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みんなで芸術作品を作る歓び

私は老人ホームで介護職員として働いている。
今日はレクリエーションで、壁に前景に紅葉と銀杏のある富士山の絵を作った。前前回に紅葉と銀杏の葉の形に切ってもらった紙を壁にセロハンテープで貼り、富士山は青い短冊状に切った紙で形を作った。前回すでに大まかな形は作ってあった。利用者のみなさんには秋の歌を歌ってもらい、そのあいだに私が自分で想像したとおりに貼っていった。しかし、今日は、ほとんどの利用者は車椅子で歩けないのだが、ひとり、歩けて壁に紙を貼るくらいはできる利用者がいたので、貼るのを手伝ってもらった。私は「好きなところへ貼ってください」と言った。すると、私が考えていたのとは違う貼り方をした。彼女は次々と紅葉と銀杏の葉を貼っていった。私は「え?そこに貼るのか?」と思ったりもした。しかし、作業がある程度進み、離れて見ると、私が想像していたのと違ったが、それもまたよかった。次に私は青い短冊で富士山のかぶっている雪を作った。山頂に青い短冊をジグザグに貼った。貼りながら、利用者の女性が、「もっと、裾のほうを長くしたほうがいいんじゃない?」と言ったので、私はそうした。それから、いろいろな利用者のおばあさんたちから意見を聞いて、富士山の雪の部分を形作った。するとあるおばあさんから「山頂はもっと凸凹している方がよくない?」と言われた。私は山頂をただの水平に短冊を貼っただけにしていた。他のおばあさんも、「うん、そうそう、山頂は凸凹している方がいいね」と言ったので、私は水平に貼ってあった短冊を剥がして、おばあさんたちの意見を聞きながら、青い短冊を切って短くしたりしながら、凸凹した山頂を形作っていった。そして、離れて見ると、たしかにそのほうがよかった。私の想像の中にあった物以上の物ができた。
私は職場からの帰りの車の中で、昔、黒澤明が話していた「窯変」ということについて考えていた。私は黒澤明を、何でも自分の思い通りにならなければ納得しないワンマン監督かと思っていたが、彼が言うには、焼き物は窯に入れて焼かないと、どうなるかわからない。窯から出すと、自分が想像していたものとは違うものが焼けている。それをつまり「窯変」という。映画にも窯変があって、役者や他のスタッフに仕事をさせると自分の思ったのとは違うものができてくるそうだ。ましてや、黒澤明のスタッフはプロ中のプロだ。役者にしてみても、演技で言えば監督よりもその道に熟達している場合も多い。
私は普段、ひとりで小説を書いているが、「ああ、みんなで何かを作るというのも面白いなぁ」と今日は思った。

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