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クリスマスのバカヤロー

わたしは、クリスマスが嫌いだ。

ここで急いで断っておくと、これはわたし個人の感想である。普通にクリスマスを祝っている皆さまに対しては何の反感もないし、誰かに「メリークリスマス!」と言われたら、こちらもにっこり笑って「メリークリスマス!」と言い返すこともやぶさかではない。

以下の文章は、中年シングルのそねみひがみということで余り気にしないでいただきたい。

それにしても、なぜわたしはクリスマスが嫌いなのだろう?

これは、鶏が先か卵が先か論争のようなもので、わたしの今までの環境がわたしをクリスマス嫌いに仕立て上げたのかも知れない。

もちろん、子供の頃はサンタクロースを信じていて、クリスマスプレゼントも貰っていた。
ただ、ウチの家族はわりあいざっくりとした家風(というか)で、知らぬ間に「もう大きくなったんだからクリスマスプレゼントもいらないよね」という暗黙の了解が出来上がり、わたしもそれに特に不満を抱くわけでもなかった。

そしてわたしもだんだんオトナになり、大学生になった。
その頃は、クリスマスイブの日になれば街は幸せなカップルで溢れ、今と違うところはまだバブルの尻尾を引きずっていたせいか、大学生でも結構金持ちだったことだ。
そう、都市部のシティホテルやレストランは、そういうカップルであっという間に一杯になったのだ。

わたしはそういう「イケてる」大学生じゃなかったので、そういうカップルを横目で眺めて、何をしていたかというと…バイトをしていた。

当時やっていたバイトは、新幹線の車内販売員という、これまたいまいちイケてない仕事で、今はもう少し洗練されたスタッフがモノを売ってるが、当時はスタッフの大半が鉄オタで、まあ…あまりイケてない男女が多かった。

そんな我々は、「幸せタイムよりマネー!」とばかりにシフトを入れまくり、せっせと乗客にコーヒーやビールを売っていた。

学校を卒業しての就職先は、ハマ(横浜)のシティホテルだった。

そしてクリスマスイブの日がやって来る。
その日のちょっと洒落たホテルなんて、日本でおそらく一番クソ忙しい業種だっただろう。わたしはその只中に放り込まれたのである。

クリスマスイブの日にチェックインする客は、99.9999%がカップルである。
その日にたまたまビジネスで旅行しなきゃいけない人なんて、どんな気持ちで泊まっていたのだろう?

わたしはベルボーイとして働いていたので、その幸せカップルのお荷物…その中にはもちろん後で交換するであろう、きれいにラッピングされた、ブランド物のギフトバッグも含まれている…をお持ち差し上げ、ウキウキしたカップルを「それでは、お部屋までご案内いたします」とエスコートし、本来なら部屋の設備などを説明しなくてはいけないのだが、カップルからの「さっさと出てってね」という無言の圧力を受けるので、すぐに部屋の鍵を渡し、「ごゆっくりどうぞ」と部屋を退出する。
急いでロビーに戻るとまた似たような幸せカップルを部屋までご案内し…ということを延々と繰り返した。

「ご案内いたします」
「ごゆっくりどうぞ」
「ご案内いたします」
「ごゆっくりどうぞ」

…ごゆっくりどうぞ、じゃねーよ!!

と心のなかで毒付きながら。

そしてすごかったのが、翌日のチェックアウトである。

もちろん幸せカップルは、一秒だって長く部屋にとどまって「ふたり時間」を楽しみたい。チェックアウト直前まで、誰一人としてロビーに降りてきやしねえわ。

そして、チェックアウトの時間になると、フロントカウンターからロビーを横切ってエレベーターホールまで、

ずら、ずら、ずら…。

と、カップルカップルカップルが列をなすのである。

あれは、まあ、異様な光景だったなあ。

僕はそれからしばらくして海外に渡ったので、もう20年以上も日本のクリスマスを経験していないけど、今でもシティホテルでは似たような情景が広がっているのだろうか?


さて、海外(オーストラリア)に渡ると、クリスマスの様相がガラッと変わった。

とてもざっくり言うと、こちらのクリスマスは日本の元日だ。

つまり、ファミリーイベントなのだ。

クリスマスデーには、家族が集って特別なランチ(ディナー)を食べ、プレゼントを交換する。
(クリスマスイブは、こちらでは普通の日である)

なので、日本のようなクリスマスイブ=カップルのための狂想曲みたいなことは全然ないが、ここでもわたしは窮地に立たされた。

なぜならば、わたしは好むと好まざるとにかかわらず、色々あって(ない)、中年シングルであるからだ。しかも、両親兄弟は日本にいるし、現地の友達はそれぞれの家族のもとに向かっている。

「ぼっち」になってしまうのである。

幾人かの心優しい友達が「ウチのクリスマスランチにおいでよ」と誘ってくれることもあるが、こちらのクリスマスはファミリーイベントなので、ファミリー以外の部外者が混じるのはやはり気がとがめる。例えれば、日本の元旦のおせち料理を囲んでるさなかに、家族とは関係のない人が独り混ざって雑煮をすすっている…みたいな。そら不自然でしょ?
なのでなんとかかんとか理由をつけて断る事がほとんどだ。

この疎外感は、日本では味わえないもので、まあ見た目によってはけっこう悲惨である。

さいわい、わたしはホテルに勤務しているので、クリスマスの日も大概仕事に行ける。仕事に行けば、同僚もいるし、ゲストもいるしでとりあえずの「居所」を確保することができるので、その間はこの疎外感を紛らわすことができる。

それから、まあこれはわたしがへそ曲がりだから思うのだが、クリスマスのある一種の「偽善」が嫌いでもある。

なぜこの日だけみんなニコニコして、家族親戚一同にプレゼントを渡して、教会に行って…なんてことをしているわけ?
一見仲良く家族で集まっていても、実は好きで集まっているわけでもなかったり、毎年プレゼントの選択に迷ったりで、けっこうストレスフルでもあるらしい。まあそうだろうなあ。

このクリスマススピリッツとやらを少しでも普段の生活に広げたら、世の中はかなりマシになると思うのだけど…それが出来ないのかなあ。出来ないんだろうなあ…だから年に一日なんだろうけど。

…なんてことを考えてしまうわけである、ヒマだから。

ともあれ、僕も平和を願う気持ちは人並みにあるので、

メリークリスマス。