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追憶_018_変わり続ける勇気

彼女の仕事終わりに飲みに行くことになった。
地元に帰ってこれなければこういう日常も無かったかもしれない。改めて、この普通は決して普通ではないことを思い知る。

カウンター席は今でも少しドキドキする。
なんとなく彼女が右で私が左。八割くらいはこの並びになると思う。今後のことを考えると左手で食べる練習を始めるべきかもしれない。
賑やかな呑み屋街の端っこ、怪しげな中華料理屋の一番奥の席で、紹興酒を片手にそんな他愛のない話をする。
こっそり手を繋ぎながら。

この日常が普通になってしまうこと。基準になってしまうこと。それが怖くてたまらない。大切なものが増えるほど失う怖さを考えてしまう。大切にしようとするあまり一歩引いてしまいそうになる自分が嫌いだ。

でも、それは私だけではなかった。彼女の思考の中に、確かに私は生きている。それが知れただけでとても嬉しかった。

不安を抱えても良い。その代わり、一緒に抱えられるように。
負担をかけても良い。その代わり、一緒に支え合えるように。
あまりにも思い続けて、あまりにもすんなりと始まった交際だから。もっと擦れあって、削れあって、私達の最適を探し続けられるように。

翌日急に決まったランチ、会いたいが過ぎた。
ほらね、大丈夫。

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