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「アメリカンユートピア」いいんだけど、、、

話題の映画、見て来ましたよ。ワイヤレスの技術を駆使して、ステージ上のセットは無しで人力のみで魅せ切る、フルバンド演奏によるミュージカルの映像化。本人出演のキャリア総括ミュージカル。当時68歳のデビッドバーンが見事に2時間歌い切る、素敵なMCも挟まる、感動な瞬間もある。なんならいいとこしかない、よく出来た音楽劇。新たなライブエンタテインメントの可能性を提示する意欲作。

中盤の"Once In A Lifetime"が最初のピークで、最後は"Road To Nowhere"で会場を練り歩いて素敵に終わる。もう現場で見たい!いや現場で見てるかのような映像で仕上げられていて、最後は自転車で会場を後にするところまで・・・

・・・と褒める言葉はいくらでも出てくるんだが、もちろん見ることをお勧めする映画には違いないが、俺の中ではいくばくかの違和感を感じるのも確かで、それについて少し記しておこう。感動のまま終わっておきたい人は以下は読まないほうがいいかも?

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そもそもが「アメリカンユートピア」というタイトルだ。アメリカの桃源郷、もちろん皮肉は込められているとは言え、アメリカの闇をアメリカ人が浮き彫りにする抽象的な詩曲。そこに白人デビッドバーンが多国籍軍をまとめていて、音楽的にはかなりアフリカ〜南アメリカの黒人音楽の影響を強く受けたもの。それをどういう心持ちで日本人である俺は受け止めればいいのだ?とずっと考えている。

もちろんこの塩梅のミクスチャー音楽は大好物だし、デビッドバーンが主催するレーベル「ルアカバップ」からリリースされたワールドミュージックのアルバムも沢山持っている。彼は本当に勉強熱心だし第三世界の音楽が大好きで、援助をこれまで惜しんでこなかったのも知っている。きっと「いい人」なんだろうことも想像つく。彼に感謝している第三世界の音楽家が数多いるだろうことも想像つく。

それでもなお、何かが引っかかってしまうのは何故だ?と考えている。

まず、その彼がやって来た事実の羅列を見ると、そこにあるのは「資本主義の縮図」でもある。ユニクロやAppleやなんやのグローバル企業と同じ。賃金の安いところ〜発展途上なところの人々を助ける側面と同時に、どうしようもなく搾取も発生してしまう。音楽家からしたら「手柄取り」と取られて仕方ない側面もある。実際黒人の音楽評論家のネルソンジョージも言っていたが、白人がやって来たポップスは全て黒人からの搾取であると。ジャズもブルースもロックもヒップホップも黒人のストリートで、貧民街で生まれたものを白人は搾取してビジネスにして来たと。

想像してみよう。アフリカのとある国で人気の音楽家Aがいた。マツリゴトでいつも大人気のA。それを偶然知った&感銘を受けたデビッドは「音源にしないか?」と声をかける。音源にするという発想すらなかったAは、悪くないギャラがもらえそうだということで了承する。そしてそのAの作品は世界で話題になる。いろんな国に行くことができるようになり、家族や親戚も潤う、、、と共に常にマフィアに財産を狙われる身にもなってしまう。そして最初の作品は売れたが二作目を作るような曲数をレパートリーに持っていない。売れ続けるには作り続けなきゃいけないことを知る。そしてデビッドに相談しようとすると、彼はもう次の音楽家を見つけて、その制作とプロモーションに忙しくてなかなか捕まらない。。。。Aは幸せな音楽人生なんだろうか?と。

そう、デビッドバーンはキリスト教〜資本主義の宣教師と同じと言っても過言ではない。なんならば感謝されるようなことを多数して来てるだろうが、必ず争いごと揉め事のタネもそこに落として行くのだ。

そんな彼も現在のアメリカの状況を憂いている、それは黒人の監督スパイクリーも同様。そして黒人ジャネルモネイの曲"Hell You Talmbout"を白人の俺が歌っていいんだろうか?と自問しながら、許諾を得つつ歌う。そしてBLM問題へと繋がった、黒人の犠牲者の名前を呼び、追悼して行く素敵な時間もある。アメリカに住む人からしたら素敵なコーナーだろう、分断を乗り越えて共存を歌うコーナー。そして選挙に行くことの大切さを語る時間もある。あなたの一票がより良き時代を作るんだと。

でも宣教師さん、
宣教師さんがいろんな国の人に
資本主義の考え方を伝えて行った結果の
争いであり格差でもあるんですよ

映画を見ながら思ったことを言語化するならそういうことかもしれない。絶対正義なんて存在しない。だから、ただただ美しく楽しく素敵なメッセージとともにあるこの映画が、拍手喝采とまで個人的に思えなかったのはそんなことがよぎったからだろう。それも日本人として受け取りたくても受け取るには限界があるメッセージだしね。変に政治的なメッセージ色を出さずにやり切ってくれた方が時代と国境を越える作品になった気がするんだが、、、でもそこはスパイクリーが監督な時点で必ず入っちゃうメッセージだからな。監督が違えば仕上がりは違ったかもしれないが、このウケ方はこのメッセージもあるからだとも言えるだろうし、、、複雑な気分は残ります。アメリカの闇と膿を何故世界に発信しなきゃいけないんだろう?って思っちゃうんですよ。更にいうならばこの「闇と膿」をビジネスにしちゃってません?「闇と膿」が続いてくれることを前提に仕上げてません?と思っちゃうんですよ。

これはあくまで日本人としての個人的な感想ですけどね。
フォローしときますが、エンタメとしては最高ですよw

それでも、デビッドバーンの音楽はやっぱり面白いと思ってるのは変わらないので、こうしてレコードを何枚か取り出して、
今回の映画でも使われてる曲の原曲を聴き直してたりするんですけどね。

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では最後に、映画でもやっていた、このチンパンジーのジャケの、
Talking Headsラストアルバムからこの曲をどうぞ。
"Blind" by Talking Heads1988


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