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no.4 マイクロバイオーム研究の最新論文紹介(微生物、腸内細菌の最前線)

最近、レビュー論文がめちゃくちゃ多い気がするのは私だけでしょうか…
まあ、まとめてくださるのはとてもありがたいのだけれど。

あと、栄養学の方面の人がマイクロバイオームにかなり興味を持ち始めている印象。
現代栄養学の、カロリーとか「炭水化物・脂質・タンパク質」に分ける方法とか、かなり時代遅れになってきているので、アップデートされてほしい。

ゲノム解析技術が手軽に使えるようになり、目に見えないマイクロバイオーム、腸内細菌に関する論文は、この10年あまりで指数関数的に増えています。

ここでは、PubMedで'gut microbiome' 'FMT'などのキーワードで集めた論文を定期的に紹介します。

新しい論文はまだ評価が定まっていないこともあり、鵜呑みにするのは危険な一面、研究の最前線に触れることができます。
要点だけでも、興味のある内容をぜひ読んでみてください!


レジスタントスターチと腸マイクロバイオーム:有益な相互関係と食事の影響

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2590157524000051?via%3Dihub

[Review Article]
(タイトル)Resistant starch and the gut microbiome: Exploring beneficial interactions and dietary impacts
(タイトル訳)レジスタントスターチと腸マイクロバイオーム:有益な相互関係と食事の影響
(概要)レジスタントスターチ(難消化性でんぷん)が腸マイクロバイオームを通じてどのように健康に影響するかをまとめたレビュー論文。特に、レジスタントスターチが腸でマイクロバイオームの力を借りて発酵することにより、酪酸、酢酸、プロピオン酸などの揮発性脂肪酸を作る過程に注目している。
また、レジスタントスターチを多く含む食品を摂取することにより、腸の健康やその他代謝への影響にも焦点を当てている。
(著者)Zhao Chenら
Institute of Basic Research in Clinical Medicine, China Academy of Chinese Medical Sciences, Beijing, China
(雑誌名・出版社名)Food Chemistry: X ELSEVIER
(出版日時)30 March 2024
(コメント)レジスタントスターチとひとくちに言っても、全粒粉や種に含まれるもの(タイプ1)、生の食品に含まれるもの(タイプ2)、加熱されたあとに冷めた芋やパスタに含まれるもの(タイプ3)、人工的につくられたもの(タイプ4)などがあり、それぞれについて影響を確かめる必要がある。

精神系疾患におけるプロバイオティクス、プレバイオティクス、シンバイオティクス、発酵食品のサプリメントの影響:臨床研究まとめ

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0149763424000290?via%3Dihub

[Review Article]
(タイトル)Probiotic, prebiotic, synbiotic and fermented food supplementation in psychiatric disorders: A systematic review of clinical trials
(タイトル訳)精神系疾患におけるプロバイオティクス、プレバイオティクス、シンバイオティクス、発酵食品のサプリメントの影響:臨床研究まとめ
(概要)精神系疾患と細菌を含むサプリメントは、免疫と炎症をあいだに置いて関連していると考えられている。このレビューでは、42の研究を網羅的に解析している。
多くは大うつ病性障害(n=19)だが、統合失調症、双極性障害、拒食症、ADHDなども含んでいる。
異なる研究の結果を解釈することは難しく、また大うつ病性障害以外はまだまだエビデンスが不足している。
(著者)Carlos Riberaら
Department of Psychiatry, Hospital Clínico Universitario de Valencia, Department of Psychiatry, Blasco Ibañez 17, floor 7B, 46010 Valencia, Spain
(雑誌名・出版社名)Neuroscience & Biobehavioral Reviews ELSEVIER
(出版日時)March 2024
(コメント)psychobiotics(適切な量を摂取すると、宿主生物の微生物叢に影響を与えることでメンタルヘルスの利益をもたらす可能性のある生きた細菌)なる言葉ができていることに驚き。

発酵食品:腸マイクロバイオームと脳腸相関を通じてメンタルヘルスを調節する可能性に迫る

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0149763424000307?via%3Dihub#ab0015

[Review Article]
(タイトル)Fermented foods: Harnessing their potential to modulate the microbiota-gut-brain axis for mental health
(タイトル訳)発酵食品:腸マイクロバイオームと脳腸相関を通じてメンタルヘルスを調節する可能性に迫る
(概要)多くの文献をまとめながら、発酵食品を通じてメンタルヘルスを改善する可能性を探る。現在の研究では比較試験が少ないので、長期的に発酵食品の効果を比較する研究が必須。
(著者)Ramya Balasubramanianら
APC Microbiome Ireland, University College Cork, Cork, Ireland
(雑誌名・出版社名)Neuroscience & Biobehavioral Reviews ELSEVIER
(出版日時)March 2024
(コメント)ひとつ上の研究に似ているが、こちらは食品としての発酵食品にフォーカス。

妊娠中の栄養:腸マイクロバイオームと胎児の発達への影響

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/aji.13802

[Review Article]
(タイトル)Nutrition during pregnancy: Influence on the gut microbiome and fetal development
(タイトル訳)妊娠中の栄養:腸マイクロバイオームと胎児の発達への影響
(概要)胎児期における栄養状態が長期的な本人の健康状態に大きく関連することを踏まえ、妊娠中の食事が母親の腸マイクロバイオームや代謝にどんな影響を及ぼすのかレビューしている。
(著者)Gabriela Barrientosら
Laboratory of Experimental Medicine, Hospital Alemán, Buenos Aires, Argentina
(雑誌名・出版社名)AJRI(willy online library)
(出版日時)11 December 2023
(コメント)
下記note記事も参考に
全プレママ&パパに届けたい、妊娠・出産とマイクロバイオーム全まとめ(腸内細菌、膣細菌を中心に)

要約中の"Developmental Origins of Health and Disease Hypothesis"について
「健康と病気の発生起源説」(Developmental Origins of Health and Disease: DOHaD説)は、発育中の胎児や新生児(生後28日まで)・乳児(生後1年未満)が低栄養に曝された場合、それが成人期の健康および病気に罹りやすい体質形成に影響するという概念です。

鉄欠乏性貧血による腸マイクロバイオームと腸壁への影響を包括的に検討する

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2319417024000040?via%3Dihub#abs0010

[Regular Article]
(タイトル)Comprehensive insight into the alterations in the gut microbiome and the intestinal barrier as a consequence of iron deficiency anaemia
(タイトル訳)鉄欠乏性貧血による腸マイクロバイオームと腸壁への影響を包括的に検討する
(概要)鉄欠乏性貧血(IDA)の腸マイクロバイオーム、腸壁への影響を包括的に分析した初めての研究。IDAモデルのラットを使い、IDAが腸内細菌におけるクロストリジウム種を増やすことや、腸壁をもろくすることを見出した。
また、血中LPSの増加や免疫亢進が見られた。
IDA治療中に腸マイクロバイオームの不均衡や腸壁の回復を考慮する必要があることを示唆。
(著者)Ana Soriano-Lermaら
Department of Physiology (Faculty of Pharmacy, Campus Universitario de Cartuja), Institute of Nutrition and Food Technology “José Mataix Verdú”, University of Granada, E-18071, Granada, Spain
(雑誌名・出版社名)Biomedical Journal
(出版日時)26 January 2024
(コメント)様々な角度から数値を測定していて、お金かかってる。

【FMT(糞便微生物移植)】

パーキンソン病、便秘、微生物、微生物治療の関係

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10835526/

[Review Article]
(タイトル)Relationship among Parkinson’s disease, constipation, microbes, and microbiological therapy
(タイトル訳)パーキンソン病、便秘、微生物、微生物治療の関係
(概要)パーキンソン病の患者における便秘には、プロテオバクテリア門やバクテロイデーテス門の増加が報告されている。このレビューでは、プレバイオティクス、プロバイオティクス、FMTなどの微生物学的なアプローチの可能性が検討されている。
(著者)Xin-Yang Yuanら
Department of Neurology, Affiliated Hospital of Guangdong Medical University, Zhanjiang 524000, Guangdong Province, China
(雑誌名・出版社名)World J Gastroenterol
(出版日時)2024 Jan 21

肝性脳症治療におけるFMTの役割:最新の動向と今後の方向性

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10835490/

[Review Article]
(タイトル)Role of fecal microbiota transplant in management of hepatic encephalopathy: Current trends and future directions
(タイトル訳)肝性脳症治療におけるFMTの役割:最新の動向と今後の方向性
(概要)肝性脳症に対するFMTの現在までの研究や方法、安全性などをレビューしている。肝性脳症の原因には、アンモニア中毒や脳腸通信の阻害、炎症などが関連しているが、FMTがこれらの要因にアプローチできる可能性がある。FMTは他にも、アルコール性、B型・C型肝炎性、非アルコール性の脂肪肝へ効果を示しており、肝機能の改善や認知機能向上に役立っている。
さらに、肝性脳症においてFMT群は標準治療に比べて有害事象が少なく、認知の向上が見られている点で有望である。ただし、まだまだ課題も多く、より大規模な試験が求められる。
(著者)Yash R Shah
Department of Internal Medicine, Trinity Health Oakland/Wayne State University, Pontiac, MI 48341, United States
(雑誌名・出版社名)World J Hepatology
(出版日時)2024 Jan 27

Ⅱ型糖尿病への腸をターゲットとした治療:レビュー

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10824172/

[Review Article]
(タイトル)Gut-targeted therapies for type 2 diabetes mellitus: A review
(タイトル訳)Ⅱ型糖尿病への腸をターゲットとした治療:レビュー
(概要)増加するⅡ型糖尿病へのアプローチを、プロバイオティクス、FMT、電気療法(NIH SPARC program)の3つの方法からレビューしている。
特に電気療法は、末梢神経と臓器を活性化するために電気刺激を用い、グルコース代謝に重要な迷走神経の活性化を目指している。
(著者)Tian-Cheng Xuら
Key Laboratory of Acupuncture and Medicine Research of Ministry of Education, Nanjing University of Chinese Medicine, Nanjing 210023, Jiangsu Province, China
(雑誌名・出版社名)World Journal of Clinical Cases
(出版日時)2024 Jan 6
(コメント)NIH SPARC programとは、電気刺激を用いてさまざまな疾患治療を目指すアメリカ国立衛生研究所のプログラム。https://commonfund.nih.gov/sparc

FMTは、腸内細菌由来のLPSを減らすことで、酸化ストレスとパイロトーシスによって引き起こされる腸炎症性の下痢を緩和する。

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0141813024004999?via%3Dihub

[Regular Article]
(タイトル)Fecal microbiota transplantation alleviates intestinal inflammatory diarrhea caused by oxidative stress and pyroptosis via reducing gut microbiota-derived lipopolysaccharides
(タイトル訳)FMTは、腸内細菌由来のLPSを減らすことで、酸化ストレスとパイロトーシスによって引き起こされる腸炎症性の下痢を緩和する。
※パイロトーシスとは、炎症反応に伴う細胞溶解の一種
(概要)早期離乳によるストレスで下痢を引き起こした子豚にFMTを実施。
FMTはディスバイオシスによるLPSレベルを下げ、酸化ストレスも低下させた。
さらに、腸の炎症やパイロトーシスも緩和した。
(著者)Mengqi Liuら
College of Animal Science and Technology, Henan Agricultural University, Zhengzhou, China
(雑誌名・出版社名)International Journal of Biological Macromolecules(ELSEVIER)
(出版日時)March 2024
(コメント)乳児の下痢に対する試験は倫理上実施しにくいので、ヒトに近い哺乳類を使った試験は有効。

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