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【釈正輪メルマガ4月30日号】日々是好日

【脚下照顧】
草にねころんでいると
眼下には天が深い
風 雲 太陽
有名なもの達の住んでいる世界

山之口貘「天」より

青空を見上げていたら、だんだん雲を近くに感じるような、そんな大きな自然に包み込まれる感覚が、夏という季節にはあるのかもしれません。

そして胸に残るのは、蝉時雨、風鈴、花火、祭囃子。いよいよ「立夏」夏が始まります。青々とした緑に、初夏らしい爽やかな晴天が続く頃です。

立春から数えて八十八日目の夜。もうすぐ初夏を迎える時期です。米という文字は、八と十と八を重ねて出来上がることから、縁起のいい農の吉日とされています。そこで農作業の目安とされてきました。種籾を蒔いたり、茶摘みをしたりする時期です。とはいえ、五月の初めにふいに冷え込む夜があって、霜が降ったら農作物が大変です。そろそろ霜がやむ時期ですが、くれぐれも油断はしないようにと、八十八夜の忘れ霜といわれます。

合掌

むさし野も はてなる丘の 茶摘みかな

水原秋櫻子

人生にこのような場面はありませんか。今回は仏教のお話ではなく、「イソップ寓話」からの話をいたしましょう。イソップ物語と聞くと、子供向けに作られた話だと思われがちですが、本当は大人へ向けた、生き方のアドバイスでした。

イソップは、二千五百年ほど前の人で、ギリシャの奴隷だったといわれています。弱い立場にあった彼は、動物を利用した例え話を作って、メッセージを発信していたのでした。

『アリとキリギリス』
太陽が照りつける暑い夏です。アリたちは、やがて訪れる寒い冬に備えて、せっせと食料を集めていました。楽天家のキリギリスは、涼しい所でバイオリンを弾いて、歌ってばかりいます。汗を流しながら働いているアリを見ると、バカらしく思えてきました。「アリさん、どうしてそんなに一生懸命に働くんだい?毎日をもっと楽しく過ごさないかい」

アリは忠告しました。「キリギリスさん。あなたは寒い冬が来ても、その調子で遊んでいるつもりかい。雪が降ったら、食べ物はなくなるんだよ。必ずやってくる冬への準備をしておかないと、大変なことになりますよ」「冬なんて、そんなのずっと先のことじゃないか。今のうちに、思いっきり遊んでおいたほうが得だよ」と言って、キリギリスは笑っていました。

しかし、鮮やかな緑も茶色に変わり、月日はあっという間に、雪の降る寒い冬になりました。一面の銀世界です。キリギリスはお腹を空かせ、寒さに凍えながら、雪の野原を彷徨っていました。「そうだ、アリさんの家に行って、食べ物を分けてもらおう」アリたちは、暖かい家で楽しく過ごしていました。玄関に立ったキリギリスに、アリは言いました。「あなたは夏の間、一生懸命に働いている私たちをバカにしていましたね。何度も注意したはずです。あの時に働いていれば、今、苦しむことはなかったのに…」

私たちの一生にも、同じようなことがたくさんあります。世の中は、素晴らしい未来ばかりとは限りません。災害や戦争、政治経済の変容等による悲苦の人生は、必ずいつの世にも、現実に起こり得るのです。人生には生老病死の苦しみのみならず、愛別離苦(親愛な者との別れの苦しみ)、怨憎会苦(恨み憎む者に会う苦しみ)、求不得苦(求めているものが得られない苦しみ)、五蘊盛苦(心身を形成する五つの要素から生じる苦しみ)苦しみが、波のように襲ってくるものです。

必ずやってくる心身共への準備は出来ていますか。仏教では『脚下照顧』といいます。身勝手な人間たちにイソップは、このような例えを作って、愚かな私たちに呼びかけているのです。

平成最後のメルマガを拝読して頂き、心より感謝いたします。

釈 正輪 九拜

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