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追憶_011_言葉にするということ

7年ぶりに訪れたその街は、もはや様変わりしているかすらもわからなかった。確かなことは、賑やかな駅前よりも少し逸れた静かなお店が心地良く感じる、私が変わったということだ。

彼女から手を繋いでくれると嬉しい。長らく人の温もりを忘れていたので、そんな小さいことでも大袈裟に反応してしまう。少しやりすぎたか叱られてしまったが、半分は照れなのだろうと都合の良い解釈をしてみる。

好意を表現してくれている。私と似た感情を抱いてくれている。その事実がここまで気持ちを晴れやかにするなんて。自分の機嫌は自分で取るものだとわかっていても、嬉しいものは嬉しいのだ。

食べたいものを食べて、気になったお店を覗き、好きなものを眺める。気取ったり背伸びはしない。飾ったとしても繕わない。ただ同じ時間を過ごしているこの空気感が好きだ。

かと思ったらとても真剣な話がいきなり始まるのも面白い。「私達の関係性」について改めて再確認したのだけれど、時と場合を選ばずになんでも話せるのが私達の良いところだと思う。売り物の椅子に座って将来について話し合う私達は、周りからはどう見えていたのだろう。

そもそも交際を始める際に彼女の心構えをはっきりと伝えられているのだ。今更この幸せを手放す理由はない。なぜなら私もそうだったのだから。私には断言する権利がある。それが何より嬉しかった。

1日でも早くこの気持ちを、明確な言葉で届けたい。あなたに。

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