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スタートアップを支援する税制とは?知っておきたいポイントを解説

はじめに

こんにちは。SYNCA合同会計事務所  税理士の細見です。

 本記事では、スタートアップを支援する税制について詳しく解説します。起業家や経理の方、投資家、そしてスタートアップの税制に興味がある方々を対象に、読んでいただくことを想定しています。

 記事を通じて、スタートアップについての基本的な理解や現在の日本のスタートアップ環境の課題、さらにはスタートアップを支援する優遇税制の概要を把握することができます。

 税制に詳しくなくても、この記事を読むことでスタートアップに関する知識を深めることができるので、是非ご一読ください!



◆この記事を読んでほしい人

・スタートアップで活躍されている起業家、経理の方
・投資家
・スタートアップの税制に興味がある方

◆この記事を読んでわかること

・スタートアップについて
・日本のスタートアップ環境に関する現状と課題
・スタートアップを支援するために整備された優遇税制の概要

スタートアップとは?

 スタートアップとは、新しいアイデアやビジネスを持った企業のことです。アメリカで生まれた言葉で、日本でもよく使われるようになりました。一般的には、起業や新しい事業を始めることを指しますが、特に革新的なアイデアを持ち、短期間で急成長することを目指す企業を指します。
有名なスタートアップには、GoogleやAmazon、Facebookなどがあります。

日本のスタートアップの世界的な位置づけ

 日本のスタートアップは、世界的に見て比較的活発な活動をしていますが、アメリカのシリコンバレーなど他の国や地域と比べると、まだまだ規模や影響力では劣る部分があります。

 ただし、日本のスタートアップは独自の技術やサービスを提供する企業が多く、特にロボティクス、人工知能などの分野で注目を集めています。日本のスタートアップが直面している課題としては、資金調達の面や、従来の大企業との連携や競争が挙げられます。

 資金調達においては、アメリカなどの一部の国や地域に比べてベンチャーキャピタルや投資家の支援が十分でないことが課題となっています。また、日本の大企業は比較的閉鎖的な傾向があり、スタートアップとの連携や競争が難しいという面もあります。

スタートアップを支援する税制

 こうした状況を受け、日本ではスタートアップを応援する税制が整備されています。これらの税制では、スタートアップに投資した個人投資家及びスタートアップ企業に対して税制上の優遇措置が行われ、スタートアップの資金調達を促進しています。

1.エンジェル税制

制度の概要
エンジェル税制とは、ベンチャー企業への投資を促進するためにベンチャー企業へ投資を行った個人投資家に対して税制上の優遇措置を行う制度です。ベンチャー企業に対して、個人投資家が投資を行った場合、投資時点と、売却時点のいずれの時点でも税制上の優遇措置を受けることができます。

出典:中小企業庁(https://x.gd/x5A88)
出典:中小企業庁(https://x.gd/ZZrIQ)

知っておきたいポイント

  • 個人投資家がベンチャー企業の要件と投資家の要件を満たす必要あり

  • 2021年4月1日以前と要件が異なるので注意が必要

  • 令和2年度税制改正の主な変更点は以下の3つ

1.ベンチャー企業要件の緩和:
個人がベンチャー企業に投資する際の要件が緩和され、設立後5年未満の企業も優遇措置Aを利用できるようになりました。
2.申請書類の削減:
ベンチャー企業が都道府県に提出する申請書類が削減され、定款、事業報告書、組織図、法人税確定申告書別表二の提出が原則不要となります。
3.認定制度の拡充:
経済産業大臣認定制度が拡充され、新たに株式投資型クラウドファンディング事業者(少額電子募集取扱業者)が認定されました。また、認定事業者は優遇措置Aについて確認書を発行できるようになりました。

まとめ

 エンジェル税制は、個人投資家にとってもスタートアップ企業にとっても利点がある制度です。個人投資家が税制上の特典を享受しながらスタートアップ企業に投資できるようになることで、スタートアップ企業が資金を調達する機会が増えます。
 
 ただし、手続きが煩雑になるため、メリットとデメリットを理解して利用することが重要です。投資にはリスクが伴うため、投資家はリスクを理解した上で行う必要があります。

2.オープンイノベーション促進税制

制度の概要
スタートアップ企業とのオープンイノベーションに向け、国内の事業会社またはその国内CVCが、スタートアップ企業の新規発行株式を一定額以上取得する場合、その株式の取得価額の25%を所得控除することができます。
また、令和5年度税制改正により、2023年4月1日以降にスタートアップ企業の成長に資するM&A(議決権の過半数の取得)を行った場合、その取得した発行済株式についても税制の対象とすることとしました。

出典:経済産業省(https://x.gd/SqIcz

知っておきたいポイント

  • 株式取得だけでなく双方の事業展開が重要

  • 投資により事業会社とスタートアップの両方にビジネス上の利点が生まれ新しい事業を生み出したり課題を解決することで成長が期待

  • オープンイノベーション要件は以下の3点(新規出資型の場合)

・対象法人が、高い生産性が見込まれる事業または新たな事業の開拓を目指した事業活動を行うこと
・当該事業活動において活用するスタートアップ企業の経営資源が、対象法人にとって不足するもの、かつ革新的なものであること
・当該事業活動において活用するスタートアップ企業の経営資源
が、対象法人にとって不足するもの、かつ革新的なものであること

出典:経済産業省 新規出資型申請ガイドライン(https://x.gd/Mx5HO

具体的な要件は、右上のリンクをクリックして申請ガイドラインをご確認ください。

まとめ

 オープンイノベーション促進税制は、出資法人とスタートアップ企業の協力による生産性向上や新規事業開拓を支援する税制です。

 出資した株式の取得額に対して所得控除を認める異例の措置であり、税制改正で対象となる株式が広がり、活用を検討する企業が増える可能性があります。

3.ストックオプション税制(税制適格ストック・オプション)

制度の概要
ストックオプション税制は、権利行使時の取得株式の時価と権利行使価格との差額に対する給与所得課税を株式売却時まで繰り延べ、株式売却時に売却価格と権利行使価格との差額を譲渡益課税とする制度です。通常は、無償ストックオプションを行使すると、現金としての利益を得ていない時期に給与所得課税が発生しますが、本税制の要件を満たすストックオプション(税制適格ストックオプション)を活用すれば、ストックオプションの行使時の給与所得課税は行われず、株式売却時のみの譲渡益課税となります。

知っておきたいポイント

  • 税制非適格ストック・オプションと異なり課税のタイミングが異なる

  • 税制非適格ストック・オプションでは権利を行使(株式を購入)した時点と持っていた株式を譲渡(売却)した時点の2度課税が対象となる(株式を購入した時に最大55%の税率、株式を売却した時には20%の税率)

  • 税制適格ストック・オプションでは株式を譲渡した場合のみ課税される仕組み

  • 税制適格ストック・オプションのメリットは税金が二重で発生しないだけでなく税率が低い

権利行使期間の延長(令和5年度税制改正)
これまで、税制適格ストックオプションの要件として、「付与決議日後2年を経過した日から10年を経過する日まで」の権利行使が必要でしたが、令和5年度税制改正において、設立から5年未満の未上場企業においては、権利行使期間を「付与決議日後2年後を経過した日から15年を経過する日まで」へと延長しました。

出典:経済産業省(https://x.gd/8S8zX

まとめ

 税制非適格ストック・オプションは、購入価格の半分以上が税金として徴収されることになります。これに対して税制適格ストック・オプションでは、売却時に20%の税率が一律で適用されるのみです。
 この違いは、税法上の所得の性格によるものです。税制非適格ストック・オプションの場合、株式を購入した時の所得は給与と同様に扱われ、最大55%の税率が適用されます。一方、売却時の所得は他の所得とは別に計算され、20%の一律税率が適用されます。 
 ストックオプション税制は、従業員のモチベーション向上や企業業績の改善に貢献します。将来成長が見込まれる企業や新規上場を計画している企業にとっては、導入する利点が大きいです。
 従業員の税金負担を考えると、税制適格ストックオプションが好ましいですが、要件が多く設けられているため、準備には手間と時間がかかります。

4.研究開発税制

制度の概要
研究開発税制とは、企業が研究開発を行っている場合に、法人税額から、試験研究費の額に税額控除割合(1%~14%)を乗じた金額を控除できる制度です。ただし、法人税額に対する控除上限があります(一般型と呼ばれる本体部分は、法人税額の原則25%)。
民間企業の研究開発投資を維持・拡大することにより、イノベーション創出に繋がる中長期・革新的な研究開発等を促し、我が国の成長力・国際競争力を強化することを目的としています。

出典:経済産業省(https://x.gd/yahwj

知っておきたいポイント

  • 試験研究費は、製品や技術の開発にかかる費用を指し、具体的には原材料費や人件費、その他の経費が該当

  • 外部からの資金提供を受けている金額は試験研究費には含まれない

  • 人文・社会科学関連の研究は試験研究費の対象外

  • 税制上、試験研究費は般試験研究費と特別試験研究費に分類され、それぞれ異なる税額控除制度が適用

  • 共同研究、委託研究の対象となる研究開発型ベンチャー企業の定義が令和5年度税制改正で以下の通り変更

<改正前>
①産業競争力強化法により経済産業大臣が認定したベンチャーファンドから出資を受けたベンチャー企業
②研究開発法人・大学発ベンチャー企業で一定の要件を満たすもの
A)認定国立大学ファンドまたは研究開発法人が出資
B)役員が研究開発法人・大学等の職を有している


<改正後>
①未上場の株式会社(他の会社の子会社ではない)
②設立15年未満(10年以上の場合は営業赤字であること)
③売上高研究開発費比率10%以上
④ベンチャーファンド(注)又は研究開発法人の出資先
※上記を全て満たすスタートアップ企業に対して、経済産業省より証明書を発行する。
(注)ベンチャーファンド:スタートアップに対する投資を目的とする投資事業有限責任組合 

出典:財務省(https://x.gd/HMEsT)

まとめ

 新たな税制改正により、オープンイノベーション型の「研究開発型スタートアップ企業」の範囲が広がりました。
 従来は新たなビッグデータの収集が必要でしたが、今後は既存のデータを活用する場合も対象となり、より多くのスタートアップ企業がこの税制を利用できるようになります。

最後に

 最近では政府や地方自治体の支援策が強化され、日本のスタートアップの活動が活発化しています。
 今後も政府による税制面の支援や、上記のような税制をうまく活用することでスタートアップ企業が成長できることを期待しています。