[感想17]なぜ働いていると本が読めなくなるのか

 もうこの著者の書くことに対して信用を持ってないのはあるけれど、それを強める材料が一個増えた感じだった。
スマッシュヒットを叩き出した新書って一目通すぐらいならオススメ出来ますよ、ぐらいの温度感を持ってることが多いけれど、この本に関しては一目通すのもなー…てぐらい、モヤっとした気持ちで読み終わった。

 話をサクッとまとめてしまうと労働へのフルコミットから外れるよう徐々にシフトしていくことが本を読めるようになるための回答として提示されていて、ノイズ(取得したい情報以外の寄り道となるもの)と感じるものに対しての受容性が薄いことへの指摘がちょっといいところだなぁ。と思ったぐらい。

 ただし本を読めるようになる、という目的のために注力して仕事へ取り組む姿勢をやめて程よい力の入れ方をしていく意味で「半身社会になろう」といった主張は流石に笑ってしまった。労働を軽視している節もあるし、何より現代でよくある自分勝手な論理になる着地点なのでこの手のテーマでそこに行きつくのは社会を変えようという趣旨にしても無理な部分が大きすぎるので、あまり良い時間にはならなかったな。というのが本音。


 まず本書自体が本を読めなくなった人が読めず、まだ本を読めている人たちにしか読了しえない難儀な本になってることは自覚しながら出版したのかは知りたい。
構成が明治時代~2010年代の読書の位置づけを歴史の背景と紐づけながら辿っていく構成で、終章に結論として上記の話が出てくる。この歴史を辿っていく章が寄り道、本書でのノイズそのものでもあるしここを含めて面白い話を聞けたなあと思えるのはまさしく本を読めている人たちに属することになる。

 これは本だけじゃなくてアニメやドラマ、映画をはじめとしたエンターテイメント全般に通じる話でもあるし、娯楽を楽しむ余裕がないという前提意識の共有がないと自己啓発本に対するスタンス含めた個所に理解で躓くんだと思う。
「どうして趣味だった楽しいことが出来なくなったんだ?」というニュアンスを著者の特性上、”趣味だった楽しい事⇒読書”と変換して展開しているせいもあるので、カッチリとした論理での分析という体では見ないで、本を中心にしてそういう話をしてるんだと思って読むのがいいんだと思う。

 半身社会に関する提示も、在宅勤務が浸透した今では実践できる人は多いと思う。実際に自分も勤務中にラジオやバラエティを垂れ流しにして息抜きでテレビの方をチラ見するとかで欠かさず見れていたというのは大きいので。
ただ年齢や勤務年数を重ねると質と量がどんどん大きくなる業務を充てられることも徐々に増えてくるし、新たに家庭を築いたりと自分以外の人間の手綱も握ることが出てくるとコントロールできない要素が多くなったり、半身社会になりつつも残りの半身は別の何かに浸食されたりと別の要因で読書含む娯楽から遠ざかっていくこともあり得る。そういったところも深掘りしてほしかったのが本音なんだけれど。

 上記全てを踏まえて、三宅香帆が出した「どうして趣味だった楽しいことが出来なくなったんだ?」の回答を見せてもらいました、という話だと理解したし、マストで読むべき本として勧めるのも迷ってしまうというのが個人的な感想。半ば投げやりな結論も自己啓発本に対して出した見解を踏まえれば矛盾のない理論ではあるけれど、夢想家に近しい結論を推奨してそれが持ち上げられるのはSNSのすべてとも言えそうな感じではある。


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