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桜花舞うさようなら

春の風が桜並木の花びらと思わず挨拶を交わすその日、ウサギとカメは桜の下で静かに向かい合っていた。カメは少し緊張した様子で、「3月は特別な月だよね。卒業の季節だから」と言葉を選びながら話し始めた。

ウサギは彼の言葉に優しく微笑み、「私にとって卒業は、新しい世界への一歩だわ。だから今は、とてもわくわくしているの」と応えた。 カメは視線を落とすと、「僕は、新しい環境に馴染めるかどうか、新しい友達ができるか、すべてが心配で…」と打ち明けた。

ウサギはカメを温かい眼差しで見つめて、「大丈夫よ。大切なのは、この変化を成長の機会と捉えること。今までの経験の全てが、これからを支えてくれるから」と励ました。

カメは、彼女の言葉に少し元気を取り戻し、「そうだね、僕たちも新しい一歩を踏み出すときが来たんだね」と頷いた。「別れることは寂しいけれど、それぞれの道を前向きに歩んで行きましょう」ウサギは声を止めると、右手を優しく振ってみせた。

しかしその瞬間、ウサギはハッとして手を下ろした。「ちょっと待って!これって、私たちがお別れする話?」ウサギは掠れた声で叫ぶと、瞳に大きな涙を浮かべた。

「そうじゃないんだ。今ね、卒業をテーマに物語を書いていて…。主人公が卒業を迎えてどんな気持ちになるのか、考えてたところ」カメは、「こういう気持ちになるのか……」と、すっかり一人の世界に入っていた。

「カメくんったら紛らわしいわね。心臓が止まるかと思ったわ。私を驚かせた罰として、かき氷の大盛りをごちそうしてもらうわよ。ちょっと!ちゃんと聞いてる?」

ウサギはさっきまで涙を流していたのが嘘のように、カメに向かってニッコリと手を差し出した。そして彼のスマホを手にすると、さっそくお店を探し始めた。

「どこのお店にしようかしら?行くなら早い方がいいわね」と、今度はウサギのほうが、どっぷりと一人の世界に入っていた。


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