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風呂にて

いい匂いのする柚子ふたつ
気ままにぷかぷか浮かんでいる
わたしとはもう無関係の毛
気ままにへろへろ逃げている
追いかけすぎも良くないだろう
捕まえるのはあきらめた
身体から解放されたい
あらゆる物質から解放されたい
なんでこんなに苦しいのだろう
答えられるはずもなく
浮力以上にわたしは重い
顔を耳まで湯船につけて
響く鼓動に目を瞑る
境界線から少し自由になったとき
ぴとり
黄色い丸がひとつ乳房にとまった
ああそういえばわたしには
こんな丸がついている
一生付きまとう不平等の丸と
世界共通の癒しの丸が
わたしも柚子になるしかないか
さっきより重くなった心で
湯の中に増えたちぢれ毛を掬う
自由なんて夢のまた夢
すべてがあきらめに変わり
排水溝に吸い込まれていった
風呂の床に柚子が並んでゴロン

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