よまいごと

足首からふくらはぎにかけて、喉もとでだって、ずっとずっとくすぶりつづけている。
ラッピングを施す自信もなかった。
その浅はかさだってまるごと脳内麻薬に浸されて、朝焼けに苛立ってしまいそうなほど呼吸器官を、ひとつひとつ、意識してみたりなんかしてもいた。
ホットミルクが甘すぎたから、沈殿した砂糖の舌触りがそうさせたから梯子を蹴落とせないのだとあなたに書いた手紙をずっと私はかくしたままでいられるだろうか。
あまいあまい砂の城をこわしたくないから便箋を取り出したはずだったのに、私が触れずとも目の前でくずれおちてゆくやせた夢を何度だって繰り返しみてしまう。

あなたのからだの奥底で沸騰するあさましさのことを想った。
それは身にまとった布切れをひるがえすより、とても、とても。
あなたの家の本棚で静まりかえる、私がすり抜けてゆくための言葉たちを想った。
それは汗ばむ身体をゆらすより、とても、とても。

いつだってつめたい昼のなかに身を潜めては
私とは分かり合えないことばを編み上げるから
これは次の夏が来たら終わるまやかしなのだと何度も言い聞かせてはいる。
ねえ焼き付けたくなんかないわ
どうせさよならなんだもの、ひとつひとつのやりとりを記憶や想い出にしたらかたちを保っていられない。
だからこの糸がどうか脆いものであるようにと口付ける。だれにもわからないようにちいさく祈る。
12月なのに夏のような蒼さと白々しさが隙間からこぼれてくるこんな朝だったから、弱火でコトコトと音を立てて煮込まれた名前のない星が目に見える時間はあまりに短すぎたよ。
スクラップブックの切れ端にずっとずっと手渡すことのないほんとうのことを書き連ねようとおもいました。
でもそれでも結局は
トーストにバターとジャムを塗る音にかき消されてすべてがなかったことになるのね。
昏い部屋はとてもあまくてやさしいこと、あなたが知らないのは惜しいけれどここには潤沢なアルコールと不健康な糖衣錠(あくまで、用法と容量をまもったことにして)が髪を撫でてそばにいてくれる。

その安らぎが噛み合わないまま、今日も私たちは私たちのために、遠く逸れるための準備をしている。

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