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【コント小説】『フランス料理店の事務所』

ここはあるフランス料理店の事務所。
机を挟んでオーナーシェフ(O)と若いウェイター(W)が向かい合って座っている。
 
O「君はいったい何をしたかわかっているのか?」
W「はい、わかっています」
O「君がしたことは我がレストランの評判を著しく落とす行為なんだぞ」
W「はい、わかっています」
O「本当にわかっているのか!」
(オーナーシェフは机を叩く)
W「す、すみません」
O「君がしたことで、この店は倒産するかもしれないんだぞ」
W「すみません」
O「君は『すみません』と言うが、我が店のように高級感あるレストランでお客様の前でオナラをすることがいかに非常識か、わかっているのか?」
W「わかっています」
O「君は地方から出てきて、我が店の採用面接で、この店のような高級フランス料理店で働くことが小さい頃からの夢だったと言ったな?それがこれか!」
W「す、すみません」
O「君はもう少し、常識のわかる若者だと思っていた。それがまさか、お客様の前でオナラをするとは、非常識にもほどがあるぞ!」
W「す、すみません」
O「すみませんで済むと思っているのか!」
(オーナーシェフは机を叩く)
O「君は反省しているのか?」
W「しています」
O「しかし、なぜ、お客様の前でオナラをしたのか、そのわけを言ってみろ」
W「したかったからです」
O「したかった?お客様の前で、オナラをしたかったのか?それが君の夢だったのか!」
W「ち、違います」
O「じゃあ、なぜ、お客様の前でオナラをしたのだ?理由を言いなさい」
W「それが、我慢できなかったからです」
O「我慢できなくて、プ~とやってしまったのか?」
W「はい、我慢ができなくて、プ~とやってしまいました」
O「よりによってお客様の前で。なぜ、トイレでしなかったのだ?」
W「仕事が忙しくて、トイレに行く時間が取れなかったからです」
O「それは我が店の労働環境が悪かったというのか!君は自分のミスを店のせいにしようとする卑怯者か!」
W「ち、違います」
O「うちには従業員用のトイレもしっかりある。店の責任はない。全て君の責任だぞ」
W「はい!」
O「本当にわかっているのか?」
W「わかっています」
O「二度としないな?」
W「はい、二度とお客様の前でオナラをしません」
O「よし、じゃあ、帰りなさい」
W「すみませんでした。お疲れ様でした」
 
 
四日後。
同じフランス料理店の事務所で机を挟んでオーナーシェフと若いウェイターが座っている。オーナーシェフは腕を組んで若いウェイターを睨んでいる。
 
O「また、やったな?」
W「す、すみません」
O「君は二度も店の評判を落とすことをやったんだぞ?わかっているのか?」
W「はい。わかっています」
O「もうお客様の前でオナラをしないと言ったはずだよな?」
W「はい」
O「それから四日後にまた同じミスをするのか?ええ!」
(オーナーシェフは机を叩いた)
W「す、すみません」
O「これでは君のせいで店は倒産するかもしれん。従業員の君はいい。失業したらまた別の店で雇ってもらえばいいのだから。しかし、経営者の私は借金をしてこの店を出したんだぞ。まだそれが完済できていないんだぞ。そこで君のオナラで倒産したら、私の人生はどうなる?借金を返すための人生になるんだぞ。わかるか!」
W「はい、すみませんでした。もうこのようなミスは二度といたしません」
O「もう二度としないと誓えるか?」
W「はい、誓います」
O「じゃあ、今日の失敗の反省文を書いてきなさい。そうすれば君の中に強い意識付けができるだろう」
W「はい、書いてきます」
O「じゃあ、明日、反省文を持ってきなさい」
W「はい」
O「じゃあ、今日はいい。帰りなさい」
W「はい。お疲れ様でした」
 
 
十日後。
同じフランス料理店の事務所で机を挟んでオーナーシェフと若いウェイターが座っている。
オーナーシェフは腕を組んで若いウェイターを睨んでいる。
 
O「また、やったな?」
W「は、はい・・・・
 
(終わり)

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