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街はそんなに変わらない

街の風景はかわらないもの


母校が廃校になる

ふとした気まぐれで、「生まれて育った街へ行ってみよう」と思いついた。
転職を機に車を売り、カブに乗り換えた私は、のんびり向かうことにした。

懐かしい景色が広がってくる。
小学生時代、自転車で移動していた頃の記憶を辿っていく小さな旅が始まった。

カブでのんびり、ゆったり走ってすぐに、懐かしい建物が次々と現れます。
写真に収めていくと、すぐに数十枚にも。
「現代を生きる子は、スマホがあって写真で記録できるから、うらやましいな」

10年前に亡くなった猫がとても好きだった私は、亡くなった猫の記録が当時のインスタントカメラに収められた写真しかなかったことが、今になって少し残念に思っていた。写真は探さなくてはいけないし、時系列もバラバラに保管されてしまうためだ。
動画なんて残せるはずもなかったのだが、今は動画や声まで残せていいな、と思ったことを思い出した。

パシャパシャと、撮っていると、どんどんと時間が経っていく。
カブで、ゆったり、のんびり回ろうと思っていた地元の街並み。
しかし、歩いているうちに、一つの疑問を抱く。

「あれ?こんなに小さかったっけ?」

街が小さいのだ。
まるで、シルバニアファミリーである。
いや、小学生の頃は自転車で走り回っていたんだ。
そんなに小さいはずがない。

いや、ちいさい。

驚くほど小さい。
公園も、向こうの端が見える。
この公園は、当時、「大きい公園」と言っていた。
勿論、小さい公園もある。
大きいのだ、大きいはずなのだ。大きい公園なのだから。

しかし、小さい。
子供たちがたくさん遊んでいる。
光景は当時と変わらないのに、街全体が小さく見える。
不思議な感覚だ。

「何しとるんだ」

街中の写真を写真を撮りまくっていた為か、おじさんが声をかけてきた。
どこかで見たことがあるようなおじさん。
65歳くらいだろうか。

「実は、僕はこの街が地元で、35年ぶりに来たら変わっていなくて嬉しくて写真を撮ってました」
「そら、街は変わらんわ」
「そうなんですね」
「そら、そうだわ。建物なんて、建てなおす方が大変だで。建物とか景色は変わらんもんだわ」

そう言って、しわくちゃな顔になった。
笑うとかわいい。

「そうなんですね。でも、給水塔が無くなってしまって・・」
「給水塔は、危ないで」
「老朽化ですか?」
「錆だわ。中が錆びて、水に錆が入ってまうで」
「なるほど。では、僕はあそこの学童保育で育ったのですが・・」
「学童は3年前かな、無くなったわ」
「そうですか…」
「ほら、子供が少ななったで。小学校も統合だわ」
「え?やっぱり高坂小学校なくなるんですか?」
「そうだわ。島田小学校あるでしょう?春になったら、島田小学校の生徒が高坂小学校に来て、島田小学校の場所に新しく建てるんだわ」
「それで、高坂小学校は取り壊すんですね」
「今すぐじゃないけど、3~4年後かな。建てるのに時間がかかるでな」

おじさんに近況を聞くと、愕然とした。
小学校が廃校になるような噂は、聞いたことがある。おそらく風が運んできたものだろう。

思い出と共に、小学校を写真に収めてきた。
懐かしい場所は、いろんなものを撮ってきた。

公園には子供がたくさん…
「こんなに子供がいるのに、学童も小学校もなくなるんだ」
そう思うと、急に誰かを亡くしたような気持になった。

同級生の家に行ってみたら、建て替わっていて表札も違う。
市営団地に住んでいた友人の家は、空き家になっていた。

商店街には、同級生の両親がやっていた文房具店も、毎日のように通っていた遊び場のようなおもちゃ屋も建物はあるのに、看板は無くなっていた。

人であふれているのに、モノクロに見える。
知っているうどん屋も名前が変わり、畳屋さんもあるけど営業はしていない。裁縫屋さんも《12月31日をもって閉店いたします。長らくのご愛顧ありがとうございました…》と張り紙がしてある。

時と共に変わっていく街。
大きさも小さくなって、知っているお店もなくなっているところが多い。

「それだけ、自分が成長したのかな」

そう考えると、少しは納得できるものの、さみしさは拭えない。

街の風景はかわらない。
でも、知っている街ではない。
知らない人ばかり。
お世話になった学校の先生も、学童の先生も、同級生も、お店の人もいない。

外側は変わらないのに、中身は空っぽ。
昔の思い出を話せる人が誰もいない。

人は、こうして年を取っていく。
人は、最期は一人なんだと、思い知らされた。

懐かしさで訪れた、地元の街並みは、一月の冷たい風が吹いていた。

「暖かい我が家へ帰ろう」
カブにまたがり、キーを回した。


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