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ここにたしかにツタヤが

ここにたしかにツタヤがあったんだよ
何年か前に潰れてしまったけれど
家から30分かけてここまでよく歩いたよ
建物の上につづく短い斜面を上ると駐車場があるんだ
今は外の形だけまもって
お菓子も売ってるドラッグストアになってる
ここにはほんとうによく来たよ
仕事を終えて晩御飯を終えたあとの散歩で
ぐんぐん歩いているうちにいつのまにか着いてしまうんだ
必ず同じ道を通ってしまうので
きっと靴を履いた時点でわたしたちは
DVDを借りてお家で見たいなと思っていたのかもしれないけれど

そこにたしかにツタヤはあったんだ
入ってすぐのところに
いつも大したことないガチャガチャの機械が2つ
アラーム付き自動ドアを通ると右側は本や雑誌のコーナー
ベストセラーや漫画が多かった
レジの近くには見たことないパッケージのスナック菓子があって
映画見ながら食べたくなるなと思いつついつも素通りしてた
店内の半分以上をDVDが占めていて
黒い棚に一生かかっても見きれないほどのたくさんの作品が手にとられるのを待ってねむっていた
何回も借りたのは「ニューシネマパラダイス」
10回借りたらもう自分で買おうと思って
12回目のレンタルをした次の日にネットで注文した
わたしだけのニューシネマパラダイスは
あれから1回も開封されていない

5枚で1000円 と書かれた青い小さなポスターがあらゆるところに貼られていて
この一週間でなんとかして5枚見たいとスケジュールを組む
毎晩映画を見る体力はなかったから
見終わらなくてそのまま返すときもあった
タイトルで借りてみて失敗して返した
聞いたことない作品が実はすごく面白かった
子供の頃みた映画をもう一度楽しんだ
背表紙はいつも想像をかき立てた
普段選ばないものも選んで見てみようと思えた
そしてやっぱり違うなとか
意外と面白いなとか思えた
こういう偶然や運命が楽しかった

帰り道はいつも閉店後の真っ暗な店達を覗いた
不動産屋さんか何かで
真っ白で小さなテーブルの椅子にきちんと腰掛けた犬のぬいぐるみが
薄暗いお店の中で
見るともなしに何もない壁を見つめている場所があった
わたしたちはそこを通るたびにしばらくその店のウィンドー越しに
ぼんやりした犬のぬいぐるみ見つめていた

仕事でたどり着いた道の途中に
見覚えのあるすがたがあった
ああここにツタヤがあったんだよ
ここにたしかにツタヤがあったんだよ
先輩は目が覚めたような顔の私をみた
わたしはこの場所を知っていることがうれしかった
そして何年もあとになって
そのときは全く会ったことのない人に思い出を話せるのがうれしかった

年齢を追うごとに
過去に対して饒舌になる
ていねいに思い出すようになる
そして語るようになる
鮮やかな過去は視界を青っぽくさせる

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