実用的じゃない実用偏重

大学のとき言語学・音声学を学んだと言うと、よく「何の役に立つのか」と聞かれる。世の中の殆どの人は何らかの言語を使って生活している訳で、今これを書くのにも言語を使っているし、読む人も言語を使って内容を理解している。人間同士の意思疎通には欠かせない言語というものの仕組みについて知ろうとすることがなぜ役に立たないと思うのだろうか。

実際、パソコンの日本語入力にも、スマホの音声認識にも、ネットの検索エンジンや自動翻訳にも言語学・音声学の知識は使われているし、語学を教えるのにも使われている。語学産業の場合はトンデモが多いけど、ちゃんとした所では一応言語学に基づいた内容やメソッドを採用している。東日本大震災の時は国立国語研究所の方言データが医療従事者と患者の意思疎通の助けになり、ニュース記事にもなった。

ある学問が何の役に立つのか想像がつかない人は、それが何の役に立つかなどという心配をしなくても困らず生活できるということなので、わざわざ他人にこんな質問をすること自体が変だなあと思う。応用されている分野を純粋に知りたいならともかく。そもそも、専門領域というのは何らかの存在意義があるから存在しているのであって、役に立たない専門領域があったらこっちが知りたい。全てのものはその時が来れば役に立つ可能性があるし、その時が来ないと何が役に立つかなんてそうそう分かりはしない。「くだらない研究に税金を使うな」とか「我々の実生活の役に立たない研究をするな」とか文句を言う人がいるせいで、「実用」とか「応用」が云々という研究ばかりがなされるようになって、肝心のその土台になる研究が減って凋落してきている分野も多い。

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