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[書評] プロフェッショナルは「ストーリー」で伝える -2/6-

THE STORY FACTOR(2/6)

前回に引き続き、ビジネス書籍の プロフェッショナルは「ストーリー」で伝える を紹介していきます。

ストーリーを語るべき10のケース

自分を血の通った人間として見せたいとき
ワナの質問を切り抜けるとき
近視眼的な思考から抜け出させるとき
間接的に伝えたいとき
自分の頭で考えさせたいとき
言葉の「実演販売」をおこなう
目上の人の間違いを指摘したいとき
指図や命令をせずに要望を伝えたいとき
ノーの理由を伝えたいとき
場の雰囲気を変えたいとき

ストーリーを語るべき実践的なシチュエーションについて、上記10個のケースが紹介されています。

・自分を血の通った人間として見せたいとき
これを実践している優秀なストーリーテラーは多いです。カリスマ的とも言える経営者が、これまであまり明かされることのなかった自身の生い立ちや苦労談、人間として抱いている繊細な感情などを語ったことで、それを聞いた社員の全員が「この人も私たちと同じ苦労をしてきた一人の人間なんだ」と再認識し、共感を得ていた場面を私も体験したことがあります。この人間同士が共感できる良質なストーリーを語ることは信頼関係を築く上ではとても重要です。

・近視眼的な思考から抜け出させるとき
例えば、様々な地球環境の課題も近視眼的思考の集積から発生したものなので、この思考は人間の特性として無くせるものではないことは明らかです。近視眼的思考を止めさせるという発想で、コミュニケーションをしてしまうとほぼ失敗すると思います。近視眼的な性質そのものに手を出さずに、別の近視眼的な事物に置き換えることが有効だと思います。例えば、未来の改善という時間的に遠いものを、自分や身内のためというように真理的距離が近いものに置き換えるストーリーを語るのもひとつの案です。あるいは時間的に遠い事象の近くまで相手の想像力が到達するための、手伝いをするようなストーリーが有効です。

・間接的に伝えたいとき
・自分の頭で考えさせたいとき
・指図や命令をせずに要望を伝えたいとき
・目上の人の間違いを指摘したいとき


これらの本質的な部分は全て共通していると思います。一方的で直接的な表現ではなく、それと対極なアプローチが必要となる点が主な共通点です。しかし、ただ間接的な表現をすれば良いというものではありません。相手の興味のある事物に置き換えて伝えたり、相手の価値観に合わせて伝えたりすることが有効です。そのためには日頃から伝える人の観察を怠らないことも重要になります。また、間接的な伝え方を間違えてしまうと、「できる人と同じことを何故やらないのか」と言ったような表現になってしまい、信頼関係をより悪化させるようなストーリーになってしまうので注意が必要です。

【ストーリー】弓名人の秘密

誰かを動かすテクニックを学ぼうとする人が、決まって尋ねる問いは「どうすれば、みんなが私の話を聞くように”させられる”のでしょうか」だ。
話を聞くように誘い、動機づけ、おだて、刺激し、引き込むことはできても、誰かに話を「聞くようにさせる」ことはできない。その事実をまず受け入れることが重要だ。そうすれば、できることに集中して取り組めるようになる。

話を聞くように"させられる"という発想をしてしまう時点で、相手との距離を埋める機会を逃してしまうと思います。話を聞く主体は相手側にあるので、そもそも話し手がコントロールできるものではないからです。聞き手の体調や気分などのコンディションによっても左右されるので、その都度、状況に応じて話を"聞いてもらえる"ように努力することが必要になります。また、一度で聞いてもらえなくても腹を立てない根気も必要になるでしょう。仮に聞いてもらえたとしても、時間が経てばせっかく伝えたことを忘れられてしまうこともよくあります。伝えた側も伝えたことを忘れてしまうことがありますから、この点はお互い様だとも言えます。ストーリーテラーは相手との長い付き合い方を前提とした根気と寛容さが必要です。

表情

自分が目標達成に悲観的なときは、ほかの人たちを目標達成に向けて動かすストーリーなど語らないほうがいい。まず、自分のために、心から前向きになれて、やる気満々になれるストーリーを紡ぎ出すほうが先だ。自分自身を説得できずに、ほかの人を説得することなどできない。

「自分自身の説得」は、良いストーリーを語る上で最も重要な部分かもしれません。自分自身が腹落ちしていないことを、どれだけ論理的に説明したところで相手に響くことはありません。伝えるときの冴えない表情や言葉の不適切な選択という形で知らず知らずのうちに表れて、ネガティブな雰囲気が必ず相手に伝わってしまいます。まずは自分自身を嘘偽りなく腹落ちできるまで説得・納得させることが大事です。また、その説得過程において、ネガティブな状態からポジティブな状態に移行したときに自分自身に起きたきっかけを覚えておけば、相手に伝えるときにも役に立つと思います。

疑似体験

人を動かすうえで重要なのは、自分が「なにをするか」より、「どういう人物か」だ。大半の人はなにかをしたがる。有益な活動をしていると思って安心したいのはわかるが、へたに行動をすると、かえって人を動かすチャンスを台無しにしてしまう。早まって行動したり、強引にふるまったりして失敗する。

相手が思い通りに動いてくれないときに、新しい説得の仕方で何度もしつこく説明してしまうことがあります。親が子供に「勉強しなさい」「あなたのため」と言った分だけ、逆効果になるのもこのパターンです。一方で、同じ言葉を子供が尊敬・信頼する他の誰かに言われると、たった一回で効果を発揮したりします。
会社組織においても、話を聞いてもらえる人と、話を聞いてもらえない人がいます。聴き手側は常に、ときには自分の仕事を止めてでも意識を集中して聴く価値があるかを判断しています。
「聴く価値があることを話してくれる人物かどうか」は、「事実を話す人物かどうか」とイコールではありません。後者であれば初めて出会った人でも高確率で説得することができるはずですが、そんなことはまずありません。「聴く価値があることを話してくれる人物かどうか」は、「信頼関係が築けている人物かどうか」とイコールです。これが、人を動かすうえで最も重要です。

声のトーン

最も重要なのは、どういう声のトーンで話すかによって、聞き手をどれだけ動かせるかが大きく変わるという点だ。
声のトーンを操作しようと務めるのではなく、自分の感情を改善することが大切だ。感情がいいほうに変われば、声のトーンはおのずとついて来る。前向きで明るい声のトーンを取り繕おうとするのは得策でない。ほぼ間違いなく、聞き手には嘘臭さしか伝わらない。

人を動かしたいときに必要以上に丁寧に依頼したり、声のトーンを取り繕って話す人を良く見かけます。優しく丁寧に説明するのは悪いことではないのですが、それは人を動かすための本質ではありません。話す側自身の感情が本当にお願いしたいという、真摯で謙虚な気持ちになっているかどうかが重要です。この感情さえ持っていれば、相手のコンディションを慮る余裕が生まれ、画一的な依頼の仕方に終始して相手に伝えきれないということが格段に減ります。説得の技術論に頼りすぎると、その場では上手く交渉できても、後になってから不信や不満を持たれることにも繋がります。

ストーリーと催眠術とトランス状態

相手をリラックスさせ、こちらのはたらきかけに反応しやすい状態にする必要がある。あなたがなにかを命令したり、相手の考え方を変えさせたりしようと思っているわけではなく、ただストーリーを聞かせたいだけなのだとわかれば、相手はその瞬間から身構えることをやめ、リラックスして心を開くはずだ。

相手をリラックスさせることは重要です。日頃から相手とのコミュニケーションが良好であれば、相手をリラックスさせる時間は必要ありません。話し始めた最初の段階でお互いリラックスしているからです。一方で、日頃からコミュニケーションが良好でない、あるいは初対面に近い状態から始まるときには、慌てずにリラックスする状態を作りあげることから始めるべきです。場合によっては、最初は相手を動かす所まで到達できなくても良いと思います。「信頼関係」という土壌を多少時間をかけてでも築いておくことによって、聴き手側に色々な話を聴いてもらいやすくなります。


ー この書評は、次回(3/6)に続きます ー

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