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[書評] プロフェッショナルは「ストーリー」で伝える -5/6-

THE STORY FACTOR(5/6)

前回に引き続き、ビジネス書籍の プロフェッショナルは「ストーリー」で伝える を紹介していきます。

日々、おこなうべきこと

言語化できる理論や方法論だけ学んでも、学習は上っ面のレベルにとどまる。本当に人を動かすためには、もっと深い知恵が必要だ。ピンチに立たされたとき、理屈先行の理論や法則は思い出すまでに時間がかかる。そのうえ目の前の状況に当てはめるのに苦労するので、あまり役に立たない。ピンチのときに必要なのは、瞬時に自分の行動を決められる知恵だ。感情の脳の奥底に蓄えたそういう深い知恵は、日々の行動を通じてしか学べない。

マニュアルから学んだテクニック重視のストーリーの語り方だけでは、相手の感情の深層に届くストーリーを語る事はできません。また、ストーリーテラーは必ずしも話が上手になる必要はありません。正しいことを伝えようとするあまりに、難しい理屈を理路整然と丁寧に説明することは逆効果になります。「論理的な説明」や「論破」といったものは、ストーリーテラーには一番不要なものだと思います。このような知識やテクニックを日々学ぶのではなく、常に自分以外の人や事象に気を配り、興味を持ち続けることが重要です。ストーリーテラー自身が本音で興味を持っていることであれば、より深い知識を獲得しようとするので必然的に人に説明できるだけの知恵が付くことになります。表面だけ興味を持っている振りでは絶対に誤魔化すことができませんので、日々色々なことに興味を持つことが大切です。

いちばん好きなトレーニング方法は、笑わない人を微笑ませるというものだ。これを試みることで、ストーリーを語る技能とストーリーを探す技能の両方を同時に磨ける。

これは非常に興味深い試みだと思います。常に相手に興味を持ち、相手が何に対して喜怒哀楽を感じるのかを知るとその人を笑わせることができます。一方で、人間は相手の事を良く知れば知るほど、自分の価値観と大きく異なる性質を見つけた時に距離を置いたり排除したりしたくなるものです。自分自身のストレスを感じてまで距離を縮める努力をする必要はありませんが、色々な考え方の人がいることと多様性を受け入れる心構えをしておくことで、良いストーリーテラーに近づくことができます。

ストーリーを見出すための7つのテクニック

1 パターンを探す
2 因果関係を探す
3 教訓を探す
4 有益なものを探す
5 自分の心を揺さぶるものを探す
6 未来の筋書きを探す
7 ストーリーに関する記憶を探す

これは、ストーリーの種を探すときに自分自身の経験・記憶から検索するキーワードの7つと言い換えてもよいと思います。
1~5のように、自分自身の喜怒哀楽に繋がる出来事や思考パターンから、ストーリーを形成することができます。学生時代の友人関係、イベント、部活動、就職活動から社会人になった後の上司・先輩との付き合い、初めて担当した仕事、感じた達成感やストレスなど、印象に残っている出来事であれば何でもストーリーの種(ネタ)になります。
3のように、自分自身が体験した教訓はもちろん、誰もが知っている歴史や絵本の物語といった一般的な教訓からもストーリーを構成することができます。特に自分自身の失敗談に基づくストーリーは、聴き手に心理的な優位性を持たせることができるので聴いてもらいやすい話題になることが多いです。
7のように、他者が語ったストーリーの中から自分が感銘を受けた部分をベースに構築することもできます。
ここで気を付けておきたいポイントがあります。これらの例はあくまで種(ネタ)であり、聴き手にとって興味を持てる花(ストーリー)をしっかりイメージしてどの種を使うかを選ぶことです。場面によっては、複数の種を使って花束(複数のストーリーの組み合わせ)を構成する必要があるかもしれません。どんな素晴らしい種であっても、花を受け取る相手(つまりストーリーの聴き手)の、好みや性格をしっかり把握してストーリーを提示することが何よりも重要です。

金の卵を産むガチョウを殺さない

結果ばかり求める姿勢や、明快さを重視する姿勢は、私たちの行動パターンとして染みついている。その是非が深く検討されることはあまりないが、早い段階から常にそういう態度でものごとに臨んでいると、質の高いストーリーの芽を摘む恐れがある。
優れたストーリーには、曖昧さが欠かせない。明快さを追及しすぎると、現実を過度に単純化してしまう。

ストーリーを完成させてから話すことを重要視し過ぎないということが大事です。また、ストーリーを決めすぎて変化の余地や柔軟性が無いのも良くありません。ストーリーは話し手だけのものではなく、聴き手と一緒に作りながら完成させるものだということを肝に銘じておくと良いと思います。話し手と聴き手で完成させる感覚を持っておくと、ストーリーに柔軟性と一体感が生まれます。

起きたことをありのままに話す

ストーリーを語るという行為は、その人が誠実に生きているかどうかを映し出す。ビジョンや価値観どおりに生きていなければ、どんなにきれいな言葉で飾ってもごまかせない。ストーリーを語るようになれば、自分の価値観に忠実に生きようという意欲がわき、また、そういう生き方をすることの大切さを再認識できるのだ。

ストーリーを語り続けることは、話し手自身の人格を形成するのに役立ちます。ストーリーは口から出た言葉だけではなく、ストーリーを語る前後の行動によって形成されます。その場しのぎのストーリでは語る度に矛盾が積み重なってしまうことになるので、ストーリーを語る上での自分自身の行動規範や信念が重要になります。逆に言えば、自分自身の行動規範や信念・価値観が明確であればあるほどストーリーの説得力が格段に増します。

クリティカル・シンキングを抜け出す技能

ほとんどの人は、主に客観的なクリティカル・シンキングでものを考えている。クリティカル・シンキングからストーリー・シンキングへ移行するためには、客観的な視点(=外から内を見る)と主観的な視点(=内から外を見る)を素早く切り替えられなくてはならない。

クリティカル・シンキングは自分自身の行動を振り返って反省するときは有効ですが、ストーリーを語るときに重視し過ぎると有害になります。いわゆる「あるべき論」を語ってしまう例がこれにあたります。あるべき論はその名の通り正しいことを言っているのですが、聴き手にとっては批判に聞こえてしまったり、逃げ場を失わせてしまう行為になります。当然ながらこのような話し手は心理的な距離を置かれてしまうことになります。話し手と聞き手でストーリーを共創するバランスを考えるとき、大体の目安は以下の比率を意識すると良いです。

話し手の主観:話し手の客観:聞き手の主観:聞き手の客観
= 3:1:3:3

まず、全体のバランスとして話し手が伝えたい内容を4割、聞き手が興味を持つであろう内容を6割にします。この割合はあくまで目安ですが、大事なのは自分よりも相手を中心にストーリーを組み立てる比率であることです。さらに話し手目線の(べき論と言い換えてもよい)客観性は、0にしてはいけませんが、やや少ない割合にします。一方で、聞き手目線の客観性は大事な要素になります。聞き手の主観的な視点と客観的な視点は、相手との信頼関係が築けるだけの距離を縮めておくことで、ある程度は類推をすることができます。沢山の聞き手とコミュニケーションを取り続けることで、自然にこの比率で話せる様になります。

ー この書評は、次回(6/6)に続きます ー



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