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[書評] プロフェッショナルは「ストーリー」で伝える -1/6-

THE STORY FACTOR(1/6)

ビジネス書籍の プロフェッショナルは「ストーリー」で伝える を紹介します。洋書のタイトルは「THE STORY FACTOR」です。本編に掲載されている内容を全て読み終わると、英語のタイトルの方が適切であるように思います。
本書は、あらゆる人を相手に話すときにどのようにすれば伝わるかというポイントを多数の実例を交えて解説しています。ビジネスシーンにおける社内・社外の説明や交渉で活用できる参考書としてはもちろん、私生活における家族や友人と話す場面でも参考になる内容が多数掲載されています。本書を要約した解説サイトは既にいくつかある様なので、この書評では私が重要だと感じた箇所を中心に、私自身が解釈・咀嚼した補足情報を交えながら全6回に分けて紹介していきます。

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人を動かしたいときに役立つのは次の6つのストーリー

1 「私は何者か」というストーリー
2 「私はなぜこの場にいるのか」というストーリー
3 ビジョンを伝えるストーリー
4 スキルを教えるストーリー
5 価値観を具体化するストーリー
6 「あなたの言いたいことはわかっている」というストーリー

本書の序盤で6つの重要ストーリーが列記されており、これらは非常に共感できます。
1,2は初対面での会話を成立させる上で特に重要です。会話の始まりに当たり障りのない天気の話をすることは誰でも思いつくアイスブレイクですが、これではストーリーとしては不十分です。ストーリーによって「相手の警戒を解く自己紹介」をすることを目的とした場合、相手の立場を理解して相手が知りたい情報を含んで語ることが必要です。
3は、自分の信念・一貫性が最も如実に表れるストーリーだと思います。どれだけ本気で相手に自分のビジョンを伝えたいかによって、相手が聴く体制になるかどうかが大きく左右されます。
4は、人に何かを教える際に必要なストーリーです。誰もが部下・後輩、ときには自分の子供に何かを教える機会があると思いますが、このストーリーの重要性を理解していないと、同じことを何度も教える事になったり、何度教えても相手が教えた通りの行動を取ってくれなかったりします。
5,6は、利害関係の一致しない折衝を伴うコミュニケーションのスキルに直結するストーリーです。利害関係が一致しないことを「わかっていて」、相手の警戒している点を「わかっている」こと、さらに「わかっている」ということを相手に正しく伝えるストーリーが必要です。その上で、自分と相手の双方の価値観を具体的に伝え、お互いに理解し合うことが必要です。
この6つのストーリーを語る能力は、どれか一つが備わっていればよいわけではなく、相互に影響し合って強まり合うものです。故に、良いストーリテラーは6つのストーリーを語れる全てのスキルを備えているように思います。

「あなたの言いたいことはわかっている」の伝え方

相手が言いそうな反論を先回りして述べれば、相手の警戒は格段にゆるくなる。この方法を用いれば、相手が反論を述べて引っ込みがつかなくなるのも防げる。あなたがそれに言及してくれたことに、感謝の念さえいだくかもしれない

6つの重要ストーリーの最後に記載された「あなたの言いたいことはわかっている」というストーリーについて、効果的で具体的な手段について上記の通り記載されています。相手の不満要素を代弁して語ることは非常に効果的ですし、相手から仲間意識を持ってもらうことができます。但し、この「わかっている」ということは、本当に相手の立場に立って「わかって」いないと成立せず、「わかっていない」状態で話した場合には逆に信頼を失ってしまうことがあるので注意が必要です。

なぜ、客観的データで説得できないのか?

論理思考を好む優秀な人がなぜ人を説得できないのか、その理由について解説されています。客観的データや統計に基づいて説明することは最も納得感があるように思えますが、人の感情はそれほど単純ではありません。自分や大切な人が手術を受けるかどうかの判断をするときに、確率論で90%ほぼ成功するが10%は死亡すると言われたときに、その客観的データだけで手術を受けることを即決できる人は少ないはずです。

ご褒美や、取引、賄賂、美辞麗句、強制、策略など、人を動かすことを目的とする手段は、ストーリーのほかにもたくさんあるが、これらはことごとく、目的とぴったり結びつきすぎている。そのため、相手の自由を奪い、抵抗を招く場合が多い。

また、上記の引用にもある通り、人を説得して動いてもらうときに直接的なベネフィット(利益・便益)を表に出しすぎることも良くありません。そもそもベネフィットと思うかどうかは相手が決めることですし、直接的なベネフィットに飛びつくような軽薄な感情で動く人は殆どいません。

【ストーリー】説教をしなかった男

人々が誤った判断をくだす原因の多くは、すべての事実を知らないからではない。本当の原因は、事実を無視したり、事実を理解しなかったり、事実を十分に重んじなかったりすることにある。
人は、不安、欲望、憤慨、不寛容、無関心、恐怖などの感情によって、お手軽な道や、最も抵抗が少ない道や、無難な道を選び、自分の利益だけを考えて行動してしまう。

正しい事実や行動規範を伝えても、伝えた通りに事実を受け入れて行動してもらえなかった経験は誰にでもあると思います。多くの場合、相手が正しい事実を受け入れるためには幾つかのハードルが存在することが多いです。そのハードルとは、伝える側との信頼関係だったり、伝えられる側の興味がそもそも無い場合などケースバイケースで存在します。このハードルを越える方法は色々あります。例えば、相手がそのハードルに気付くように促したり、こちらからハードルを取り除く姿を見せたり、相手が自分でそのハードルを越えてくるまで根気よく待ち続けることが必要になります。

人間は合理的に考えない

ストーリーを重んじる人たちは、「人間は合理的でない」という認識を土台に行動する。人を動かすのは感情だとわかっているので、まず感情を動かしてからデータ(事実)を示す。
感情のようなデータ化できない要素を非合理とみなし、理性だけで意思決定を行うと、他の人の感情を傷つけ悲惨な結果を生むことも多い。

論理思考を好む優秀な人が、なぜ人を説得できないのか、その理由の一つに「人間が合理的でないこと」を正しく理解して、事前に対処ができていないことがあります。合理的な判断のための客観的データを見せるのは、それほど重要ではないですし、手間も労力もあまりかかりません。重要なのは合理的な理解をするための受け皿を一緒に作ることです。受け皿を準備する努力を怠ったままで、合理的な情報を注いでも全てこぼれ落ちてしまい、時には伝える前の状態より関係が悪化してしまうこともあります。私はこの受け皿をかたち作る最も重要な要素は「信頼関係」だと思っています。

ー この書評は、次回(2/6)に続きます ー


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