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木でつくる多様な働き方のためのインダストリアライゼーション

芝浦工業大学大学院の修士論文の発表会に参加した。いろいろと面白い発表はあったが、最後の方にあった生産系の発表が興味深かった。

ひとつは女性が建築生産の現場で働く状況とその困難について。人手不足もあり、専門工事会社でも女性を積極的に雇用し働く環境を整えようと取り組んでいる会社も多いが、出産を契機に離れてしまうとのこと。子どもが生まれれば朝の家事はさらに忙しくなるし、保育園幼稚園に子どもを届けるまでは仕事に出かけられない。夕方も早く帰らなければならないだろう。現場仕事は作業時間が決まっていて工夫でずらせない(早朝工事や夜間工事は近隣からのクレームに)。もうひとつは建設現場の一種のタブーである労働力需給調整のための偽装請負などについて。

そこには建設業が基本的には受注産業であること、現場作業が多くを占め、合番(あいばん。ひとつの作業が終わったら次に作業が始められる。それぞれは別の人が受け持つので待ちが生じると大変)の作業が多く、ひとりひとりの都合では働けない困難さがあらわれています。

自分は木造建築に関わるようになって木造によるindustrializationというテーマに興味をもってきました。建築の世界では一般的に「工業化」と訳されるケースが多いのですが、「インダストリー」ですから「産業化」でもあります。深尾精一先生には「山代さんの仕事は工業化風ではあるけど産業化にはいたっていないね」というように言われたことがあります。自分は設計のなかで部品点数を減らすこと、オフサイトで加工をすることなどは意識していますが、産業、つまりニーズから生産、使用までが自律的に動く運動体にはいたっていないという指摘だと理解しています。

一建築家として産業化を自身の目標におくべきかは迷うところですが、街の風景(ビルディング ランドスケープ)を変えてみたいという欲望をもつ人間としては取り組んでみたいテーマです。

今日学生の発表を聴きながら反芻していたのは、先輩建築家たちの「工業化建築はことごとく失敗した。商品化がせいぜいだ」という声です。一方でこれからは、安さ、早さを目指す工業化ではなく、合番ですすむ現場工事を極力減らし、屋根のある工場で多少遅れて来たり早く帰る人がいても受け入れられる体制でモジュールを生産する、働く人の多様性を受け入れるための工業化、新しい産業の創出ではないかと思いを強くしました。

宮崎駿の「紅の豚」に、戦争で男手を取られた飛行機工場で、少女から老婆まで女性たちが和気藹々と働くシーンがある。ここを観るとじーんとするのです。こういう場面を建設業のなかにも作り出せないでしょうか。

産業化。誰かやらせてくれないかな〜。

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