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足元が見えなくなった時には

現在スウィングには社会福祉士なんとかの一貫として、村松さんという大学生がおよそ1ヶ月間の実習に来ている。

彼女はスウィングの空気感を早々に感じ取り、コスプレしたり(まだ見てない!)、自ら演劇ワークショップを企画して試みたり、とてもいい感じの日々を送っているようだ。

スウィングでは数年前から社会福祉士なんとかとかインターン的なアレの受入を細々と続けており、その担当者は永遠のリストラ候補・沼田亮平である。今日も明日も明後日もリストラ候補の男に、コロナ第2波で死ぬつもりになってジープを買い、もはやこの世に未練がないという男に「指導」されるってどんな気持ちだろう? と想像しただけで少し楽しい。ともあれ、村松さんが毎日毎日丁寧に書き綴っているレポートに対し、彼がとっても熱のこもった「返し」をしているのは確かである(村松さんのレポートと沼田君の返しは僕の元にも必ずデータで送られてくる)。

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が、ある日の沼田激アツ返しに思わず目を疑う。

村松さんは大学のサークルで演劇をしているらしいのだが、その日のレポートの末尾には、明くる日以降の課題としてこう書かれていた。

『脚本に使えそうなエピソードや出来事をスウィングから可能な限りみつけだす』

この勇気ある意思表明に対する鬼担当・沼田の返しがこうだ。

『社会福祉士実習に来ている以上、本末転倒かと思います

バッサリ。一刀両断。

以下、スウィングWEBサイトより抜粋する。


アート、環境、エトセトラ。

スウィングは「べき」やら「ねば」やら既存の仕事観や芸術観に疑問符を投げかけながら、

世の中が今よりほんのちょっとでも楽しいコトになればいいな! 

と願う一市民、NPOとして、様々な活動を展開・発信しています。

我ら一市民、我らNPO、我らスウィング。


以下、スウィング定款より抜粋する。


第3条(目的)

この法人は、既存の仕事観や芸術観にとらわれない自由な働きや表現活動を基軸とした事業を行い、「障害」「健常」「大人」「子ども」「男」「女」等あらゆる「枠」を超え、同じ時代、同じ社会に生きる人々が多種多様な価値観のもと、出会い、関わり、支え合うことのできる社会環境づくりに寄与することを目的とする。


……ていうところで働いてきたんでしょ? 13年間も!! 

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彼女がやろうとしていることは、これまでスウィングがしてきたこととほとんど同じだ。演劇的・演出的視点を持つことにより、お金を中心とした一面的な価値観の枠外から、この人にはどんな役(仕事や役割)が合うか? この人の魅力やどうでもよさを活かすにはどうすればいいか? 人それぞれが持つ豊かな多面性に光を当てることができる……って何度も何度も伝えてきたのに!! ぷんぷん!!

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それどころか月に1度以上はゴミブルーというヒーローになり、最近では悪ノリ……いやチャレンジ精神が高じて「顔ハダイロ」という理解不能なNEWキャラクターになり、すれ違う子どもたちにナチュラルソーシャルディスタンスを取られているという自分自身の仕事や日常は一体全体どこに行ってしまったの!? もう!! ぷんぷんぷん!!!

……ていうか、言いたいことは分かるけれども、いや分からないけど、そもそも「本末転倒」の使い方が国語的に間違ってるのが、輪をかけて気になるし混乱する!! ぷんすかぷんぷん!!!!

すぐに2人と話をし、(上に書いたようなことを説明して)村松さんにはもちろんGOサインを出し、そして沼田君を注意した。「顔ハダイロしといて何をぬかしとんねん」と。この注意によって彼は、スウィングが、そして自分自身が積み重ねてきたことを思い出し、真逆からモノを言っていたことに気づいたという。彼がコソコソ密室的に「本末転倒!」とか言ってたのなら、そりゃちょっと問題だったかもしれない。でも彼は常に「間違っているかもしれない」自分を開示することができ、そして間違っていたら素直に認められる人だ。僕もそんなふうにありたい。

……いやいや、何を上から目線の綺麗事を。

そもそも僕は彼に、ぷんぷん偉そうにモノを言える立場ではないじゃないか。

まだコロナ禍以前、2020年が明けてすぐ、僕はちょっとした混乱に陥っていた。長い休みを挟んでいろんなことを考えすぎたせいか、自分がスウィングにおいて、あるいは社会に対して何をすればいいのか全く分からなくなってしまったのだ。今となっては何をそこまで……と思えるが、当時の僕にとっては深刻な事態で「このままではスウィングに行けない……」、そんな危機感すら覚えていた。こんな時、スウィングという存在は頼もしい。すぐに沼田君とゆみさんとあやちゃんに話を聞いてもらい、すぐには答えらしい答えは出なかったけれど、とにかく気持ちを吐き出し、落ち着きを取り戻すことができた。

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それから数日後、たまたま沼田君と2人になる時間があったので、今度は冷静にこんな感じで切り出した。

「こないだはありがとう。でも相談の仕方が悪かったかもしれない。だから今度は沼田君のことを聞かせて欲しい。沼田君はなんのためにスウィングで働いてるの?」

ああ困っている。そりゃ困る。「なんのため」ってこれは困らせるための質問だなと思い直し、「じゃあ、沼田君がスウィングでしたいことは何?」と尋ね方を変える。すると即答で「ワークショップです」。わお。即答って彼には珍しい。そうかあ、そんなにワークショップが好きなのかあ。「じゃあ、なんでワークショップがしたいの?」と続ける。彼は少し間を置き、「スウィングのことを僕なりに伝えられる手段だと思うからです」。

この時点で僕の心は「おお……おお……」と盛り上がりはじめている。自分自身の迷いの霧が少しずつ晴れてきたからだ。だからしつこいのは承知しつつ、粘る。じゃあ、なんで、なんでスウィングのことを伝えたいの?

「スウィングを知ることで物の見方や考え方が変わったり、生きやすくなる人がいると思うからです」

2億点満点か!!!!!

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急に沼田君が出木杉君に見えてビックリしてしまったが、僕はこのやり取りに心の底から救われ、「ああ、そうだった……」と原点回帰することができたのである。

いつだって難しいのは足元だ。近すぎて、感覚がマヒしてしまって、時として日常の意味すら見失ってしまう。

だから時々誰かに、教えてもらわないと分からない。先へ先へではなく、元いた場所に帰してもらうために。

弱っちろい僕たちは繰り返し繰り返し、時に間違え失敗し、他者の助けを借りながら生きてゆく。

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