人を動かすメールの書き方
知らなかった人からメッセージを受け取ったり、知らなかった人が書いた投稿を見かけてその人に会ってみたくなったような体験が、ここ近年でとても増えてきました。「書く」というコミュニケーションは、それ以外よりもレバレッジが効きやすく、一度書いた内容は後から編集して使い回せるような汎用性の高さにも関わらず、未だスキルとして過小評価されてる印象を受けます。プログラミングや、デザインスキルと同じくらい、ライティングを学ぶ機会は世の中的に広まってもいいはず。
とはいえ、文章を「書く」場面は様々で、自分のことを表現するために文章を書く人もいれば、お世話になった上司や先生にお礼を伝えるために文章を書くこともあるでしょう。スキルとしてのライティング(ここでは、パワーライティングと呼ぶ)は、書くことを通してアポイントメントの制約、紹介を受けるなど、受け手に自分が求めていた結果を達成する、結果ドリブンなライティングです。
ライティングで結果を達成するといのは、例えば、自分が作ったサービスを使ってもらうために文章を書くとして、その文章を受け取った相手にサービスを登録してもらう、あるいは、サービスの説明をするための予定調整をしてもらう、また、Twitterにサービスのリンクを投稿したのであれば、その投稿を見かけた相手にリツイートしてもらうことを指します。相手に何かしらのアクションを促す、つまり、結果を達成するためのライティングスキルを、パワーライティングといいます。
パワーライティングは、シリコンバレーの連続起業家、エンジェル投資家として知られるShaan Puri氏が定義したもので、彼はパワーライティングを取り入れることで、Twitterのフォロワーを12ヶ月未満で15.5万人に増やし、彼の持つポッドキャストにも数多くの著名人を招くことに成功しました。
私も受講した彼のオンライン講義では、CVが上がるランディングページ、バイラルされやすいSNSの投稿、上司が納得するレポートの書き方が含まれていますが、その中でも多くの人に馴染みやすい「メール」にスポットを当ててパワーライティングを紹介していきます。ここでのゴールは、下記の二つとなります。
1) 受け手に期待する結果を正しく設定できるようになる
2) 実際に送ったメールから期待した結果を得られる確率を上げる
それでは、パワーライティングを取り入れることで結果が出やすいメール、コールドメールから見ていきましょう!
コールドメール
面識のない相手にいきなりメールを送ることを、コールドメールといいます。メールに限らず、Twitterなどソーシャルメディアのアカウントにダイレクトメッセージを送ることも同じです。あまり日本では聞き慣れない言葉かもしれませんが、働いたことがある人なら誰でもこれに近いメールを送ったことくらいはあると思います。
例えば、コールドメールを書くというのは下記が当てはまります。
商品を購入してもらうために、潜在顧客にコールドメールを書く
希望の会社に就職するために、その会社のCEOや人事担当者にコールドメールを書く
アドバイスをもらうために、尊敬している人にコールドメールを書く
商品を宣伝してもらうために、インフルエンサーにコールドメールを書く
会社へ出資してもらうために、投資家にコールドメールを書く
スポンサーをしてもらうために、企業にコールドメールを書く
しかし、ほとんどのコールドメールには返信がありません。コールドメールを受け取る人たちにとって、あなたは知らない人です。誰が受け取ったとしても、ほとんどの場合、知らない人に構っている時間というのはないからです。
大丈夫です!パワーライティングを取り入れれば、コールドメールの返信率はかなり高まります。まずは、メールを書き始める前にやることがあります。パワーライティングでコールドメールを書くにあたって、最初に取り組むべきことは「受け手に期待する結果を正しく設定する」です。ここで期待する結果というのは、メールを受け取った相手に「次に」何をしてもらいたいか、になります。
「次に」というのが、大事です。希望の会社に就職することがゴールで書き始めるとしても、これが最初に送るコールドメールの結果として正しいとは限りません。いきなり採用してくれと打診するよりも、履歴書を見てもらうであったり、面談をスケジュールする方が、採用を決断するよりも、ライトな意思決定です。
コールドメールが受け取られて、相手が結果を返すまで、あなたに与えられた時間は、せいぜい一分です。採用するか、しないかの意思決定を一分でできる人はなかなかいません。一分を過ぎたメールは大体アーカイブ行きです。
だから、コールドメールで期待する結果は、分かりやすく、具体的で、すぐに応えられるものであるべきです。そして、必ず一つだけ設定してください。履歴書も見てもらいたいし、面談も設定して欲しい、でも、複数の要求を用意してしまうと、結局、受け手からすればどれに応えればよいのか分からなくなってしまいます。どれもこれもに応えてあげられるほど、相手も暇じゃありません。
APBCSモデル
メールを受け取った相手に期待する結果をちゃんと設定したら、いよいよメール本文の構成に取り掛かっていきます。受け手にとって、またあなたは知らない人です。結果を達成するためには、あなたがまずメールを返すに値する人物であること、そして、本文の中身も返す価値があると判断してもらわなければなりません。
コールドメールの中身を組み立てていくにあたって、APBCSモデルを採用していきます。マーケティング用語のAIDAモデルっぽいのですが、読みづらい上に一般的な用語でもないので、このモデル名を覚える必要は全然ありません。その代わり、何でAPBCSなのかというのをこれから読んで学んでいきましょう。
Attention:相手の関心を引きつける
Personal Touch:ロボットでないことを証明する
Benefits:相手が得られる具体的なもの
Credibility:あなたを信頼してもいい証拠
Simple Ask:相手に期待する結果を問いかける
Attention:相手の関心を引きつける
コールドメールの約90%が開封されないまま埋もれていきます。メールを受け取った相手がメールを開封するかどうかは、本文ではなく件名、もしくはメッセージが始まる冒頭の一行で判断されます。コールドメールにおけるAttentionパートは、最初にして最大の難関といっても過言ではないです!
相手の関心を引きつけられるヒントは、「好奇心の隙間(Curiosity Gap)」にあります。好奇心の隙間というのは、既に相手が知っていることと、これから知ることができることの隙間。相手に「知りたい!」と思わせる、好奇心を掻き立てるテクニックです。
相手が知りたいことを隠しながら、本文を読めば知ることができると約束をしてあげれば、この好奇心の隙間を生むことができます。これだけ聞くと、かなり抽象的なのですが形式に落とし込んでしまえば汎用的です。
形式としては、「何を(What)」、「誰に(Who)」、「約束する(Promise)」の三つを取り入れて、クリックしてもらうには十分な情報を与えつつ、クリックしないには不十分な情報を与えていくのです。
最初の二つは分かりやすく、SHAANが無料でLUGGAGEがもらえることが約束されていて、採用担当者がこれを読めば次の採用に生かせる何かが得られることが約束されていますね。「TWITCH APP FEEDBACK」は、少し分かりづらいですが、Twitchに在籍していたShaanがこれを読むことでアプリの改善点が得られることが約束されています。
つまり、相手の関心を引き出すステップとしては、まず「これはあなたのために書かれているものです!」と分かってもらう。次に、「ところで、これは知りたくない?」と好奇心を掻き立てる。それから、この続きを読んでくれれば「知ることができるよ!」と約束する三ステップになります。難しいところは、このステップをたった一文で表現するところです。
Personal Touch:ロボットでないことを証明する
Attentionがないメールは読まれませんが、読み始めたとして読む気が失せるのが大量に一斉送信されているメールです。人が人に対して文章を綴ったものではなく、ロボットによって自動的に送られているもの。ロボットではないことを証明するには、ロボット、一斉送信では書くことができない内容をメールに含めればよさそうです。つまり、相手のためだけにパーソナライズされていると証明するのが、Personal Touchのお仕事です!
Personal Touchの作り方は、相手のことをよく調べて、今回送るメールに関連しそうな内容を織り交ぜるイメージです。例えば、相手のTwitterタイムラインをスクロールして情報を探し、「Twitterでマーケターを探しているのを見かけました」、「あなたがツイートしていた〇〇に感銘を受けました」といった具合にパーソナライズ化していきます。
Benefits:相手が得られる具体的なもの
あなたが今書いているメール、おそらくお願いメールになってませんか。「30分ほどお時間をいただけないでしょうか?」、「〇〇について教えてください!」など。しかし、結果が返ってくるコールドメールの場合、お願いではなく、相手に何かを提供している構造になっているはずです。
例えば、あるインフルエンサーに商品を宣伝してもらいたいとして、「私たちの商品を宣伝してもらえないでしょうか?」とお願いするよりも、「私たちの商品を無料で使ってただきたいので、住所を教えてくれませんか?」と提供してみる方が圧倒的に成功しそうです。
何かをしなくちゃいけないよりも、無料で何かを受け取る方が嬉しいのは当然ですし、それが相手の求めているものであれば最高です。こうして商品を提供する以外、どんなケースでも提供するものを見つけることはできます。「あなたのホームページを試しましたが、ユーザーとして〇〇と〇〇が改善点だと思います!」など、受け手がもらえると嬉しい情報を添えるのもありです。
何かを提供して結果を得たという話で、一つ好きな話があるので紹介させてください。Close CEOで、最強の営業マンとしても知られてるSteli Efti氏がオーストリアのカンファレンスにスピーカーとして招かれた時のことで、彼と個別で会ってみたいと、現地の起業家たちが一斉に連絡をしました。とてつもなくサポーティブなことで有名なSteliでも、一人ずつとカフェに行くようなことをしたら、コーヒー飲み過ぎでカフェイン中毒になること間違いありません。
彼が唯一応じた提案が「空港から会場まで車で送り迎えしますよ!」でした。カフェで過ごす30分と、車で過ごす30分。後者であれば、Steliはカフェイン中毒になることも避けられるし、Uber代も節約できます。この結果は、まさにお願いではなく、提供することで勝ち得た30分なのです。
何かを提供すると、「返報性の法則」が働いたりします。相手から何かを受け取るとこちらも返さないと、という気持ちになる心理効果のことで、コールドメールでは、これを上手く利用できます。小さな提供でも、相手が何か得をしたと思える具体的なものを提供してみましょう。
Credibility:あなたを信頼できる証拠
受け取った時点では、あなたはまだ知らない人です。このCredibilityパートでは、あなたを知らない人から、相手が関わりたいと思える人物に進化させていきます!まず、やり取りをしても安全をスタートに、関わったら得がありそうだと思ってもらえるまでがゴールです。
相手があなたを信頼できるかどうかは、だいたい知名度や、何ができるかで推し測られるものです。嘘はつかなくてもいいのですが、相手に興味を持ってもらう工夫というのはあるべきです。
あなたへの信頼、優先度が上がる自己紹介を確度が高まる順で見ていきましょう!
I'M ELON MUSK. MEET WITH ME
あなたが有名人であれば、それ以上の説明は不要ですね!イーロンマスクからのメッセージを返信しない人なんてまずいないでしょう。もし、あなたがTwitterのフォロワー数に自信があるなら、メールではなく、TwitterのDMからやり取りを始める方が成功確度は高まります。
I AM SUCCESSFUL
認知されていなくても、相手の興味を引く実績を持っているかもしれませんよね。運営しているYoutubeチャンネルの購読者が10万人を超えているだったり、年間1億円以上の売上があるビジネスを経営していているだったり、と実績があれば、成功しているといえるし、成功している人と会う価値は結構見出しやすいです。
I AM SMART / TALENTED
まだ実績のある成功がなくても、成功する可能性がある人とは会ってみたいと思わせられます。分かりやすいところで、有名な大学の学生であること、メディアに取り上げられた経験や、何か他にはない活動経験はこれに当たるでしょう。
I AM INTERESTING
面白い人が、みんな好きです。もし、成功もしてないし、有名でもないなら、面白いくらいしか残されていません。忍者の修行を何年もしてたとか、世界一周してシャーマンに弟子入りしてたとか、面白いエピソードを添えれば、相手によっては会ってみたいと思わせられるかもしれません。
WE HAVE SOMETHING IN COMMON
相手のことを調べてれば、相手と自分に共通している何かが見つかることがあります。同じ高校出身だったり、共通の趣味があれば、親近感を湧かせられます。これは、Personal Touchにも通ずるところがあり、冒頭で軽く添えてみるのもお勧めです。
I'M A CUSTOMER OF YOURS
顧客だったり、ファンには、誰でもなれます。なので、ファンや顧客であるくらいだったら、知らない人とそんなに変わらないのですが。熱量を上げると、相手が反応してくれる場合もあります。その時知ったくらいではダメで、「よくそんなことまで知ってるわ。」と思わせられるような紹介が書ければ及第点は取れそうです。
Simple Ask:相手に期待する結果を問いかける
メールの末尾あたりに、相手に次にしてもらいたいことを問いかけましょう。あなたはやり取りするに値する人物と分かって、提案も魅力的、で、何をすればいいのかを書き損ねると、何も起こりません。
問いかけは、なるべくYESで回答できるもの、もしくは、相手が三秒以内に済ませられるようなものを用意するとよさそうです。
本当に返ってきたコールドメール
ここまで温める努力をしても相手の氷を溶かすのは至難の業です。それでも、パワーライティングがあってこそ上手くいったメールもあります。私が送ったメールで、実際に期待した結果を得られたものを幾つか紹介しますね。
魔法のフォローアップ
パワーライティングで、成功の確度を上げることができても、依然として返ってくる確率は低いままです。そういう場合、一回で諦めなくても大丈夫です。コールドメールに、更にパワーライティングを被せる、フォローアップはかなり有効です。
返ってこないメールから、しばらくして、もう一回メールを送ることをフォローアップといい、実際に上手くいったコールドメールの80%はフォローアップによって引き出されてるそうです。
フォローアップは、先に送ったメールをベースにしつつ、これをサポートするように作っていきます。フォローアップで意識しておくのは、下記の三点です。
泣きつかない
より簡潔に
進捗、モメンタムを出していく
フォローアップのコツは必死さをいかに隠せるかにあります。熱量で押し切れる場合もありますが、稀であるどころか、だいたい逆効果です。思いよりも希少性を簡潔に示していきましょう!
例えば、就職を希望している会社にコールドメールをしている場合、他の会社から既に内定をもらったと加えることで、相手が返信をしないことで損をしてしまうと思ってもらうことを意識して書いてみるとよいでしょう。
二つめのメールのように、最初に送ったメールから何か進捗があれば、これを含めることで、差し出されている提案がアクティブであると思わせることができて、更に締め切ってしまうことを示唆することで、希少性を増すことができています。
複数のチャネルから攻める
メールで送ったコールドメールをフォローアップは、TwitterやLinkedInでやってみるのも一つのアイデアです。こうすることで、「この人メールでも送ってきてたなー。」と、どこでも見かけることによって相手に覚えてもらいやすい効果があるのと、ロボットでないことも証明できます。
前に、私が送って上手くいったコールドメールとして、まずはメールでコールドメールを送る。このメールにDocSendのリンクで資料を送って、相手がその資料を見たと分かった瞬間に、Twitterからフォローアップするというのをしたことがあります。相手の関心が自分に向いている時に、フォローアップを実行することで低くない返信率で営業を進めることができました。
実際にフォローアップが成功した瞬間
知り合いに紹介をお願いする
コールドメールを送ろうとしている相手を調べているうちに、その人あなたとの共通の知り合いが見つかる場合があります。そうした場合、コールドメールを送るよりも、その人に紹介をお願いする方が断然成功する確度は高まります。この紹介をお願いするのを、コールドメールに対して、ウォームイントロといいます。
共通の知り合いを探す
ウォームイントロの作り方は、まず紹介をお願いする人を探すところから、つまり共通の知り合い探しです。これに、最適なのがSNSとなり、FacebookやLinkedInを開けば、だいたい相手と誰が繋がっているかを見ることができるでしょう。Twitterであれば、相手がフォローしている人の中から、知り合いを探したりすることもできます。その中から、あなたと仲が良くて、相手とも仲が良さそうな人を当てていきましょう。
もし共通の知り合いがいたとしても、ほぼ知り合いではない場合もあるでしょう。一回しか会ったことがなかったり、もう何年もやり取りをしてこなかったりで、それでも、コールドメールを送るよりもウォームイントロの方が圧倒的に良いです。紹介だけをお願いすることに気が引ける時は、APCPSモデルを紹介してもらおうと思っているその知り合いに対して使ってみるのはどうでしょうか。何かを提供することで、紹介を打診しやすくなるかもしれませんね。
紹介者に送ってもらう文章を考える
ウォームイントロをお願いする時は、必ず自己推薦文(Blurb)を用意するようにしましょう。ただ「紹介して欲しい!」と、その人にあなたの紹介文まで書かせる仕事をさせるわけにもいかなし、お願いされた立場として優先度が下がり、後回しになってしまいかねません。Blurbは、紹介する人が一言、二言を添えるだけで相手に転送できるような文章の作りになっていることが好ましいです。
Blurbを書く際には、下記にあるような要素を含めて書いてみると参考になるかと思います。
簡潔に自己紹介する
あなたを信頼できる証拠(Credibility)
相手が得られる具体的なもの(Benefit)
相手に期待する結果を問いかける(Simple Ask)
ウォームイントロなら大体読まれますし、大体返信までは返ってきます。また、紹介する人にもよりますが、その人との関係性が担保された上で相手にメールが渡されるので、コールドメールで含まなきゃいけなかった要素の一部を省略することができ、その分より相手に期待している結果に重きを置くような構成にすることができるようになります。
ウォームイントロの例
人動かすメールを書く
上手くいったコールドメールは時に、あなたの人生を変えます。過言ではなくて、一通のコールドメールから有名企業への就職が決まったり、大物投資家からの出資が決まることもあるかもしれません。
今回、幾つかのテクニックや、マインドセットなるものを紹介してきたのですが、メールはどんどん書くことによって収斂されていくものなのではないかなと思います。少しの間ですが、このブログを最後まで読んでくれた方に限り、無料で添削を受け付けてみます!
コールドメールでも、ウォームイントロでも、ラブレターでも何でも構いませんので、添削を希望する人は、私のTwitterまで送ってみてください。本業に支障がないレベルで返信します。
余談ですが、パワーライティングを知ったのは一年以上前で、その内容に圧倒され、ずっとこれについて書きたい、広めたいと思ってきました。時間はかかってしまいましたが、その分、実践を通してパワーライティングの理解が深まり、より説得力を含めて出せたんじゃないかなと。
これを出すにあたって、添削をしてくれた、パワーライティング講座の同窓生であるYusukeさん、長谷川さん、そして、Shaan Puri大先生への感謝をここに示したいと思います。
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