女子初代バロンドール受賞者ヘーゲルベルグの代表チームボイコットにみる女子サッカーの今後

 ルカ・モドリッチが受賞したバロンドールに、今年から女子部門が設立された。初代受賞者として選出されたのは、フランスのオリンピック・リヨンでプレーするノルウェー人FWアーダ・ヘーゲルベルグだ。

 1995年にモルデで生まれたヘーゲルベルグは、6歳の頃に姉アンドリーネと一緒にサッカーボールを蹴り始める。12歳の時にコルボトゥンILで本格的にサッカーに取り組み、2011年8月に16歳という若さでトップリーグ史上最年少となるハットトリックを達成。同年に11得点を叩き出してリーグ得点王のタイトルを獲得し、にわかに脚光を浴びるようになった。

 翌2012年に国内のライバルチームであるスタベックに移籍すると、1年目で18試合25得点をマークして2年連続で得点王に輝いて国内での地位を確固たるものにする。その後ドイツのポツダムで2シーズン在籍した後、2014年に活躍の場をリヨンに移した。

 世界トップクラスの選手が集まるリヨンでもヘーゲルベルグの実力は遺憾無く発揮された。

 加入1年目の2014-2015シーズンでいきなり26ゴールを記録すると、その後3シーズンで積み上げた得点の数(シーズンごと)は33、20、31。3年連続で得点王のタイトルを獲得し、すっかりチームの中心選手として定着した。チャンピオンズリーグでは昨シーズンに大会史上最多となる1シーズン15ゴールをマークし、チームの欧州制覇の立役者となった。

 ヘーゲルベルグの母国ノルウェーは来年フランスで開催されるW杯への出場権を獲得している。だが、世界最高峰の大会で世界最高のプレーヤーである彼女の姿を見られる可能性は限りなくゼロに近い。昨年夏の欧州選手権を最後にノルウェー代表でのプレーを「拒否」しているからだ。「ノルウェーには女子サッカーに対するリスペクトが欠けている」というのが理由だ。

 ノルウェーサッカー協会は昨年秋、男女代表チームの報酬を同一にするという世界でも稀な方針を公表した。男女平等において先進国として知られるノルウェーらしい決定だったが、ヘーゲルベルグに言わせれば母国にはまだまだ改善すべき点があるという。

「サッカーをプレーする女性の環境を良くするためにはやらなければならないことがたくさんあります。つまり、女子サッカーをリスペクトしているかどうかが大事なのです。ですがノルウェーはそうではありません」

「ノルウェーでは女の子にとって一番人気のあるスポーツはサッカーです。それはいまも昔も変わりません。ですが機会という点では男子よりも少ないのです。ノルウェーの女子サッカーには素晴らしい歴史がありますが、今日では困難な状況におかれています。発展について議論することをやめてしまい、その結果として他国に追い抜かれてしまったのです」

 正直、私はノルウェー女子サッカーの事情にそれほど詳しくない。そのため、ヘーゲルベルグの発言を鵜呑みにしてノルウェーサッカー協会を悪者扱いすることはできない。もしかすると、ヘーゲルベルグの要求が単に高すぎる可能性もある。

 ただ、ひとつだけ確かなことがある。

 女子サッカーの環境改善を求める声は世界的に年々大きくなっている、ということだ。

 昨年4月、アイルランド女子の代表選手13名が記者会見を開き、ウェアをユース代表と共有していること、遠征試合では空港の公衆トイレで着替えを済まさなければならなかったことなど、女子選手がいかに酷い状況に置かれているかを語った。この結果、女子選手が要求していた待遇改善(代表戦1試合につき300ユーロ、勝利給として75ユーロの支給など)が全面的に受け入れられることになった。

 米国でも、アレックス・モーガンやミーガン・ラピノーら5人の女子代表選手が一昨年4月、女子も男子と同額の報酬を受け取る権利があるとして米雇用機会均等委員会に訴えを起こした。訴えから1年後の昨年4月、女子代表と米国サッカー連盟は基本給30パーセントのアップと代表戦1試合につき追加ボーナス支給ということで合意。男子と同一待遇とはならなかったものの、女子サッカーにとって大きな前進だと好意的に受け止められた。

 断っておくが、「男女平等」という耳障りのいい言葉を盾にして収益差などの市場価値を無視した評価が下されてしまうことには私は反対だ。クラブチームの例を挙げると、男子チームのほうが観客動員数やスポンサー収益で上回っているにもかかわらず女子チームと待遇を同じにするなどというのは暴挙以外の何物でもない。

 とはいえ、女子サッカーは近年目覚ましく発展している。世界全体が何かしらのアクションを起こさないと、ヘーゲルベルグのようにW杯や欧州選手権をボイコットする選手、ひいては才能に恵まれながらスパイクを脱ぐ選手が増えるかもしれない。そしてそれは女子サッカーにとって大きな損失であり、発展の妨げでもある。