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制服の功罪 介護施設の課題 Ⅲ-4


1.制服の効能

 多くの介護施設で職員はユニフォーム・制服(以下「制服」という。)を着用しています。制服とは、ある集団に属する人が着るように定められた服装で着用の義務があるものです。制服着用は規律の一種で、警察、消防等の公的または準公的な組織では制服を用いることが多いでしょう。

 制服は職員にとっては、「私は仕事で介護しているのであって、プライベートで介護しているのではありませんよ。」と、介護職員と入居者の距離感を確保する効果があります。この距離感は、プロとして冷静に客観的、科学的な介護を行う場合には必要なものでしょう。

 制服は介護職員にとっては一つの仮面、一つの盾となるものです。さらに、同じ制服を着ている者同士の連帯感を強めたり、組織への忠誠心を高めたりする効果も期待できるかもしれません。

2.制服が告げ知らせること

 職員にとって、制服には一定の効能があることはわかりますが、入居者にとってはどうでしょうか。

 制服を着用している空間は、公的または準公的な空間です。制服を着用することによって空間、場所、組織には秩序、規律がしっかりとあるということを知らしめる効果があります。
 当たり前ですが、制服はプライベートで着る服ではありません。ですから、介護施設で制服を着用しているということは、施設はあるていど公的な空間、場所であって、入居者たちに「ここは、プライベートな空間、場所ではない。」ということを告げ知らせる可能性もあります。

 端的に言えば、「ここは職員たちの秩序ある規律ある職場なのですよ。」と入居者に告げ知らせているのです。

 入居者にしてみれば、制服を着ている職員に囲まれていると、「私は、職員たちの職場で生活をしている居候いそうろう(無為な同居人)のような立場なのだ。ここは、自分の私的な空間ではない。」ということを理解し、それに適応した言動を身に付けていくのだと思います。
 
もっとも、認知症であれば、制服の職員たちに囲まれて生活するということは、ただただ、馴染みのない、不気味で不安な気分に襲われながら生活することになるのかもしれません。

3.「すまないねぇ」

 先述のとおり、制服は秩序、規律ある公的空間を形成する一つの要素です。よって、入居者は、職員の職場で生活をしている居候いそうろうという自覚をもつようになり、入居者の定型的な基本的応答である「すまないねぇ」を導き出すのかもしれません。

 入居者は他人様の職場にお邪魔している居候いそうろうのような立場なので、この空間のあるじである介護職員の業務中に何かを頼んで、やってもらった場合、その基本的応答は、「お忙しいのにトイレに連れて行ってくれて、『すまないねぇ』」。「仕事中なのにベッドに寝かせてくれて『すまないねぇ』」ということになります。
 この「すまない」という言葉には感謝の意もありますが、謝罪「あなたたちの職場にお邪魔して、すまない」「忙しいのに助けてくれて、すまない」)の意もあるのかもしれません。多くの場合は謝罪のニュアンスの方が強いのではないでしょうか。

 制服は入居者の基本的応答「すまない」を引き出すのです。

4.私服とドレスコード(dress code/服装規定)

 私は、基本的には介護施設の制服は廃止し、私服にした方が良いと思っています。ただし、一定のドレスコード[1]は必要かもしれません。

 介護施設のドレスコードはネガティブリスト[2](negative list)にすべきでしょう。要するに「服は基本的に自由だけど、これはだけはやめてね。」のリストを作成するのです。やはり、私は保守的ですね。
 このドレスコードは定期的に職員が協同して作り変えていくとよいと思います。そして、この議論をとおして、服装についてのコンセンサス(consensus:合意)が生まれてくるに違いありません。
 また、服装についてのセンスを磨くことになるかもしれません。さらに、服装について敏感になり服装についてのセンスを磨くことは、入居者の衣類の選択にも良い影響を与えるかも知れません。
 入居者の環境を形成する職員達の服飾[3](服装+付属の小物)のセンスが良くなれば入居者にとっても楽しいこと、良いことだと思います。

 私の以前の職場(特養)の施設長はフランス人の神父でしたが、彼は介護職員に「エレガンス:elegance」を求めていました。とにかく「エレガンス、エレガンス」とみみ胼胝たこができるくらい、うるさかったのです。
 エレガンスとは上品な美しさ、優雅、気品という意味です。
 職員の服飾、立ち居振る舞いにエレガンスを求めるのは、介護施設でもある程度は必要なことなのでしょう。職員は入居者の環境の一要素ですから、それがエレガントであれば入居者にとっても良いことです。

 服飾も立派な文化なのです。

 制服を廃止しない場合でも、職員の協力を得て、「赤色の日」、「黄色の日」、「青色の日」、「紫の日」などを設けてはどうでしょうか。これは、日を決めて〇月◇日は、必ず何かしら赤色のもの身に付けるといった服飾イベントです。普段と少し違う職員のち、身なりは入居者を活気づけはしないでしょうか。

 介護施設にも遊び心がほしいです。


[1] ドレスコード(dress code/服装規定)とは、時間帯や場所、場面などにふさわしいとされる服装のこと。

[2] ネガティブリスト(negative list)とは原則的に規制がない状態で規制するもの、禁止するものについてリスト化すること。要するに「服は自由だけど、これは止めてね。服を

[3] 「服飾」は「服装」と付属して身に着ける小物などを含めた全体のスタイルを言う。

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