのお気に入りの007シリーズのタイトルシークエンスはありますか?

ダニエル:
「007は2度死ぬ」のシークエンスなんだけど、色使いとか日本風の味わい、音楽が本当に良く溶け合っていて、ずっと憧れてるんだよ。
それとモーリス・ビンダーのタイトルの不思議さ、発想が飛躍してるところも僕は大好きなんだ。たとえば「私を愛したスパイ」だと、ロシアンハットをかぶった裸の女性がシークエンスにいるんだけど—あれ、て事は彼女がスパイじゃん!っていきなりバラしちゃってるとことか。あと「黄金銃を持つ男」での黄金銃なんかは、見たら笑っちゃうね。

インタビュア:
——全体の、テレビや映画の中で、あなたのお気に入りのタイトルシークエンスは何ですか?

ダニエル:
子供の頃は、「0011ナポレオン・ソロ」(1964〜1968、NBC系列でのスパイものドラマ)のオープニングが大好きだった。ナポレオン・ソロが銃撃の中、防弾ガラスの後ろに立つシーンは、きっとサブリミナル的にスカイフォールの鏡の間のシーンに影響してると思う。
「それ行けスマート」(1965〜1969、CBS系列のスパイものパロディ)のも良かったな。
「007:黄金銃を持つ男」は素晴らしい映像だよね。
変かもしれないけど、僕はタイトルシークエンスに注目して、ここが素晴らしいあれが良いって真面目に研究したことはないんだ。
007シリーズ以上に他の作品も、タイトルシークエンスを見ようって思って見始めるんじゃなくて、楽しむために見てる。
僕は本当は広告ディレクターだし、沢山、全く違ったタイプの撮影をする。自分自身のことをタイトル・シークエンスのディレクターとは思ってないよ。

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インタビューはここまでです。
原文はこちらから。本文は想像を起こさせる言い回しで、訳していて楽しかったです。

以下、訳してみての感想です。

007のシリーズのタイトルシークエンスは、銃口からのボンド登場カットが本当にアイコニックですが、いつも劇中のシーンをフラッシュバック的に映して、始まりから本当にワクワクさせてくれますよね。この特徴を便利がってか、007風シークエンスは盛り上がる定番のパロディ元としてよく使われてる印象です...(笑)。

こうして愛されてきている"らしさ"を保ちつつ、新しい驚きを観客へ届けるのには、製作陣に共通した優先目標がないと難しいと思います。受け継ぐことは受け身にできますが、どれを続けるのか、辞めるのか...ここでは、そのバランスのヒントとして、

リスペクト>ストーリーを運ぶ>観客に理解してもらう>伝統を守る

くらいの感じで(ざっくりですが)表現の優先式を垣間見たような気がしました。

※前編から間が空いてしまって、あれ、後編ないじゃないか、と思われた方いたらすみませんでした。タイトルシークエンスのデザイナーインタビューはこれからも細々訳して、ご紹介できたらと思います。

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