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Oud Andes / FUEGUIA 1833

 10月のサロパで購入したフエギアのウード アンデスである。
 初心者の私が「サロパ購入品💗」とTwitterで紹介するにはあまりにもあんまりだったので言えなかったがウード アンデスである。
 30mlで66,000円したのである。
 目玉ぽーん。
 これからはサロパで買った子たちを嗅ぎながら霞食って生きようと思います😇チーン




 フエギアの新作コレクション「El Mundo de Ouds(ウード オブ ザ ワールド)」から、ウード アンデス。
 8種のうち4種は天然ウードを使用し、もう4種は創業者ベデル氏によって生み出されたウードの香りで、アンデスは後者になる。さらにもう1つ、コレクションの4種をブレンドしたムスカラ アキラリアが遅れて発表されている。
 8種の香りは、10月に伊勢丹新宿で行われたサロン ド パルファンにて先行発売となった。


フエギアのブース。奥のキラキラ模様は隣のディプティック。
(サロン ド パルファン 伊勢丹新宿、10/24/2022)


 サロン ド パルファン(略してサロパ)は三越伊勢丹主催の香水イベントだ。ハイブランドだけでなく日本未上陸ブランドや常設店舗を持たないブランドなど、国内外のフレグランスブランドが一堂に会する年に一度の香水の祭典である。今年度が記念すべき10回目の開催となった。


 オルフェオンによる香水の洗礼から間もなく、私はサロパ開催の情報を得た。これは私にフレグランス街道を行けという天啓だと確信し(笑)、開催されるや否や伊勢丹新宿へ向かった。

 会場入りして最初に目に入るリベルタパフュームで、早速新作のムエットをもらう。しかし感染症対策のためマスク越しに嗅がなければならず、これで分かるのかと訝しがりながら鼻に近づける。
 嗅いだ瞬間昇天した。一瞬でイメージがブワッと湧きたち、目を閉じて何度も深呼吸するように香りを吸い込んだ。私の中に溜め込んだ暗いものが一瞬にして霧散していった…。マスクなど何の障害にもならなかった。

「素晴らしい場所へ来てしまった!」

 この店だけで「これ、好き!」と思うものばかりで興奮が止まらない。今まで香りを避けて生きてきて、きっとここでもはっきり好き嫌いが出るのだろうと予測していたが完全に裏切られた。隣のパルファン サトリでも同じだった。
 その先にあるディプティックはクリスマスコフレのパッケージと同じかわいらしい内装で思わず見入ってしまうが、先日購入したばかりなので今日は通り過ぎる。そして次に現れたのが、フエギアである。

 フエギアはツイッターでその名を知ったばかりで、それ以外のことは何も知らなかった。ブース左右にずらっと並んだボトルとフラスコたち、ダークで高級感ある内装。ここだけ雰囲気が違った。店員がみな黒ずくめなのもよかった。私は黒とキラキラしたものが好きなんだ(カラスかな?)。

 ブース手前には8つのボトルとフラスコが並んでいた。新作だろうと思い、人が移動した隙を見てフラスコを取り香って、「なんだこれは!?」とぎょっとする。真顔を貫きもう一度確認し、そっと戻し、これなんなん…?とボトルの台を見る。名前にはみな「Oud」と付いている。

「Oudってなんだろ…」

 初心者には分かるわけがなかった。
 困惑しつつ残り7種も嗅ぐ。全て「なんだこれは」だがだんだん面白くなってくる。
 しかし…臭い。臭いなんて言っていいのか?これが新作なんだぞ、それが分かる上級者向けの店なんじゃないのか?そこに来ておいて臭いとは、それこそ物を知らぬ素人の意見だろう…いや、面白いのは分かる…でも…もう一回…うっ…。

 香水には不快な匂いを混ぜる事でメインの香りをより際立たせる方法があり、有名なのがスカトールやインドールという香料である。この事は何かで知識を得ていたのですぐ思い出した。確かどこかの酪農家が牛糞にバラの香料をわずかに混ぜたところ、悪臭が抑えられむしろいい香りになり、近所からの苦情がなくなったとかいう話が…あの香料って酪農家向けに商品化されたんじゃなかったかな…。

 …遠のいた意識を目の前に戻す。「なるほどな」とは思った。だがこの香水たちがメインとしているのはその不快な匂いの方だ。思う事はひとつ。

「これ誰がいつどうやって付けるんだろ…」

 8つのウードたちを見つめ、ハテナをいっぱい浮かべながらそっとブースを去った。ちなみに一周したのち戻ってきてショコアトルを買った。ショコアトルについてはまた後日書こう。



 たくさんの恍惚の香りたちと出会い、全感覚をフル稼働させて全身で感じ取り、財布もフル稼働させて数個の袋をぶら下げ帰宅した。

 いや~ほんと楽しかったなパラダイスだったな…と香水沼の方々のツイートを拝見し余韻に浸っていると、自分が周れなかったブランド、あまりわからなかった香りの評判がとても多い事に気付く。
 思えばムエットの嗅ぎ方も分かっていなかったし(一度軽く吸い込むだけでいいそうだ)、コーヒー豆で鼻を休める事は知っていたがほとんど気にしていなかった。ひたすら片っ端から嗅いでいた(笑)。そして肝心の肌乗せもあまりしなかった…。
 つまり、満足の割には香りと正しく向き合えていなかったのである。

 記憶とムエットを整理していくうち、「もう一度行きたい!」という気持ちが強くなってきた。しかし予算は既に赤字なのだ。行っても何も買えないぞ、いいのか?と自分に問いかける。好奇心旺盛で一瞬たりともじっとしてない小学生男子にガミガミ言う母親ぐらい厳しく問いかける。

「あんたそんな事してる場合じゃないでしょ!? そもそも他にやらなきゃいけない事があるのに何言ってるの!? もう…いい?わかった?あんた約束守れる?」
「うんわかった見るだけにする」鼻ホジー


 都合が付いたので最終日の月曜、午前中に行く。今度は事前にチェックするブランドと香りをピックアップし、会場の並び順にリストを作成する。

 ただ、もし、どうしてもやっぱりこれがいい!と思うものはあるだろう、こういう機会でないと買いに行くこともないだろう、だから…と穴の空いた財布に腕を肩までつっこみ、口座から数枚を引っ張ってきて緊急財源を確保。もう言いつけを破っている。



 日曜は「コミケ」と例えられるほどの混雑だったようだが、一転して最終日、月曜は閑散としていた。先日伺った日は混雑という程ではなかったがフエギアは特に人が多く、店員にムエットを頼む隙さえなかなか訪れずやきもきしたものだ。今日は数人しかいない。

 接客していただいたのは背の高いおっとりとしたお兄さん。実は先日もこの方からショコアトルを購入した。感受性豊かな方で、楽しそうにゆったりと話すのでこっちも落ち着いてくる。お兄さんのおかげで高級店への警戒心はかなり薄れ、私の表情も緩み、ゆるゆるの財布の紐は抜け落ちた。


 さて、目当ての(!?)ウードたちである。あれからどうにも気になっていた。だって会場がみんなキラキラしている中であの新作コレクション…とにかくインパクトが凄かった。まさか買う気などなかったが、もう一度嗅いでこようと考えていたのだ。

 どうせ人もいないので遠慮なくたっぷりと説明してもらう。
 聞けば店員の間でも新作ウードたちはどう勧めたものか悩ましく、香りのトレーニングでは「これはちょっと…」と濁す方もいたそうである。
 一方でこの独特の香りから記憶や感覚が様々に刺激され、なぜか懐かしくなったりイメージが鮮烈に浮かぶ人もいたそうだ。お兄さんはカンボジアで涙が出てきたという。
 そんな話を聞きながら、なるほどーと目をつぶってフラスコを嗅ぐ。もう衝撃を知っているので落ち着いてじっくりと。香水の洗礼から1ヶ月、サロパデビューから数日しか経っていないのになぜかもう慣れた様子でフラスコを揺らす。


 ムエットに気になる4種を出してもらう。

 まずプラーチーン、ツーンとスパイシーで爽やか。うっかりカレーと言いかける。
 今までの人生、香りに集中した事といえば料理しかない。おかげで香りのイメージを言語化しようとすると食べ物の引き出ししか見つからない。これからも食べ物で例える場面ばかりだろうがご容赦願いたい。

 カンボジア、雨だ!フルーツが並んだ雨のあとの市場。自然の中と思わなかったのは、臭さから人間の生活圏だと感じたか?割りとすっきりしている。

 パタゴニア、これはなかなか好き。レザーの苦っぽい曇った感じとバナナのような甘み。エッジが効いてキリッとしている。

 アンデス、これが一番控えめ。ウードのクセが大人しい分なんとも捉えづらいが、それゆえ何度も確かめたくなる。バランスがよい。

 パタゴニアとアンデスを腕に乗せてもらう。やはり肌に乗せると違う。写真で見るのと実物を見るのとの差ぐらい違う。
 パタゴニアは苦みと甘みの2つが強く、強烈なようで不快さはそれほどなくかっこいい。アンデスはクセが控えめで全体のバランスが良く、甘く芳しい。この2つでかなり迷った。


 が、ここでミスを犯した。実はこれより前に、別の店員にアラビカを右手首に付けてもらっていたのだ。そして右腕にアンデスを付けてもらった。手首辺りは既に付けてあると申告していたが、嗅いでるうちに香りが混ざってしまった。アラビカはその名の通りコーヒー豆の香りの香水である。
 パタゴニアのバナナ感との対比で、アンデスについて「少しコーヒー…っぽい…?」などと呟いてしまい、お兄さんの顔にハテナが浮かんだのを見た。ちなみにこの失態に気付いたのは帰宅後である。あああ…。
 まあ要はアラビカとアンデスを重ねると合うということですね。だからアラビカも欲しいな、うん。

 しばらくお兄さんのうんちくを聞きながら(楽しい)、こんな面白い香り、それこそこの機会でなければ買わないだろう、ましてやフエギアの店舗に足を運ぶのは私にはハードルが高すぎる…今でなければ…と考えていた。
 アンデスを選ぼう。ついに決意し、30mlを買うと告げる。

 そしてハッと気付く。価格は一体いくらなのか。

 前回ショコアトル30mlを22,000円で購入していたのでそれぐらいだと思い込んでいたのだが、何しろ希少な沈香の香水である。そんなわけがない。
 小脇に挟んでいた紙に直感的に目をやると148,000とかいう数字が見えて血の気が引く。それは説明の際にいただいた各ウードの香りを示した世界地図で、裏には数字が等間隔に並んでいた。最初それが展示用の見出しに思え、印字が写ってしまったのかな?ぐらいにしか思っていなかった。

 お兄さんがこちらですね!と商品を持って会計に向かう数歩の間、紙を広げずしてアンデスの文字を目で追う。

 30ml 66,000円。

 ( Д ) ゜゜


 緊急確保した財源が足りない。
 いや、カードあるから…
 いや今月の使用額どうなると思ってんの…
 何してんの私…


 心臓ばっくんばっくん目眩がしてきた私に、「本当にいいタイミングで来ていただけましたー!もう本当に昨日は…」とお兄さんが変わらぬ笑顔で日曜の苦労を語りだす。今日私に十分な接客が出来たことがよほど嬉しかったようだ。

「そうですね、すごい混雑だったみたいで…」
「本当に…!だから今日このタイミングでよかったです!正解です!ゆっくりいろいろ試していただけてよかったです!」

 なぜか私の緊張と目眩が落ち着いてくる。お兄さんの優しい笑顔というスーパーパワーよ。私は共感性が人一倍強いのでなおさら伝わってくる。その隣で別の方が電卓を打つ。

「66,000円です」
「はい!」

 観念して笑顔でカードを差し出すのであった…。


 このあとすっかり頭ぽわっぽわになって他店でもまた購入した。もうどうにでもなーれ。

 しかし最終日は本当に空いてたなぁ。もちろん完売していた商品も多かった。ブーディカ ザ ヴィクトリアスのボウデイシャスが飛ぶように売れ、試香用ボトルさえ尽きたと言われたときは戦慄した。
 思わず「なかなかのお値段だと思うんですけど、そんなに買われる方がたくさんいるんですね」などと言ってしまったが、「本当に思います」と真顔で頷かれた。今ここでしか買えないから、真に香水を愛する方たちがいらして下さったのだとも。
 そして「さっき30ml/66,000円の香水買ったやつがどの口で言ってんだ」と脳内に浮かび、動揺して生返事で退散。ちなみにボウデイシャスは100ml/46,090円です。





 「こんなのどうやって付けんだ」と思った人は、きっと初心者の私だけでなくたくさん居たと思う。ぜひ、フラスコとムエットだけでなく肌に乗せてみてほしい。
 いやもちろん、臭いことは臭い(笑)。正直胸元なんかにつけると最初は不快さがぷんぷんしてきて後悔する。しかし我慢だ、時間が経てば経つほど…まあとにかく試せばわかる。

 というのも、この新作ウードたちにはすべてムスカラ フェロ ジェイという香水が加えられている。それ単体には香りはなく、付けた人本来の香りを引き出すという独特な香水である。なんだか凄まじい。
 ムスカラはウードの強烈な匂いを肌に馴染ませ、体臭のように香らせる。時間が経つほどウードは私と同一化していき、私はすっかりこれに愛着が湧いてしまった。

 ライナスの毛布をイメージしてほしい。そういったものを持っている方ならわかるだろう、その毛布に染み付いた自分の匂いを。それをウードの香りがグッと押し上げてくる。自身はもちろん夢中になる。人が嗅げば、それはとてもプライベートな匂い。とてもエロティックに映るのである。

 比較的香りが控えめなのはアンデスかカンボジアだ、まずオススメする。
 一番強烈だったのはアッサムで、まるで…いや、とにかくアニマリックだった。深くは語らん。あれは本当に、香りをよく知り扱える上級者にしか向かないだろう。何かと重ねたり、付け方を工夫したらきっと良く香らせる事が出来るのだと思う。

 そもそも香水における「ウード」とは香道のそれとは違い、沈香に様々な香料を合わせて煙を焚く中東の香り文化から来ているのだそうだ。だからこんな独特な匂いなのか!元は植物なのにあんなに動物臭がするのは謎だったが、これで腑に落ちた。


 私はもともと体臭が薄いのだが、汗をかくと熟れたフルーツのような臭いがする。子供の頃から肉が嫌いで(魚と卵は食べられるが)野菜ばかり食べてきたのでそのせいなのかもしれない。脱衣所で汗を吸った服を脱ぐと、なんだか甘い香りが胸元からしてくるのだ。そんな柔軟剤は使っていない。不思議なものだが、これが私の体臭らしい。

 ウード アンデスはそれを引っ張り出す。時間が経てば経つほど甘くフルーティな、それでいてアニマリックな臭さをしっかり合わせて湧き立たせ、「私」という輪郭をより浮き彫りにさせる。


 他の香りと重ねてもよかった。シトラス系の香りが苦手なのだが、これがより豊潤で、酸味と独特のコクのある甘みに変わった。ウードの持つ辛み・苦みと合わさって、汗のような酸っぱさと体臭の甘さを強調するのだ。アンデスのバランスの良さならではかもしれない。

 ただどの香りとも合うわけではなくて、アルデヒドの入ったホワイトフローラル系ではダメだった。いつまでも分離していて頭痛がしてくる。
 体臭に近そうなフルーツやフローラル系、油を感じるバニラやアンバー、それとコーヒー、カカオなどが良さそう。たぶん。
 他のウードではどうなるのかも気になるが、最後まで悩んだアンデスとパタゴニア以外はそもそも自分の体臭に合わない気がしている。それで無意識に避けたのかもしれない。


 繰り返すがぜひ肌に乗せて試していただきたい。
 あの8種の中に、きっとピンと来るものを見つけるはずだ。それがあなたにふさわしく、そしてあなた自身を引き出す香りとなるだろう。





 途中のウード4種の香りについては、当時の覚書とムエットを確認しながら書いた。
 OPP袋に分けて入れて頂いたため、4週間ほど経った今でもよく分かるほど香っている。熟成した酒のようにより豊潤な味わいになったと感じるのは、初心者の気のせいか。



 サロン ド パルファン 2022は10/19-10/24に伊勢丹新宿で行われました。
 次は梅田のルクア大阪で11/30-12/6まで開催されます。関西圏の方は是非行ってみてください。
 (※残念ながらフエギアの出店はないようです)


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